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パルプンテ

 翌日。

 朝はナタリーちゃんのリクエストで、ご飯にお味噌汁にした。

 

 うちは、普段はトーストとスクランブルエッグとかサラダとかって感じの簡単な感じなんだけど、あえてのご飯。お味噌汁はインスタント。

「インスタント味噌汁でごめんね。お味噌汁あんまり作らないんだ」

「いえ、インスタント味噌汁も懐かし・・・いえ、おいしいです」


 それから、今日はマウリツィオ師匠はお留守番。

 おばあちゃん家に行って様子を見てくると言っていた。

 うん、電車移動だからペット籠を使うのが面倒だったんだ。それに、日本だからさ。魔物が出てくるわけでもないし。


「砂羽さんは今年、高校を卒業して就職したそうです。今日は日曜なので休みで、駅前の喫茶店で待ち合わせています」

「はい。緊張してきました。6年ぶり・・・顔、わかるかな」

「わかりますよ、きっと。だって親子ですもん」

「もう親子では無いんですけどね。けれど、気持ちはやっぱり娘ですね」


 ナタリーちゃん・・・加藤さんの家は岐阜にあったらしい。折湊市から岐阜まで行くとなると電車と新幹線を乗り継いで4時間くらいはかかる。

 私がナタリーちゃんに聞いて掛けた電話番号は携帯のもので、それは砂羽さんの番号だった。砂羽さんは、加藤総助さんが亡くなった後、母方の実家がある別の県に引っ越した。

 砂羽さんのお母さんも、実家に戻り、そこで仕事を見つけたらしい。

 その県は、折湊市の隣の県で、電車で1時間半で行けた。


 亡くなる直前くらいの時期、砂羽さんはスマホを買ってもらった。

 その番号は、総助さんが暗記していた。6年もの間、忘れないなんて凄いと思う。そんな番号を覚えていたって、二度と掛けることは出来ないはずだったのに。

 

 そもそも携帯の番号が変わっていない保証は無かった。

 加藤さんは賃貸マンションに住んでいたから、死後に家族が引っ越しをしている可能性も充分にあったし、事実、引っ越ししていた。

 だから、砂羽さんが電話に出てくれたのは、とてもラッキーだった。


 問題は、どうして私が、その番号を知っているか、だ。


 でも、深く考えないことにした。

 岐阜に住んでいた頃の砂羽さんの友達に会い、この番号を教えてもらった、と切り出した。何故、私がそこまでして砂羽さんに連絡を取りたがっているかというと、砂羽さんの父親から預かり物をしているからだ、と続けた。高価なものらしいので、直接会って渡したい、と言った。

 砂羽さんは半信半疑だったけれど、会う時間を作ってくれることを約束してくれた。

 それで、お昼ぐらいに駅前の喫茶店で待ち合わせているってわけ。


 電車は聞いていた駅に滑り込んだ。

 そこは小さな駅で、各駅しか止まらない。ホームに降りて駅から出るのに1分と掛からない。

 さて、喫茶店、と言っていたけれど、それは何処にあるんだろうか。


 駅から出たら畑が広がっている、というほど田舎ではなかった。狭い通りには、数軒の店が軒を連ねていた。けれど、そのうち数軒はシャッターが下りている。ずっと開けていなそうな感じで下りている。

 それを順番に見ていくと、聞いていた名前の店があった。

来夢来人ライムライト

 うん、これは喫茶店だね。カフェとかそういうお洒落感は皆無だ。私が産まれる前から、ほとんど改装もしないでやってきた感のある「喫茶店」だ。

「ああ、思い出しましたよ。この店、見覚えがあります。随分昔に、1度来たことがありますよ。あれはいつだったかな。妻と結婚する前だったかな」

 それ、何年前の話?

「かれこれ、20年以上前ですかね」

「その時から店の外観が変わってないとか」

「変わってないですね。記憶の方も曖昧ですけど、雰囲気はそのままだ。ライムライトなんてベタで古臭い名前なんで、印象に残ってたんですよ」

 入り口のドアに手を掛けた。

 カラン、カラン・・・とドアに取り付けられた鐘が鳴る。

「いらっしゃい。お好きな席へどうぞ」

 おばちゃん、という感じの人がにっこり笑って店の中を指さした。


 店の中は思ったよりも広かった。

 というより、がらんとしている。何組かのお客さんはいるけど、十くらいあるテーブルの半分も埋まってはいない。

 その中で、一人で座っている若い女性の姿が目に入った。ナタリーちゃんの方を見る。

「あの人?」

「はい、そうです。あれが砂羽です」

 ナタリーちゃんは涙目だった。大きく息を吸って落ち着こうとしていた。

「大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫。ここで涙を流していては怪しまれますからね」

 少し上を向いて涙をこらえたナタリーちゃんは毅然として歩き出した。


「こんにちは、初めまして。私はナターリエ・フォン・シュッテルヴァイスビンゲンと申します。加藤砂羽さんですね?総助氏よりお預かりしたものを持ってきました」

 ナタリーちゃんが砂羽さんの前まで行って、そう言った。

「あ、え?あなたが・・・?」

「あ、電話をしたのは私です。前田、都代、です」

 わざと、苗字と名前を区切って自己紹介したよ。

「前だとよ?」

「いや、そういうのいいからぁ~!」

「あ、ごめん」

「砂羽様、本来ならば、父が来るべきでした。しかしながら我が父は多忙で本国を離れることが出来ず、娘である私が代理として参りました。前田様は、友人で私の外見が非常に幼いため、ご一緒してくださっています。また、砂羽様にアポイントメントを取ってくださいました。直接にご連絡出来ませんでしたこと、お詫び申し上げます」

「あ、え?ナターリエ・・・さん。ごめん、よくわからなかった。とりあえず、どうぞ、お掛けになってください」

 うん、砂羽さんも混乱しているようだ。

 そうだよね、わかるわー。ナタリーちゃんの破壊力はパルプンテだからな。


 あ、パルプンテは何が起きるかわからない、だっけ?

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