ヌオチョモ領
空を飛ぶ快感。
それは何事にも得難い経験だ。
なんて言うと思ったか。
一応僕も、タツザマに続いて空を飛んでみたんですよ。
ワイバーンに変身した事で、手を動かすと空が飛べたんだよね。
でも、ワイバーンになって一つ分かった事がある。
めっちゃ疲れる!
腕がめっちゃ疲れる!
ハッキリ言って、あんなのずっと続けられない。
普通、ワイバーンってどれくらい飛べるんだろう?
トキドのワイバーン隊は訓練を重ねて、特別だと聞いている。
野生のワイバーンとは違うのだ。
でも僕は、トキドのワイバーンとは違って訓練なんかしてない。
普通のワイバーンと比べたい。
何?
鍛え方が甘いから?
僕は頭脳派ですので、鍛えるとかしないんです。
まあ確かに、空から見る景色は最高に気持ち良いよ。
でもね、腕を振って汗だくになりながら見ても、楽しくないのよ。
全力疾走しながら、景色を楽しめる人は居ますか?
居ないでしょ?
僕はそれが言いたい。
ぶっちゃけ空の景色を楽しむだけなら、ツムジやコルニクスという頼もしい仲間が居るんで。
決して疲れるから面倒とか、そういう理由じゃないです。
秀吉にマルとタマ。
合計で七人になった時点で、どちらにしろトライクはキツかったのかもしれない。
今はトライクを積載し、居住空間広めな荷台を完備した大型トラックで、ヌオチョモ領を目指している。
ヌオチョモ領はタツザマ領と隣接した領だ。
この二つの領地は領主の関係上、関所は存在しない。
その為、街道を通っていけば迷う事無く到着するらしい。
しかもこの街道が、とても整備されていて快適だった。
この大型トラックでも余裕で通れる道幅があり、下手な運転でも何かにぶつかるという心配は無い。
そんな余裕ある旅路の途中で、秀吉がある事を語り始める。
「ヌオチョモという名で思い出したのですが、彼の地はかなり変わっていると聞きますね」
「そうなんだ。でもどうして秀吉が、ヌオチョモ領の事を知ってるの?」
「実は私、領主と会った事があります」
「えっ!?」
ヌオチョモと会った事がある。
確認をしてみたが、やはりテンジに領主を譲った後ではなく、長浜の領主時代の話だった。
しかし、それはおかしな話だ。
何故なら、ケルメンという国は鎖国状態にあり、他の国々と関わりを持ちたがらない性質だった。
それなのに、領主である秀吉と会っていると言うのだ。
領主だった頃と考えると、秀吉だって長浜の外ではないと思われる。
となると、ヌオチョモ自ら長浜へ訪れているというわけだ。
「かなり昔の話なので、すっかり忘れていました。魔王様の変わり者という言葉で、思い出しましたよ」
そんな話、忘れるかね。
結構重大な話だと思うんだけどな。
「それで、会った時の事は覚えているんだろう?」
「勿論です。確かにあの男は、変わり者でしたね」
「何故?」
「分かりやすいのは、騎士であるはずなのに、太刀を持っていませんでした」
「え?武器を持たないの?」
首を横に振る秀吉。
すると手をグーにした後、人差し指と親指を立てる。
「・・・拳銃?」
「その通りです。彼は太刀よりも、火器を重要視していたみたいですね」
なるほど。
そりゃ変わり者だわ。
騎士王国って名前なんだから、持つなら剣か槍。
まあギリギリ斧とか棍棒とか、そういった武器だと思う。
なのに時代を飛び越して拳銃って。
お前は坂本龍馬か。
「剣の達人だったりは?」
「苦手らしいですよ」
前言撤回。
龍馬にはなれなかったようだ。
「というか、秀吉に会いに来たんだよね?何しに長浜まで来たんだ?」
