商人領主
クリスタルは金貨五十枚。
オリハルコンは金貨八百枚。
じゃあ魂の欠片は?
高いでしょ。
そりゃあ変わった物だもの。
さあ、いくらだと思う?
正解は銅貨五枚でした〜。
泣いても良いですか?
クリスタルやオリハルコンが、高価なのは分かるんだよ。
クリスタルはお市が管理していてあまり出回らないし、オリハルコンなんかは伝説の鉱石だ。
むしろオリハルコンでも、持ってるだけ凄いレベルだと思う。
しかし、しかしだ!
魂の欠片は、お金じゃ買えないでしょう。
だって魂の欠片だよ?
僕達の命だからね。
まあ見た目はその辺に落ちてる、綺麗な石と変わらないんだけど。
そりゃどんな価値があるなんて、分かるはずもない。
敢えて言えば、ヌオチョモの子供は見る目があると言いたい。
まあね、分かる人にしか分からない価値があるという事だよ。
兄もこう笑ってたよ。
アハハ!
銅貨五枚だって!
俺の魂の欠片、銅貨五枚だってよ!
俺の価値、欠片全部合わせても銅貨十五枚くらいか。
受ける〜!
ってね。
声では笑ってたけど、兄は本音がダダ漏れだからなぁ。
実はめちゃくちゃ凹んでました。
まず服装が違う。
そして口調も。
何よりも大きな違いは、彼が発している雰囲気だろう。
さっきまでの彼は、雇われ店員の空気を纏っていた。
店長といった感じでもなく、あくまでも店員だ。
しかし今思い返せば、少しヒントはあったのかもしれない。
魂の欠片は、娘が拾ってきた物だと言っていた。
普通の店員ならば、勝手に店先にそんな物を置けるはずが無い。
こんな権限があるのは、店を取り仕切る者だけだ。
「それでは改めまして。私が此処の領主を務める、ヌオチョモと申します」
深々と頭を下げるヌオチョモ。
やはりその仕草は、騎士というよりも商人に近いものを感じる。
店先で大口の顧客に頭を下げる姿を、想像してしまった。
しかし、そうなると気になる点がある。
「秀吉、お前やっぱり会ってるんじゃないか」
「そうですね。何十年前の話になるか、ちょっと覚えてないですが。私が長浜へ訪れた際、領主である木下様自ら、お相手してくださいました」
相手は覚えていても、本人が覚えていない。
たまにある事だが、今回のような件は普通なら忘れないと思うんだけど。
そんな中秀吉は、気まずそうな顔をしつつ口を開く。
「一つ、一つだけ言い訳させてもらって良いですか?」
「どうぞ」
「今彼は、何十年も前だと言いましたよね?私もそれは記憶しています。でもね、見た目がそこまで変わってないんですよ!普通なら、息子か何かだと思いませんか!?」
「言われてみれば」
「ですよね!?魔王様もそう思いますよね?」
僕が同意したからか、他の者も巻き込もうという算段らしい。
しかし、秀吉の言い分は分からんでもない。
何十年という言い方だと、短く見積もっても二十年。
彼が二十代で長浜へ来ていたとしても、四十は過ぎているはず。
言葉遣いからして、もっと上の可能性が高い。
だけど、彼の見た目はどう見ても三十前後だ。
白髪も無くはないけど、どう見てもまだこれからの人間に見える。
「本当に秀吉と会った事のある、ヌオチョモさん?息子や甥とか、そんなんじゃなく?」
「違います。もうすぐ還暦になりますよ」
「か、還暦!?」
「絶対に嘘でござる!拙者の兄と、同じくらいに見えるでござるよ!」
又左も確かに若く見える方だが、彼はレベルが違うな。
これだとイッシーとか佐藤さんの方が、年上に見えそうな気がする。
「フフフ、ありがとうございます。これもアンチエイジングのおかげですね」
「アンチエイジング?」
たまにテレビで聞くような単語だが、そんな物をこの世界で実行している人は、見た事が無い。
もしかしたらセリカ達はしているのかもしれないけど、ああいうのは人に見せるものじゃないし。
あ、ベティ辺りならやってるかも?
