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モールマンへの秘密兵器

 商人は考えが似る?

 秀吉はヌオチョモの考えを、見事に看破した。

 そしてヌオチョモも、秀吉が尋ねようとした事を先に切り出した。

 この二人、確かに思考は似通っているのかもしれない。


 でもちょっと気になる事がある。

 同じ商人でも、連合の連中はどうなのだろうか?

 ニックは明らかに違うタイプだろう。

 この二人と比べると、どうにも利益が全てという考えだとは思えない。

 ニックはある意味、自分が満足出来るかどうかという点が大きい気がする。

 その点を考えると、商人ではないけどロックに似てるんじゃないかな?

 彼も利益よりも、誰かに見てもらいたいという欲の方が強そうだし。

 あとはコバも同じ部類だろうね。

 自分が作った物が役に立つと、満足そうだから。


 連合の人間で秀吉達に似てるのは、間違いなくヤコーブスやパウエルだ。

 いや、パウエルはちょっと違うかも。

 ヤコーブスは、間違いなく同じタイプだろう。

 この三人に共通して言えるのは、自分が最優先っぽいところかな。

 別にそれが悪いとは言わないよ。

 ただ、背中を預けるのはちょっと難しいなと思っただけです。








 何故か甲高い声になるヌオチョモ。

 しかも凄いのが、彼は声を聞いた配下の者達が、何処からともなく現れた。

 そして彼が言っていたその二つのモールマン対策の品を、テーブルと一緒に運んできたではないか。



「皆さんが気になっている商品ですが、それがコチラ!」


 アシスタント、ではなくヌオチョモの部下が、テーブルの下から円筒形の物を取り出す。

 大きさ的には、ポリタンクと同じくらいだろうか。


 その円筒形の物を置くと同時に、他の部下達が僕達全員に椅子を用意していた。

 僕達は完全に、ヌオチョモ達のペースに乗せられている。



「さあ、見ていただいても分からないと思うコチラの商品。なんと、モールマンが嫌がる音を発生させる事が出来る優れ物!」


「どういう仕組みなんだ?」


「お客様、それは企業秘密でございますれば。まずは商品の説明をお聞き下さい」



 ヌオチョモの話だと、円筒の中に何やら秘密があるらしく、音が反響して発生するらしい。

 何よりなかなか有能なのが、一般的な人には聞こえないという点だ。

 そう、一般的な人にはね。



「何これ、凄い耳が痛いんだけど・・・」


「ハクト、大丈夫か?」


「ちょっと厳しいかも」


 ハクトが耳を押さえると、脂汗が流れている。

 どうやら、我慢していたらしい。



「どんな感じなんだ?」


「凄い高音を、ずっと耳の奥まで聞かされている感じ。段々と頭痛がしてきて、気持ち悪くて我慢出来なくなっちゃった」


 説明の途中で切り上げさせてゴメンと、謝罪するハクト。

 しかしこの様子だと、一般生活では使えない事が分かったので、良しとしよう。



「お客様の体質に合わせて、改善の余地があると分かりました。しかし、次の商品は素晴らしいですよ!コチラの商品は、臭いで近寄らせないのです!」


 円筒形を下げる部下達と、新たな品をテーブルの上に出す部下達。



 今度の商品は、ペットボトルみたいな容器に入っている。

 容器の色がそうなのか、それとも中身の色なのかは判断出来ないが、水色のウォッシャー液みたいな見た目だ。



「こちらの商品の使い方は、なんと中の液体を撒くだけ。凄く簡単、お子様でも出来ちゃう優れ物。お母さん、ちょっと庭先に撒いてくるね。子供がバケツに入れたモールクリンを、チョチョイと撒くだけで、あら不思議!もうモールマンは寄ってきません!」


「胡散臭いでござる・・・」


 慶次が思わず小さく呟くと、ヌオチョモが待ってましたとばかりに手を叩く。



「そんなお客様もいらっしゃるでしょう!だから今、ここで撒いてごらんにいれます」


 ヌオチョモの部下の一人が、既にバケツへ液体を移してスタンバイをしていた。

 柄杓でバケツの中の液体を撒くと、地面に染み込んでいく。



「もしかして、地面の中も効果アリ?」


「よくぞ聞いてくれました!流石はお客様、目の付け所が違う。今言った通り、地面の下まで染み込んだ液体は、そのまま効果が持続します。だから、地底から街へ襲ってくる心配もありません!」