「私にというよりは、貿易の責任者に会いにといった様子でしたよ。まあそれは、私なんですけど。タツザマ殿も話していましたが、彼は商売の方に力を注いでいたようで。魔族の貿易都市である長浜と、取引がしたいと言って来たんです」
「それ、騎士王国的にはアリだったのかな?」
「どうなのでしょう。そこまで私も存じません」
そりゃ他国の事なんだし、知るわけないか。
しかし、秀吉の話には続きがあった。
「じゃあ長浜と取引をしに、わざわざ国を出てきたって感じなんだ」
「それが、長浜の後は帝国。そして連合と王国にも顔を出すと言っていたんですよね」
「ハア!?」
「長浜から後の話は知りませんが、おそらくは他の国々も回ったと思いますよ」
その頃はまだ、帝国が魔族とも敵対行動を取っていなかったらしい。
なので自由に往来が出来たようで、旅もしやすかったとの事。
それでも魔物の存在もあるし、危険が無いわけではない。
更に言ってしまえば、長期間自分の領地を空けるというのはどうなんだろうか。
「か、変わり者だなぁ」
「だいぶ昔の、何十年も前の話ですからね。今も健在かは、不明です」
帝国が魔族とも、上手くやっていた頃だもんな。
ヒト族の寿命は魔族と比べると短いし、もしかしたら亡くなってたり代替わりしてるかもしれない。
「顔くらいは覚えてるんでしょ?」
「見れば分かるかと」
だったら領主に会いたいと顔を出せば、秀吉ならすぐに会えるかも。
とにかく、その変わり者に一度会ってみたいな。
整備された街道を抜け、僕達はとうとうヌオチョモ領の都へとやって来た。
やはりヌオチョモという男、少し変わり者のようだ。
まずこの都、城が無い。
誰かに攻められる事を、想定していないらしい。
代わりにあるのは、御所と同じくらい立派な建物だ。
そして街並みも、他の領地とは違いがかなりある。
何が違うかというと、建物に共通性が無い。
和洋折衷と言えば良いのか?
日本式のような建物の横には、アメリカ等にある平屋の大きな家があり、その前にはフランスの古いアパルトマンと呼べるような建物になっている。
「な、なんか変な街だね」
「複雑過ぎて、目が回りそうでござる」
慶次の言いたい事も分かる。
この街、建物が多過ぎるのだ。
元々建っていた場所の隙間を縫って新しい建造物を作ったような、そんな街並みだ。
裏路地も多く、人目につかない場所も多い。
ハッキリ言って、あまり治安は良くない気がする。
気がするのだが、今は違うらしい。
「全然人が居ないね」
「おかしいな」
「何が?」
「タマが聞いたのは、ヌオチョモは人が多くて賑やかだって。なのに、開いてるお店の方が少ないよ」
確かに。
商売だというヌオチョモが領主なら、もっと活気があってもおかしくないはずなのに。
ちなみにマルとタマはスマジの人間だが、昔はヌオチョモと揉めていたらしい。
しかし、それも過去の話。
タツザマの台頭でそれも難しくなり、極力争いは避けるようになっていたとの事。
そして結果的に、スマジもタツザマもハッシマーに協力して、新たな道を模索しようとしていた。
結果は両者、大きく分かれてしまったけど。
トキドがタツザマではなくスマジと戦っていたら、一緒に地底に行ったのはスマジだったかもしれない。
「あ、目が合った」
ハクトが開いている店の方を見ていると、店先に出ていた店員と目が合ったという。
すると店員が、音も無く近付いてきた。
「す、凄いでござる!あの身のこなしは、センカク殿と同じくらいの達人でござるよ!」
それは無いだろ。
と思ったのも束の間。
慶次の言っている事が、嘘ではないと証明される。
「アレ?店員が居ないぞ。何処へ行ったんだ?」
「いらっしゃあい。何かお探しですかあ?」
「ぬおあぁぁ!!」
気付くと真後ろに立たれていた。
まさか、本当に達人!?