「アンチエイジングって何?」
「いつまでも若々しくなろう、歳を取っても元気で居ようって考えだよ」
ハクトに聞かれたから答えたけど、これで合ってるか僕も分からない。
一応他に知っている人が居ないか、チラ見で周りを見たけど、どうやら誰も知らないらしい。
「素晴らしいですね。アンチエイジングを知っている魔族の方など、居ないと思っていました」
「どうして?」
「え?皆さん魔族は、私達と寿命が違います。わざわざそんな事をしなくても、若々しく居られるじゃないですか」
あ、そういえばそうだった。
見た目が一定になると、そこからあんまり変わらないんだよね。
エルフなんかが良い例だったのに、まさかそんな自分がアホみたいな事を聞くから、ヌオチョモもちょっと不思議に思ったみたいだ。
「しかし、アンチエイジングというのは凄いでござるな。こんなに若く見えるのが、普通なのでござるか?」
「どうなんでしょう?私が特別なのかもしれません」
「ちなみにアンチエイジングって、何をするんですか?」
待ってましたと言わんばかりに、ヌオチョモがハクトの前に出る。
「それはですね、まずは毎日の生活習慣の見直し。食生活の改善に、適度な運動習慣等、様々な事があります。ストレス発散も必要ですね」
「そ、そうなんですか」
「でもそれって、拙者達が普段からやっている事のような」
確かに。
生活習慣は分からないけど、食生活はたまにラーメンやコッテリした物を食べるくらいで、基本的にはバランスの良い食事だと思う。
運動に関しては普段から動いているし、ストレスも溜まってるかと言われたら、そんな事は無い。
【俺は溜まったけどな。俺の魂の欠片、銅貨五枚はいただけない・・・】
あ、はい。
そうですね。
「魔族の方は、皆さんそうなんですかね?」
「そんな事は無いかな」
全員が正しい生活をしているかと言われたら、即否定出来る。
真っ先に思いつくのは、仲間に任せて仕事もしないタヌキが居る。
その仲間達も遅くまで酒を飲んでいるし、アレこそ悪い見本だろう。
「マッツンが居るでござるな」
「マッツンさん達だね」
「マッツン殿ですな」
やっぱりマッツンの名前が挙がる。
アイツ、何年かしたら老けるんだろうか。
「話は変わりますが、ウチのタツザマがお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ」
会社の上司みたいな挨拶だな。
ん?
上司?
「ところでヌオチョモさんは、オケツとハッシマーの戦いには参加しませんでしたね」
「えぇ、しませんでした」
「タツザマ殿はハッシマーに協力していたのに、何故でござるか?」
「・・・企業秘密ですね」
うん?
企業?
