ナタリーちゃんと前世の娘
席についたナタリーちゃんと私。
お店のおばさんがやって来た。ナタリーちゃんが反射的に注文をする。
「あ、じゃあ、ホット・・・」
「ホット・・・ミルク?」
おばさんが聞き返す。はっとした顔でナタリーちゃんがおばさんを見上げた。
「すみません。アイスカフェオレでお願いします・・・」
「あ、じゃあ私も・・・アイスカフェオレで」
砂羽さんは既に飲み物を持っていた。アイスコーヒーかな?
「それでは改めて、我が父レオンハルト・フォン・シュッテルヴァイスビンゲンより預かって参りました。こちらは6年前に加藤総助さんへお渡しするはずだったものです」
そう言ってナタリーちゃんは紫色のベルベットの袋を取り出した。眼鏡ケースくらいの大きさだ。その中からブローチを取り出す。
「どうぞお納めください」
「あ、はい」
なんだかよくわからないままに砂羽さんはブローチを受け取る。花や葉っぱに形作られた金の縁取りに宝石が嵌め込まれている。大きさはジャケットの胸に飾るのにちょうどいいくらい。高そうな見た目だ。いや、たぶん、高いんだろう。ナタリーちゃんの持ってくるものだ。それも自分の娘に渡そうとしているものだし。
「あの、これ随分と高価そうなんですけど・・・」
「はい、嵌め込まれた宝石はサファイアが10カラット、ダイヤが2カラット使われています。ブローチですので若い人には向かないアクセサリーですから、売りに出されるのも良いと思いますよ」
「え、いや、けど・・・。というか、どうしてこんな高価なものを急に貰えることになるんですか?6年前、死んだ父はいったい、何をしたんですか?」
「それは、お話しすることが出来ません。ただ、6年前に総助氏が亡くなった後のことをお聞かせ下されば、それで良いとのことです」
「そんな・・・何がなんだかわからないものを貰うわけにはいきません。それに、あなた、小学生でしょう?どうして小学生のあなたが、こんな高価なものを持ち歩いているんですか?あなた、いったい誰なんですか?」
ちらちらとこちらを見て、砂羽さんは露骨に警戒した顔をしている。
「あの、砂羽さん。こちらのナタリーちゃんは、飛び級で大学に入学するほどの少女です。見た目は幼いですけど、中身は大人と同じだと思ってもらっていいですよ」
と、言ってみた。
「飛び級・・・。頭はいいってことね。けど、10歳にもなっていないでしょう?信用できないわ」
「その通りですね。では、こうしましょう。あなたが覚えているお父さんのことを聞いてください。私が答えます」
「答えられるわけがないでしょ?父が死んだのは6年前。あなた、その頃、何歳だったって言うの?覚えているはずが無い」
「でも答えられるのです。何故かは言えません。でも、答えられたら砂羽・・・砂羽さんのことも良く知っていると思っていただけますでしょう?」
「・・・わかった。じゃあ・・・父の年齢。死んだ6年前の」
「48歳。誕生日は昭和〇×年6月3日」
「勤めていた会社は?」
「〇×刃物株式会社。包丁から刀剣まで扱う老舗刃物の会社です」
「まあ、こんなのは調べればすぐにわかることだったね。じゃあ、好きな食べ物」
「妻の作ったカレーライス。ジャ〇ーカレーの辛口」
「な・・・じゃあ、良く飲んでいたお酒」
「・・・ビールですね。キ〇ンのラガーか、発泡酒の淡麗」
「当たり・・・よくすらすらと答えるよね。私でさえ思い出すのに時間が掛かるのに。じゃあ、趣味、休みの日によくしていたこと」
「なんでしょうね・・・包丁研ぎ?ナイフの収集ですか。あとはドライブとかですかね」
「そうね。聞いた私もよくわからない。でも、言われてみれば確かに包丁を研いでいたり、なんか珍しいナイフが出てきたりしたね」
「ドライブもしたでしょう?レガシーのワゴンで」
「うん、よく高山の方へ行った。最後の方は前の座席に座ってた。前が良く見えて嬉しかった」
「10歳を過ぎたあたりから助手席になりましたね。前の席がいいと、砂羽が言い張って・・・」
「・・・。なんでそんなことまで知ってるの?」
「あ、その・・・そういう話を聞いたので・・・」
「聞いた話を全部覚えているっていうわけ?会ったこともない他人の娘の話を?」
疑っている、という顔では無かった。本当に不思議そうにナタリーちゃんを見つめる砂羽さん。
「そうです。ずっと覚えているんですよ。些細なことでも大切な思い出なんです」
「そう、思い出・・・ね。不思議だね。なんか、お父さんと話してるみたいだよ」
「・・・」
「ひょっとして、ナターリエさんって霊媒師?なんていうんだっけ、イタコ?」
「・・・答えられません・・・」
「あ、ごめん。言えないって最初に言ってたね。でもなんだろ、会った時から、そういう雰囲気あったよね。喫茶店で注文にホットっていうところも。お父さんは夏でもホットコーヒーを頼んでたよ。小さい頃、ホットっていう飲み物メニューがあるんだって思ってたけど、メニュー表を読めるようになっても、ホットなんていうメニューはないんだよ。あるのはブレンドコーヒーでさ。そういえばお父さん、メニュー表を見てたこともないなって思ったよ」
そう言うとナタリーちゃんを見つめる。ナタリーちゃんも砂羽さんをしっかりと見つめていた。
「ねえ、もしもそこにお父さんがいるのなら、一つ聞きたいことがあるよ」
「・・・はい。なんでしょう」
「うん。最初から疑問だったんだけど・・・なんで霊媒師が西洋人形みたいな幼女なの?」




