ナタリーちゃんと娘と玉鋼
「あ、うん。そこは聞かないで」
「ごめん。どうしても気になって。質問を変えるね。お父さんは幸せだった?私が娘で」
ナタリーちゃんは砂羽さんを見つめたまま、しばらく黙っていた。よく見るとナタリーちゃんの目元が潤んでいる。あ、涙を我慢してるのか。
「幸せでしたよ。出来ればもっと長く一緒にいたかった」
「そう。聞けて良かった。ありがとう」
そう答えた砂羽さんの目にも涙が溜まっている。
親子の再会、うまくいって良かったね、ナタリーちゃん、砂羽さん。
その後、一緒にランチを食べたよ。
来夢来人のランチメニューは、ナポリタン、ナポリタン(大盛)、チキンカツ定食、フライ定食、の4種だった。
私はナポリタンを、砂羽さんはチキンカツ定食を頼んでいたよ。ナタリーちゃんは、きっとナポリタンだよね、と思ったらフライ定食を頼んでいた。
「あれ?ナポリタンじゃないの?」
と聞いたら、
「そんなリスキーなもの食べられないですよ?」
と返事が返って来た。
「なんで?」
と、ナポリタンを口いっぱいに頬張りながら尋ねたら、呆れた顔で襟元を指さされた。
あ、やば。赤い。シャツ、汚した。
ナタリーちゃんは、自分のポシェットからウェットティッシュを取り出してシャツに付いた汚れを取ってくれた。
その様子を面白そうに砂羽さんが眺めていた。
「最初は小さい子供だと思っていたけれど、振舞いは、まるで大人だね」
その言葉に、ナタリーちゃんは砂羽さんに優しく微笑む。砂羽さんも答えるように微笑んだ。もう言葉はいらないのかもしれない。砂羽さんは、ナタリーちゃんのことを霊媒だと思っているし、お父さんがそこにいると感じているようだった。
「幽霊とか魂とか信じる方じゃないけどさ、なんかあるよね。すっごく見た目は違うのに、表情とか、仕草が、お父さんっぽい。なんか懐かしい。今日は来てくれてありがとう」
その後、砂羽さんの話を聞いたよ。
12歳で父親を亡くし、母方の実家に引っ越した。
贅沢は出来ない生活だったけど、保険とかもあって、なんとかはなった感じ。母親はパートタイムで仕事をして生計を立てていた。
でも、大学に進学するのはやめたという。
田舎だったから、公立のいい大学へ行きたくても通学が難しい。一人暮らしで家を離れるのも母や祖母のことが心配だったし、そもそも学費と生活費の両方をなんとかしなくてはならない。ちょっと無理かな、と。
「でも、そんな後悔はしてないよ。あんま勉強好きじゃないしね。それに仕事も楽しいし。日本料理の店で働いてるんだ。ちゃんと修行して料理人目指してる」
「そっか。やりたいこと、見つかったんだね」
「うん。そういえば、あの包丁、使ってるよ。お父さんの会社のやつ。大事に保管されてたやつを、お母さんが就職祝いにってくれたんだ。7年前、お父さんが特別な一本だからって買ったんだって」
「あの包丁か・・・刀鍛冶が作った一品物で・・・玉鋼で作られたものです」
思わず「高そう・・・」ってつぶやいてしまったよ。言ってる意味はわかんなかったけど、響きがね・・・。
「そうそう。お母さんも、こんな高価な包丁、使えないわよねってずっと仕舞いこまれてたんだけどね。私が料理人になるって言ったら出してきてくれたんだ。職場の人も、練習で使うようなもんじゃねえから、ここぞという時までとっとけ、て言うんだけどね」
「いや、砂羽・・・さんが使ってくれるなら本望でしょう」
「ちなみに・・・ナタリーちゃん、値段聞いてもいい?」
「うん?いや、あれは・・・その・・・30万円くらいだったかなあ・・・」
「・・・は?三十万円?包丁が?」
「え?あの包丁、そんなするの?まじで?」
砂羽さんと私が思わず聞き返した。
「しますよ。日本刀を作ってる刀鍛冶が、日本刀を作るのと同じ製法で作ったものですからね。安いものでも5、6万円くらいしますし、あれは名工の品ですし・・・。普通に買うよりは安く手に入れたんですけどね・・・あ、えっと総助さんが」
「まさかの値段だった・・・。やば、先輩が言う通り、練習は別の包丁使おうかな・・・」
「いやいや、使えばいいと思います。いい包丁で切ると味も良くなりますから」
「あ、うん。そ、そうだね」
そんな感じで時間は過ぎて行った。
最後に、ブローチを受け取る、受け取らないで、ちょっと揉めたけど、結局、砂羽さんが保管することで決着した。ナタリーちゃんはしきりに、売ってお金にしたほうがいい、と言っていたけど、砂羽さんは不思議な縁を感じるものだから大切にする、と答えていた。
あとで聞いたところによると、昨日のおばあちゃん査定で、買い取りは20万円くらいのブローチらしい。
そっか。包丁より安いんだ・・・。