「ふむふむ。アナタ方、異国の人だね。魔族が来るのも久しぶりだ」
「えっ!魔族が騎士王国に来てたの!?」
「ヌオチョモは特別なんだよ。様々な人が来てるから。そちらの旦那は、自分が丁稚の頃に見た気がするよ」
「丁稚?」
「雑用みたいなものさ。勘違いじゃなければ、何処かで会っていないかな?」
秀吉を見て、そう言う店員。
しかし秀吉は、ヌオチョモと会っていても長浜での話だ。
彼が若い頃に長浜に行っていなければ、会ったというのは勘違いだろう。
「人違いじゃないですか?私はヌオチョモ領へやって来たのは、初めてですよ」
「そうでしたか。間違えてしまったようで、すいません。それで、何かご要望の物とかあります?」
欲しい物と言われてもなあ。
特には・・・
「調味料はありますか?」
「ありますよ!砂糖に塩、お酢もあるし醤油もある。味噌は赤味噌白味噌、合わせ味噌も揃ってる!ついでに言えば、七味もオリーブオイルもあるよ」
出店で聞くような言い回しで、何故か聞いていて心地良い。
子供の頃を思い出すのか、懐かしい気持ちだ。
「へえ、本当に色々あるんですね」
「自慢じゃないけど、この店に置いてない物は無いよ!」
凄い自信満々だな。
しかし、そうなると絶対に無い物を聞いてみたくなった。
それは僕だけじゃなく、慶次や秀吉も同じらしい。
「調味料以外でも良いの?」
「そりゃ勿論」
「ふーん」
僕達三人は、顔を合わせている。
別に勝負をしているわけではないが、一人一つずつ何かを聞く事にした。
「では私は、クリスタルが気になるんですが。置いてありますか?」
おいおい。
いきなりぶっ飛んだ物を聞いたな。
そんな物があったら、帝国とかが買いに来ていてもおかしくないだろ。
「クリスタルかぁ・・・」
あちゃーと言いながら、額を押さえる店員。
秀吉は僕と慶次を見て、勝ち誇った顔をしている。
そりゃいきなり、ズルイ質問だろう。
「良いサイズが、今置いてないんだよね」
「へ?」
「親指サイズならあるんだけど」
「あるの!?」
店員は指輪を入れるような箱を開けると、中には確かにクリスタルが入っていた。
これには秀吉も、開いた方が塞がらない。
「お、おいくらで?」
「なかなか手に入らないんでね。高いですよ」
金貨五十枚という金額だが、やはり相場より高い値段設定だ。
手に入らないから、高いのは仕方ないだろう。
あるだけ凄い代物だ。
「買わないんですか?」
「え、えぇ、ちょっと高いかな・・・」
秀吉は、おもいきり項垂れている。
続く慶次は、これまた吹っかけてた。
「拙者、オリハルコンが欲しいでござるな」
「オリハルコン!?あの伝説の鉱石の?」
「流石に無いでござろう?」
自信満々に聞く慶次。
これは明らかにズルイ。
伝説だと言っているのに、そんな物が手に入るわけが、
「お客さん、お金あるの?」
「へ?」
「ほら、我が家の家宝だよ。そうだなぁ、金貨八百枚でどうだ!」
まさか、本当に持ってやがった。
僕達は魔力を通して、偽物じゃない事を確認する。
笑えない事に、本物だった。
「き、金貨八百枚でござるか。さ、流石に払えないでござるな・・・」
秀吉同様に項垂れる慶次。
二連敗を喫した僕達は、もはや勝ち負けよりも何が無いのかという事の方が大きくなってきた。
今ではもう、秀吉と慶次の三人で、相談をしている。
「この店、おかしいだろ!」
「凄い店でござる」
「しかし、絶対に何かは無いはずですよ。それを探しましょう!」
欲しい物を探すのではなく、置いてない物を探す。
後から思うと、タチの悪い冷やかしである。
「オリハルコンがあるから、アポイタカラは?」
「いや、ありそうでござる」
「私も同意です」
即否定する二人。
自分で言っておいて、僕も同じ意見だった。
「信長の刀とかは?」
「それは神宝なので、祀られていて売ってないです」
「売ってたら偽物どころか、魔王侮辱罪で死刑でござるよ」
そんな罪があるのか。
僕、しょっちゅう侮辱されてる気がするけど。
【なあ、良い事思いついたんだけど】
兄が何かを言っている。
絶対に大した物じゃないから、期待しないで聞いておこう。
【コレなんだが・・・】
なっ!?
こ、コレは確かに無い!
あったらおかしい!
・・・勝ったな。
「ねえ、コレと同じ物ある?」
そう言って見せたのは、この世界に数えるだけしかない物だ。
売っていたら、すぐに買わなくてはならない。
僕達は彼を信用して、それを手渡した。
彼はそれを見て、少し考えている。
そして、彼は言った。
「あるよ」