何かが引っ掛かる。
「簡単ですよ。タツザマ殿はハッシマーに、ヌオチョモ殿は裏から、帝にでも資金を送っていたのでしょう?」
「は?」
秀吉が突然、よく分からない話を言い始めた。
全て分かっているかのような、そんな顔をしている。
「ワタクシ達にも分かるように、お話ししてもらって良いですか?」
「・・・よろしいですか?」
「どうぞ」
ヌオチョモの顔色を伺い、秀吉は承諾を得て話を続ける。
「要は、両方に手を貸していたんですよ。タツザマ殿を使ってハッシマーに手を貸し、ヌオチョモ殿は帝に戦の為の資金提供をしていた」
「何故、そのような面倒な事を?」
「例えば両者に手を貸さずに我関せずと決め込んだ場合、後々に難癖をつけられる可能性があります。しかしどちらかに手を貸して、負けてしまった場合は?」
「敗軍の将でござるな」
「そうなると、勝った軍に色々と請求されるでしょうな。ヌオチョモ殿であれば、莫大な金額か珍しい品々か、その辺りでしょう」
騎士王国は他国との接触がほとんど無い。
ハッシマーは帝国に色々と手を回していたけど、帝は全く外国の事なんか知らない。
オケツも越前国に来たくらいが、良いところだろう。
そうなると、彼の持つ逸品は向こうからしたら、垂涎の品々かもね。
「片軍に肩入れするのは、賭けになってしまう。そう考えると、両方に手を貸した理由は分かりますよね?」
「タツザマはトキドの口添えもあって、罰も軽かったって聞くね。でもさ、もしオケツが負けてたらどうなってたの?」
「その場合は簡単ですよ。ヌオチョモ殿はお金を工面しただけ。帝から頼まれて断りきれずに出したのだと言えば、そこまで問題にはならないでしょう。ハッシマーの性格なら、帝を倒してくれてありがとうとでも言っておけば、ヌオチョモ殿を罰する事は無かったと思います」
「なるほど」
「ちなみにトキド殿が口添えしなくても、ヌオチョモ殿が帝にしていたと思いますよ」
なるほど。
これは確かに理に適っている。
あまり考えていなさそうな慶次ですら、唸るくらいだ。
これが政治か!
「ハッハッハ!流石は木下様ですな。すぐに看破されてしまいました」
「私とて長浜の領主。それに長浜は貿易都市ですから。ヌオチョモ殿と考えが似通っていても、おかしくはありませんよ?」
むう。
狸と狐の馬鹿し合いを見ているような気分だ。
「さて、この話はここでおしまいです。本題に入りましょう」
「御所の動向ですか?」
「流石はヌオチョモ殿」
パンと手を叩き、ヌオチョモの話を流す秀吉。
僕達には理解出来ない政治的な話をされたからか、場が静まり返ったのが原因だろう。
そして秀吉が口にした本題という話も、ヌオチョモは秀吉と同じようにすぐに理解していた。
「御所に危険はありません。何故なら東側のモールマンは、意外と行動が静かだからです」
「静かというのは?」
「急襲してきた当初は後手に回っていたのですが、オケツ殿が発令した避難訓練が思いのほか効果が大きかったようです」
避難訓練か。
僕が教えた話を、アイツもやったんだろう。
こっちは安土とフランジヴァルドのみだけど、オケツは騎士王国全土だ。
規模が全く違うのによく出来たものだと、感心してしまった。
「東側が無事でも、西側は?」
「厳しいですね。隣のトーリ家は大きな被害が出ています。ま、私達には関係無い事ですが」
どうやらヌオチョモとトーリは、仲がよろしくない様子。
だいぶ後になってタツザマから聞いた話だが、トーリは西側で最大規模の騎士らしく、偉ぶっていて評判が悪いという。
昔はボブハガーと覇権を争ったくらいで、それこそ西の王者といった風格があったらしい。
とは言っても今では、タツザマやスマジという西側でも強くて有名な騎士達には、トーリといえど強気には出られないみたいで、代わりにヌオチョモのような武力では勝てる相手には、上からの物を言ってくるという話だった。
「ちょっと待って下さい。隣のトーリという領は、被害が大きいんですよね?だったら何故ヌオチョモ領は、何故被害が少ないんですか?」
「そ、そうですよ!タツザマさんの所だって、被害が大きかったのに」
それは僕も思った。
マル達スマジ領民なんか、被害がタツザマの比ではないし、隣のトーリも酷いという。
じゃあタツザマとトーリに挟まれたヌオチョモは、どうして被害が少ないんだ?
そう思った僕達は、まんまと彼に乗せられたらしい。
彼は領主の顔から、突然さっきの店員の顔に戻った。
「良いところに気付いてくれました!私達ヌオチョモが、モールマンの被害に遭わない秘密。それはコレ!モールマン専用、撃退超音波発生器。そして極めつけはこちら!モールマンの嫌いな臭いを放つ、このモールクリン。この二つがモールマンを近付けさせないんですねぇ」