「す、凄い!」


 太田とハクトがサクラのような反応をすると、満足気なヌオチョモ。

 しかし慶次はまだ、疑いの目を向けている。

 ちなみに僕も、慶次と同じ意見だ。

 だってそもそも、モールマン居ないから効力が分からないし。



「モールクリンも臭いは無臭。街の中で撒いても、影響はございません」


「無臭?拙者、さっきから刺激臭がするのでござるが」


「・・・」


 犬の獣人である慶次には、このモールクリンは合わない様子。

 それを聞いたヌオチョモは、一瞬無表情になった。

 だが、まだ説明の途中。

 ヌオチョモは気を取り直し、再び商品の説明を始める。



「こちらの商品を駆使した結果、私のヌオチョモ領は被害が極小。地上は超音波、地底はモールクリン。どちらも使用する事で効果は抜群。どうせ使うなら、両方使用した方がお得ですよ」


 そろそろ〆に入るっぽいな。

 だったら僕が、あのセリフを言うしかない。



「でも、お高いんでしょう?」


「こちらの商品、作るのに苦労しました。しかし、お客様の為!二点同時購入に限り、金貨二枚での販売となります!」


「おぉ!」


「マオくん、コレ安いの?」


「・・・知らない」


「尚、大量購入をして下さったお客様には、超音波発生器とモールクリンを一緒に入れられるバッグもお付けします」


 それは要らんやろ。

 超音波発生器なんか一度設置したら、もう動かさないし。



「さあ、如何ですか?」







 ヌオチョモによる、店頭販売と通販をごちゃ混ぜにしたような説明は終わった。

 やり切った顔をするヌオチョモと部下達。

 しかし僕は思った。



「コレは僕達には必要無いな」


「えっ!?駄目ですか?」


「駄目じゃないよ。街の様子を見る限り、効果はあるんだと思う」


 見た感じ、タツザマ領のようなモールマンが空けた穴も、街中では見つからない。

 ヌオチョモ領に来た時も、攻撃を受け続けた感じはしなかったし、効果はあるんだろう。



「では、どうして購入を見送るんですか?」


「答えは簡単。これはヒト族には影響は無いんだろうけど、魔族には被害がある。特に獣人には大きな影響を及ぼしているし、街中での使用は不可能だね」


「うーむ、ネズミ族も中にはキツイと感じる者も居そうですね」


 自分は大丈夫だと前置きしつつ、秀吉も長浜への購入は見送っている。

 安土も多くの獣人が住んでいるし、歩いてるだけで頭痛がするような高音と刺激臭。

 どちらも我慢出来るものではないと判断した。



「そうですか。残念です。ちなみに、他の魔族領ではどうですか?」



 他の魔族領か。


 まずは越前国は無意味だろうな。

 雪に覆われた国だからか、モールマンがほとんど現れないらしい。

 モールマンは寒さに弱いらしく、攻撃する気にもならないんだろう。


 次に越中国。

 こちらも街が、地上よりはるかに高い場所にある。

 攻め入るには、飛べるモールマンが大量に居ないと無理だ。


 若狭国も難しいか?

 超音波発生器は問題無いかもしれないけど、モールクリンが若狭国で採れる薬草や毒草にどんな影響があるか分からない。

 おそらくは見送るだろう。


 ギリギリ購入を検討するのは、上野国だけかな。



「難しいかなぁ。それに魔族は、自分達でどうにか守れるし」


「そうですか。販路を開けると思ったのに」


「魔族は駄目だけど、他のヒト族には売れるんじゃない?特に連合にはね」


 王国はどうだろう?

