メッセージ
帰り道、ナタリーちゃんは口数が少なかった。二度と会うことは出来ないと思っていた人に会えたから、と私は思っていた。何処か遠い目で流れる景色を眺めていた。
私も席に座ってぼうっとする。
ナタリーちゃんの気持ちは、本当の所はよくわからない。
私は12歳で、家族を亡くしたこともない。ナタリーちゃんは、48歳プラス6歳で、結婚もしていたし、娘もいた。その気持ちはわからない。
でも、いつか、私にも分かる日が来るんだろうか。
そんなことを考えながら、なにげにスマホを取り出した。
ん、メッセージが来てる。
!梨音?
登録されていない電話番号からSMSで送られたメッセージ。プレヴューに梨音の文字が見えた。
慌てて内容を確認する。
『梨音です。久しぶり。今日の午後、会えますか?連絡待っています』
ドキン、と心臓が鳴る。
大怪我をして入院しているはずの梨音。でも、たぶん、入院は嘘だろう、とは思っていた。思っていたけど、向こうから連絡をしてくるとは想像していなかった。
まず思ったのは、何故?だった。
梨音に会えるのは嬉しい。性格がレナータさんだったとしても、私に魔法をくれた人だし、元の梨音は一人ぼっちだった私と友達になってくれた人だ。
でも、どこかの組織に連れ去られるようにして姿を消した。
それって、誘拐でしょう?
なのに、梨音が連絡をしてくるって・・・どういうこと?
考えがまとまらない。なんで?どうして?
5時過ぎに折湊市の駅に着いた。
駅を出たところで、たまらず私はナタリーちゃんに梨音のメールのことを話した。
「都代ちゃんは会いたいですか?」
「うん、それはもちろん。でも、心配なんだ。このメッセージ、本物なのかな。本当に梨音が送って来たのかな」
数か月前からのことを話し始める。
梨音が、梨音じゃなくなったこと。そしてマウリツィオ師匠と出会ったこと。魔法が使えるようになったこと。それから梨音が姿を消したこと。マウリツィオ師匠が教えてくれたこと。
話し終わる頃には家に着いていた。
玄関の前で、ナタリーちゃんが言った。
「確かに、状況的には罠の可能性もありますね。その組織というのは異世界転生者を集めているわけでしょう。目的はわかりませんけど、現実的に利益がありそうなことを考えれば、転生による不死の研究、もしくは異世界転移による資源の開発といったところでしょうか。他にも何かあるのかもしれません。魔法の意外な使い方とかで、現代文明の力の及ばないものに干渉する、とか。そういった場合、異世界からの転生者でなくとも魔法を使える都代ちゃんは特別な存在のはずです」
「私が特別・・・」
「もしも梨音さんが、都代ちゃんの存在を組織に漏らせば、都代ちゃんも拘束されるかもしれません。それに、都代ちゃんの存在がバレているなら、マウリツィオ師匠の存在だってバレているはずです」
背筋が凍りつく。数十分前までの安全な世界が、突然に消えてしまった。
「で、でも、そうじゃないかも・・・本当に梨音ちゃんが会いたがっているだけかも」
「とにかく、マウリツィオさんにも相談しましょう。三人で考えればよい方法も思い付きますよ」
マウリツィオ師匠は家にいた。
「ニャーオ(おかえり。どうだった?)」
師匠はナタリーちゃんに話しかける。いつもなら心の中で突っ込むところだけど、今はそんな余裕は無い。
「ええ、会えましたよ。目的は達成できました。久しぶりに会えて嬉しかったですよ」
「そうでしたか。家族の温かみは良いものですな」
「はい。良かったです。でも、今はその話は後回しで。都代ちゃん、さっきの話を」
「さっきの話?何ですか、都代ちゃん」
「梨音からショートメッセージが来ているんです」
「ショートメッセージ?どんな内容ですか?」
メールをマウリツィオ師匠にも見せた。
「なるほど。これが偽のメールかもしれない、と疑っているわけですね」
「うん」
「ま、たぶん、大丈夫でしょう」
「え?」
「都代ちゃんを捕まえたい奴らがいるのなら、もうとっくに捕まっていますよ。ちょっと考えてみたらいいでしょう。今日は都代ちゃん、襲われることを警戒して出歩いていましたか?」
「ううん、するわけないよ」
「でしょう?しかも、もしもこのマウリツィオが転生者だと組織が知っていたと仮定するならば、私と都代ちゃんが一緒にいない今日は、絶好の誘拐日和でしょう?」
「・・・誘拐日和って・・・」
「つまり、わざわざこんなメールを出して、都代ちゃんを警戒させる意味が無い。誘拐するならとっくにしている、とこういうわけです」
「た、たしかに・・・」
「それに都代ちゃんは難しく考えているようですし、スマホ慣れしすぎて忘れているようですが、SMSは電話番号で送られてくるメッセージでしょう?ということは、そのメッセージを送って来た人に電話を掛けることも出来るわけです。かけてみたらいいんじゃないでしょうか?相手が誰だったとしても、電話を掛けたぐらいで状況が変わったりしないでしょう。というか、そんな心配をするくらいなら、家に帰って来るべきじゃないでしょう?都代ちゃんの家が何処か、なんて、絶対に最初にバレると思うんですよね」
ぐうの音も出ない。
ナタリーちゃんもマウリツィオ師匠の意見に感心して頷いている。
「そっか、そうだよね。なんか深く考え過ぎていたよ。じゃあ電話してみる」
「ええ、そうしてください。おそらく、レナータ様も行動を起こそうとされているのでしょう。私と都代ちゃんを異世界通路に導いたのも、あるいはレナータ様の意志かもしれない、と考えていたところです。一度、ちゃんと会って、話をしたいものです」




