旅立ちの時
(藤田海翔視点です)
梨音と最後に会った時、僕は梨音にひどいことを言った。
あの時、僕はどうかしていたんだ。
あの海岸で、目の前で、落雷の衝撃で。
いや、そうじゃないのかな。梨音が、実は自分の知らない誰かのように思えて混乱していたんだ。
まさか、あれが梨音との最後になるとは思っていなかったんだ。
梨音が、いなくなってしまうなんて・・・。
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2か月後、コンビニで梨音を見かけた時、僕は驚いた。
驚いたけど、それ以上に嬉しかった。
梨音は交通事故で入院したと聞いたし、見舞いに行きたくても面会謝絶だと聞いた。
そんなにひどい怪我なのだろうか、と心配したし、後悔した。自分の言ったことで梨音を傷つけてしまったことが、交通事故の原因になったんじゃないかとも思った。
そうして僕は気付いたんだ。
僕は梨音が好きだった。
妹みたいに思ってはいたけれど、年下だったけれど、僕は好きだったんだ。
恋人にしたいっていうのとはちょっと違うかもしれないけれど、僕は梨音を守りたかったんだ。
目の前に、怪我の跡もなく元気な姿で梨音が立っていた。
僕は素直に嬉しかったんだ。一緒にいた、フランス人形のような美少女とか、梨音の友人だと聞いた少女とかも気になったけど、そうやって誰かと一緒に笑っている梨音が、眩しく見えたんだ。
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夕方、再び梨音に会えた時、僕は、そのことを伝えた。
もう二度と来ることが無いと思っていた機会だったんだ。
次の機会は無いかもしれないんだ。
「梨音、僕は、君を守りたい」
コンビニ裏の公園で、僕は梨音の目をしっかりと見て、そう伝えたんだ。
「カイ兄様。その気持ち、嘘は無いですね?」
え?なに?そう答えてくるとは思ってなかったけど・・・?でも、嘘はないよ。僕は梨音を守りたいんだ。
「僕は、絶対に梨音を守る!」
「わかりました。でも魔法が使えないカイ兄様は前衛で剣士になるしかありません」
「う、うん?剣士・・・剣士になろう。僕は梨音のために」
「梨音のための騎士になるというのですね?梨音のために命を賭けると誓いますか?」
「ああ、僕は誓うよ」
梨音は、そういう子だった。そういう厨二病的なことを言う子だったんだ。
「私はレナータ・ディ・スカファーティー。神の名においてフジタカイトをクラタリオンの騎士とする。この誓いは決して破られることは無い」
そう言うと梨音は僕に跪くように言った。僕は素直に梨音の前に跪く。
「私は、14日後に旅立ちます。それは梨音に会うため、この体を梨音へ返すための旅です。カイト、あなたは梨音に命を捧げると、今、誓いました。あなたには我々に同行することを許します」
「う、うん?」
話の内容がわかるまでに1週間かかった。
話がわかった頃には、取り返しがつかない状況になっていた。
つまり、僕は、梨音を・・・いや、レナータのために戦う剣士になっていた。
まさか、本物の剣を渡されて、それで訓練をしろ、と言われるとは思っていなかった。訓練をするために、空中に出来た歪みみたいなものを通って、見たことのない気色悪い、動く植物と戦うことになるとは思わなかった。
まるで出来損ないのRPGみたいな世界へ連れてこられるとは思わなかった。
何もかも思ってもみなかった。
まるで意味が分からなかった。
ただ一つのことを除いては・・・。
真剣にやらないと死ぬ。
それだけは確かなことだった。レナータは、本気で僕を剣士にしようとしていた。
そう。いつだって僕は理解が遅いんだ。
あの日、あの雷を梨音が放った日。僕は聞いていたはずだ。彼女の名前はレナータ、異世界の住人。目の前で破滅級の魔法を見せられて。
幸運だったのは、僕が訓練で連れてこられた世界が、剣士にとってチートな設定になっていたこと。鍛えれば鍛えただけ実力になって打撃力も防御力も上がっていく仕様になっていたこと。
そして、後からレナータに聞いたことだけど、日本とは時間の流れが違っていたこと。
僕は二か月半を異世界で過ごした。
毎日、訓練をし続けた。
最初の1週間は、まだ、バイトを無断欠席している、とか、親が心配する、とか夏休みの出校日が、とか考えていたけれど、10日を過ぎたあたりからどうでもよくなった。
いやだって、本当に命が掛かっていたんだもの。
目の前の魔物を倒さなくては、生きていけないんだもの。
二か月半後、レナータは満足そうに僕に言った。
「ようやく使える程度にはなりましたね。70日間でやれるところまではやりました。あとは本番の旅に出るだけですね」
え?これ、訓練って、え?ここから本番?
まだ帰れそうにはないらしい。
両親は心配しているだろうか。
いちおう、置手紙はしてきたけれど・・・家出したとか思ってるんだろうな・・・失踪届とか出されてたりするのかな・・・。
70日間で、僕はレナータが異世界の住人で、梨音と心が入れ替わったんだっていうことを理解したよ。
さすがにね、それだけ一緒にいれば理解するし。
というか、自分が異世界転移しちゃってるし。
そして、レナータが行こうとしている旅が、自分を取り戻すための旅だってこと。それは同時に梨音を取り戻す旅になるっていうこと。
「カイト、あなたは梨音を取り戻しなさい。あなたの梨音への気持ちはよくわかりました。好きになった女性を救い出しなさい」
「ああ、僕は彼女を救い出す!」
「さあ、旅立ちの時です、勇者よ!」
そう言って、レナータは悪戯っぽく笑った。その笑顔は・・・本当に素敵だった。
いつか、僕は、梨音を取り戻し・・・その笑顔を再び見たいと思う。




