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冒険の始まり~準備

 夕方、家に帰ってきた。

 夕飯を家族とナタリーと一緒に食べた。そこで、私は夏休みの間、2週間後からの旅の話をした。

 家を空けることになるから、話はしておかないと。


 もちろん、異世界の魔物の棲む森を探検するとかっていう話をしたわけではないよ、うん。ナタリーに話を合わせてもらって、北海道で探検旅行をする、という架空の話をしたんだ。その架空の探検旅行プランについては、レナータ含めて師匠、ナタリー、私の4人で考えたよ。北海道へ行って、その大自然の中でキャンプ生活をしたり登山、釣りなんかをする計画だ。完全に架空の話なんだけど、生前、北海道大好きでツーリングなんかに行っていたナタリーの話は、妙に現実感があって、最後には本当に行く旅行の話をしている感じさえしたよ。


 そんなわけなので、両親に説明するのも本当らしい感じで出来た。

 うん、少し罪悪感はあったけど、細部までしっかりと設定した架空の旅行プランなので、話自体はスラスラと・・・。ナタリーも旅の素晴らしさについて語るし。

 架空の設定では、引率者がいて、安全な冒険を体験させてくれる、とか、大自然に触れる貴重な体験だ、とか、旅行代金はナタリーが今回のお礼に全額出してくれる、とか、って話した。


 けど、さすがに放任主義といっても、夏休みの半分以上の日程で旅行に出ることについて、即決で許可は下りなかった。

 最後はナタリーがお母さんの疑問に答えていく。


「都代だからねえ。よそ様の迷惑にならないかい?」

「そのあたりは大丈夫です。私が一緒にいますし、都代ちゃんは結構アウトドア派ですわ」

「それに旅行代金を払ってもらえるなんて虫が良すぎだよ」

「いえいえ、こちらに滞在させていただいたお礼です。それに、私もお友達の都代ちゃんと一緒の方が頼もしいです」

「あとは都代の夏休みの宿題だって終わらせなきゃだし」

「大丈夫ですわ。あと2週間ありますから。ね?都代ちゃん?」

「う、うん。が、頑張るよ・・・」

「声が小さいよ?都代?」

「う、頑張る!」


 しぶしぶ両親の許可が出る。

 宿題が終わらなかったら、北海道に持って行ってやる、という条件が付いた。


 うわ・・・やばいわー、それ。

 魔物の森で夏休みの宿題とか洒落にならんわー。



 翌日から忙しくなった。

 ナタリーも一度、異世界に帰ったよ。あちらも事情を説明してくる必要があったし、武器を含め、異世界でしか調達出来ない装備のこともある。帰りは、私と一緒ではなく、レナータが護衛役を引き受けてた。

「いいな、私も行きたかったのに」

レナータが首を振る。

「都代は夏休みの宿題を頑張って。あと、マウリツィオ借りるわね」

師匠まで行ってしまった。

 もう、夏休みの宿題、するしかないじゃないか。


 数日後、ナタリーが顔を出したよ。

 宿題の難しいところを少し手伝ってくれた。


 ナタリーは日本で必要なものを揃えると言っていた。

 換金は、線路近くの家のおばあちゃんを頼ったみたい。後で聞いた話では、おばあちゃんだけでなく、その知り合いとかにも紹介して貰っていろいろと買ってたみたい。


 さすが元営業マンの貴族令嬢だよねえ・・・。

 社交スキルが半端なく高いよ・・・。6歳という年齢の壁を簡単に超越していたよ。

「ナタリーちゃんはかわいいからなあ・・・それでみんな言うこと聞いてしまうんや」

 なんかおかしな関西弁風なしゃべり方でマウリツィオ師匠が説明してくれたよ。


 レナータも前衛の剣士を一人スカウトする、って言ってた。

 パーティーメンバーが一人増えるのかな。

 確かに、魔術師3人のメンバーではバランスが悪過ぎるからね。いちおう、レナータは剣士ではあったらしいけど、体が中学生の梨音だから、大した攻撃力ではないらしい。


 そうやって、時々、やってきて話をしてくれるんだけど、私は基本、宿題を終わらせるために家に缶詰だった。

 まさかね、本当に2週間で宿題を全部やるとは思わなかったよ。それもズル無しでさ。

「都代のためですよ。学校の勉強はしっかりしとかないと大人になって後悔するんですよ」

「ナタリー、そんな大人みたいなこと言わないでよ」

「何言ってるんですか、私は一度、大人になったことがあるんですよ?」

「いや、それはそうだけどさぁ・・・」


 そんなこんなで、2週間はあっという間に・・・あっという間では無かったな・・・辛く厳しい2週間だったよ・・・。

 そして8月に入った。

 

 駅でお母さんに見送られて、私はリュックを背負った姿で電車に乗った。

 目的の駅のホームでナタリーと落ち合う。折湊市からは出てはいなかった。二駅くらい乗っただけだ。レナータは先に行っていると連絡を貰っていた。

 

 向こうの世界で、剣士の教育と転移部屋の整備をしているのだとか。


 いやあ、私、何の役にも立ってなくね?

 こんなに至れり尽くせりで異世界冒険に出掛けていいんだろうか?というか、私、本当に必要ですかね?


 駅を出た。

 田舎の駅だった。駅の裏は、すぐに山だった。

 折湊市は、原子力施設によって発展した街だから。街を出たら即、山なんだ。


 日本は蒸し暑くて、太陽は駅前のアスファルトをフライパンみたいに熱していた。

 蝉の声がジンジンと耳に響く。

「待ち合わせ場所まであと少しですよ。頑張って、都代」

「うん、リュック、重い・・・」

「あ、持ちましょうか?荷物」

「だ、大丈夫。年下のナタリーに荷物持ってもらうわけには・・・って、あれ?ナタリー、荷物は?」

「え?アイテムボックスの中ですけど?」

 う、そうだった。

「お言葉に甘えます・・・荷物、預かってください・・・」

 ナタリーのアイテムボックスに消えていく私のリュック。手ぶらになって少し楽になったよ。

「あ、レナータいましたよ」

 言われて見上げると坂の上でレナータが手を振っていた。

「ひさしぶりー、すぐ行くよー」

 大きな声で呼びかける。にっこり笑って答えるレナータ。そして、すぐ後ろから男性の影が現れた・・・。

「え?海翔さん・・・?」

 え?剣士って、海翔さん?普通に日本人の高校生?

 まじで?

次回より、第三部へ突入です。

異世界冒険が始まります。

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