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ナタリーちゃんと浄化魔術

 そういえば、奥の部屋の幽霊、そろそろやんないとなあ、と思っていた。

 マウリツィオ師匠が言うには、一か月に一度くらい電撃してれば弱って悪さは出来ないとのことだったけど、どうやら2週間くらいで復活してくるようで、かなりタチが悪いというか、強い悪霊っぽい。

 師匠もレイスだとかファントムだとかのゴースト系モンスターには詳しいけど、怨霊とか幽霊なんかは少し勝手が違うようだ。

 その点、元々日本人のナタリーちゃんは違うね。

「いやにはっきりした霊ですね」

 奥の部屋の暗がりに座り込むようにしている黒いコートの男。2週間前に見た時と同じ格好でいた。こいつ、本当に何がしたいんだろう?

「日本の霊媒師なら事情を聞いたりして浄霊するんでしょうけどね」

そう言うとナタリーちゃんはおばあさんを見上げた。

「この方、おばあさんのお知り合いというわけではないのですよね?」

「ええ、もちろん。ただ数か月前に近くの線路へ身投げされただけ」


 最初に黒コートの幽霊を電撃した後、気になってニュースサイトとかを調べたよ。

 それで、最後には「行旅死亡人」というのを知ったよ。身元がわからないで死んでいた人のことらしい。インターネットにはそれを閲覧出来るサイトなんかがあって、探したらあったよ。

 どうやらこの目の前の黒コートの男は、身元がわかるものを持たずに列車の前に飛び出したらしい。家族はいなかったのか。いたけど連絡できない事情があったんだろうか。

 ナタリーちゃんは、ふん、と小さなため息をついた。

「こんな私が言うのもなんですけど、何があったにせよ、死して無関係の家に居座り続けるとは迷惑なことです。どういうつもりなのか問い質すつもりはありません。私にはそんな力はありません。出来るのは、ただ魔の力を浄化すること、ただそれだけです」

 そう言うと小さな声で呪文を唱えだした。

 ブラックムーンベアを浄化した時に聞いた呪文に似ている。基本は一緒なのかも。ただ、何言ってるのかはさっぱり聞き取れません。ドイツ語っぽい発音だなあって思うだけ。なんとかガイスト、っていう感じで・・・

 ナタリーちゃんの呪文が終わると、部屋の中に眩しい光が現れた。

 それは部屋の中央に真っ白な光の塊として出現し、黒いコートに向かってゆっくりと降りて行った。黒いコートはそれをぼうっと眺めていたけれど、近づいてくるにしたがって、その顔が恐れで歪んだように見えた。光が男を包み込む瞬間、その男はナタリーちゃんを恨むような目をした。

 光が男を頭から包み込んでいき、すぐさま黒のコートまで包み込み、そして一際眩しく光ると、パン、っという小さな音を立て、砕け散るように光の粒へと変化した。


「終了です」

 ナタリーちゃんが、ほうっと息を吐いた。

「消えた・・・?」

 おばあちゃんも、呆然とした顔でそれを見ていた。

「なかなか素晴らしい聖魔術でした。見事です」

 マウリツィオ師匠も、私とナタリーちゃんにだけ聞こえる声で言った。

「完全消滅したはずですから、もう何も心配はいりません」

 ナタリーちゃんはおばあちゃんにそう告げると、部屋を出た。

「ありがとう、なんとお礼を言えばいいのかしら。半年近く悩んでいたことが解決したってことよね?もうこれで毎日おびえて暮らさなくても良くなったのよね」

 震える声でおばあちゃんが独り言のようにつぶやいていた。

「都代ちゃんにも、ありがとう。都代ちゃんがあいつを弱らせてくれてからは、だいぶ気が休まっていたわ。それなのに、今日はそれを完全に解決してくれるお友達を連れてきてくれた。本当にありがとう。ナタリーちゃん、あなたには感謝しても感謝しきれない。本当にありがとう」

 ナタリーちゃんは頭をポリポリと掻いて「いえ、どういたしまして」と答えていた。めちゃかわいい美幼女なのに、その仕草はおっさんのようだった。


 その後、ナタリーちゃんはバッグからいくつかの宝石と金の板を数枚取り出した。

 おばあちゃんは、それを鑑定するように光に透かしたりして確かめていた。

「こっちの宝石はサファイヤね。天然のものに見える。カットが少し荒いけどサイズがあるから買い取り額もかなり高価になるでしょうね。ナタリーちゃん、こんなにたくさんのアクセサリー、いったいあなたは何者なの?」

 ナタリーちゃんは貴族の令嬢のように微笑んで「秘密です」と口もとに人差し指を当てた。あ、貴族令嬢だった。

「まあ。かわいらしい。わかったわ。詮索ははしない約束ですものね。それでナタリーちゃん、いくらくらい用立てすればいい?」

「そうですね、10万円ほどあれば充分かなと思います」

「そうなのね。じゃあこっちの金の板、これで充分ね。金1gあたり6500円くらいだから」

 キッチン秤で名刺大の金の板の重さを計る。約15gくらいだった。

「でもおばあさん、その金の板は純金というには少し混ざり物が・・・」

「いいのよ、ナタリーちゃん。これは私が買い取るわ。実際に売りに出せば多少は買い叩かれるでしょうけど構わない。本来なら、さっきの浄霊のお礼だけでも10万円くらいの価値があるもの。他の宝石はお持ち帰りなさい。お金、用意するわ」

「あ、おばあさん、そんな、そんなつもりじゃなくて・・・」

「ううん、いいのよナタリーちゃん。本当に私は嬉しいんだから。この金のカード、売らずに取っておくつもりよ。必要になったらいらっしゃい。ご両親に内緒でお金が必要なんてどんな事情があるのかわからないけど、私にとって、ナタリーちゃんは今日、命の恩人になったのだから・・・」

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