 若狭国同様、モールクリンが作っている野菜や果物に影響が無いと分からないと、難しそうな気がする。



「とりあえず僕から言えるのは、モールクリンの安全性の確証だね。それが無いと、若狭国と王国はまず動かないと思う」


「なるほど。直接的に人体に影響が無くとも、食べ物や口に入れる物には分からないという事ですね」


 ヌオチョモの言葉を聞くと、部下達はメモを取って下がっていく。

 テーブルも片付けられ、ヌオチョモは再び商人から領主の顔へと戻った。







「そういうわけで、このヌオチョモ領が他の領地と比べて被害が抑えられているのは、こういう理由があるわけです」


「ヌオチョモ殿の話は分かりました。しかしワタクシ、どうしても腑に落ちない点があります」


「何ですか?」


「何故タツザマ殿にも、こちらを渡さなかったのですか?」


 そういえばそうだな。

 配下であるタツザマは、スマジとの緩衝材の役割も果たしていたくらい、重要な人物だ。

 そしてトーリとの仲の悪さを考えても、西方一の強さと言われるタツザマの存在は大きい。

 こんな便利なアイテムがあるなら、出し惜しみする理由が無い。

 太田の疑問は、皆も同じだった。



「おかしいですね。先日、タツザマ領へ向けて送ったんですけど」


「先日?」


「えぇ。こちらの品、推奨していますが、完成したのは本当に最近です。不完全な物を渡して不具合があれば、それはタツザマにも悪いですから。商品として売り出すなら、尚更です」


 確かに売るなら、効果が確実に発揮されると分かっていなければ、買う人も居ない。

 それに不良品を売ったとなれば、ヌオチョモの名にも傷が付く。

 しかし、タツザマにくらいは少しくらい早く私でやっても良かったと思う。



【アレじゃね?タツザマの城、モールマンに囲まれてて、渡せなかったんじゃないの?】


 あ!



「タツザマ領へ渡しに行った者は、帰ってきたんですか?」


「いえ」


「多分その方々、モールマンにやられてますね」


「タツザマ殿の城、大勢のモールマンに囲まれていたでござるな」


「なんと!一歩遅かったか」


 遅くはない。

 別にタツザマ、死んでないんだから。



「あの〜、僕思ったんだけど」


「どうした?」


 ハクトが申し訳なさそうに、手を挙げる。

 何か気になる事があるらしい。



「これは僕の憶測ですよ?怒らないで下さいね」


「分かりました」


「この超音波発生器とモールクリン、効果はあると思います」


 ハクトがそう言うと、笑みを浮かべて頷くヌオチョモ。



「それで気付いたんですけど。じゃあここを襲うはずだったモールマンは、何処へ行ったんですかね」


「・・・タツザマ領ですね!」


「なるほど!だからタツザマ殿の城には、多くのモールマンが居たのでござるか。納得したでござる」


 慶次の言葉に、ハクトはあくまでも自分の憶測であって、事実かは分からないと繰り返した。

 そりゃそうだ。

 ハクトの言ってる事が事実なら、ヌオチョモは自分の手で、一番頼りにしているタツザマを苦しめたという事になるのだから。

 気まずそうな顔をして、チラッとヌオチョモを見るハクト。

 僕達もヌオチョモが黙っている事に、気まずさを覚えた。



「ヌオチョモ殿?」


「なるほど。私が追い出したモールマンのせいで、彼が苦しんだという事ですね。後程にタツザマへ使者を出して、謝罪の気持ちと復興の為の手助けを約束します」


 切り替えが早いな。

 この辺は商人気質なところが、良かったのかも。



「しかしそうなるとこのアイテム、使いづらくないか?」


「そうですね。自分の所から他に追いやっていると、考えられてもおかしくないです」


 僕と太田の言葉に、ヌオチョモは深く考え込んでしまった。

 良かれと思ったのに、被害を押し付けているようなもの。

 そう言われてしまうと、返す言葉が無いのかもしれない。

 しかし、秀吉はそうではないと言い始める。







「これ、使えますよ。例えば誘き寄せたい場所まで誘導するのに、とても便利です。街から離れた場所だけ、超音波やモールクリンの空白地帯を作れば、モールマンはそこに出ざるを得ない。掃討作戦を行うには、ピッタリの道具と言えます」

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