ナタリーちゃんと麦茶
転移の部屋へたどり着いたよ。
ブラックムーンベアの後は順調に歩いてきたよ。
6歳のナタリーちゃんの体力を少し馬鹿にしていました。さすがの異世界育ち、貴族とはいえども体力はあったようです。私よりも元気に歩いていましたよ。ふう。
転移の部屋に入るとき、ナタリーちゃんだけ入れないとかあるかもしれないと思ったけど、すんなりと通れた。そして、歪みを通って日本へ・・・。
「こんな場所に出るんですね。同じ森の中だけど、全然違いますね・・・ああ、懐かしい」
「わかるの?ナタリーちゃん」
「ええ、わかりますよ。夏なんですね。ああ、空気が違う。この蒸し暑さ、日本・・・」
「そかそか」
私は来ていた上着を脱いでTシャツになる。向こうは少し肌寒いから。それにこっちは林の中とはいえ、林道があるし、もう上着はいらない。リュックに仕舞う。
「私も着替えた方がいいですね。少し暑そうです」
人の体って、急に気温が変わっても対応出来なかったりする。
真夏の日に、遊園地とかで南極体験とかっていうのに入っても、しばらくは寒さを感じなかったりする。たぶん、表面はともかく、体の中の方に温度が伝わるのに時間がかかるからだ。
なので、出てきた瞬間の今は、別に暑くはない。
でも、しばらくすると体が慣れてきて暑くなるはずだから。
ナタリーちゃんは、もちろん貴族のドレス姿とかで歩いてきたわけではない。
庶民的な動きやすい服装で、アイボリーっぽいシャツ。生地は厚めでゴワゴワした感じ。下はズボン。これも紐で腰を止めるタイプ。薄めの皮のジャケット。
ナタリーちゃんはジャケットを脱いでアイテムボックスに収納。替わりにフリルのついたシルクのシャツと、黒いワンピースを取り出した。
「着替えてしまいますね」
木の陰でナタリーちゃんは着替えをしたよ。
なんか上品な小学校の制服っぽい感じになった。うん、悪くない。
「手持ちの服の中で、これが一番、日本でも違和感がないはずです」
「うん、大丈夫。靴が少し微妙だけど、まあ仕方ないね」
靴は編み上げのブーツだった。黒っぽいから目立ちはしないけど、ワンピースにブーツってなんか違和感あるね。
「両替が出来るなら、こちらで服は一式揃えたいところです。一応、宝石とか金の延べ棒とか持ってきたんですけどね」
「そのことだけどね。ちょっと知り合いのおばあちゃんに頼めそうなんだよ。家に行く前に少し寄ってもいいかな?」
「や、それは助かります。換金出来るなら有難い」
「じゃあ、さっそく行ってみよう~」
「はい、お願いしますね。都代ちゃん、私を連れてきてくださってありがとう。そして、3日間よろしくお願いいたします。いろいろご迷惑をおかけします」
「いえいえ、そんなことは全然構わないよ。私達、友達じゃん」
「友達・・・ええ、そうですね。よろしくお願いします、都代ちゃん」
というわけで、自転車に二人乗りして・・・あ、マウリツィオもいるから3人乗りして、線路の近くのおばあちゃんの家に来たよ。
あ、ほら、奥の部屋に電車に轢かれて死んだ霊が出る家の。
こないだ訪ねた時に、ナタリーちゃんのことを少し話したんだ。
え、もちろん、異世界人とか言ってないよ。
ドイツ人で、日本に住んでいる設定。それで、手持ちのアクセサリーをお金に換えたがっているって。なんで?って聞かれたんだけど「事情は言えない」と説明を拒否したよ。うまい言い訳を思いつかなかったし。
でも、渋ってはいたけど、買い取りショップに代わりに行ってくれる約束をしてくれたよ。
というのもね、おばあちゃん、元々、そういうアクセサリーや金の地金の販売買取をする仕事をしていたんだって。もうやめて年金暮らしなんだけど、多少は値踏みも出来るし、何処へ行けばいいのかも知っているってことで。
「こんにちわー」
玄関でおばあちゃんを呼んだ。
「はい、いらっしゃい、都代ちゃん」
「うん、お邪魔するね、おばあちゃん。それと、こちらがナタリーちゃん」
「まあまあ、とても綺麗なお嬢さんね。まるでお人形さんみたい。日本語、わかる?」
「はい、おばあさま。お初にお目にかかります、ナターリエ・フォン・シュッテルヴァイスビンゲンと申します。ナタリー、と呼んでください」
そう言うと、ナタリーちゃんはワンピースの裾をちょんと摘み上げ、カーテシーで挨拶をした。その仕草が、あまりに上品でかわいらしく、私はしばらくぼうっと見てしまったよ。
「まあ、まあまあ・・・!本当にかわいらしいわ。ナタリーちゃん、どうぞおあがりになって。お茶でも入れますね」
「はい、ありがとう存じます。お邪魔いたします」
ナタリーちゃん、どうやらいいところのお嬢様を演じるつもりらしい。
あ、いいところのお嬢様なんだっけ。
中身のことばかり考えていたから忘れていたよ。
「紅茶がいいかしらね?ナタリーちゃん」
なんか私が来た時よりもおばあちゃんのテンションが高いよ。めちゃ高いよ。
なんでよー?
「いえ、お構いなく。日本のお茶も好きです」
あ、むしろ日本茶が飲みたいって顔をしている。
「おばあちゃん、番茶でいいよ。ナタリーちゃん、おばあちゃんに頼み事に来たんだし、普通でいいよ、普通で」
「そう?じゃあ麦茶にしておこうかしら?暑いし」
「ええ、麦茶、大好きです・・・」
少し涙目っぽいナタリーちゃん。そっと私に耳打ちしてきた。
「・・・麦茶・・・懐かしい響きです。暑い日の麦茶・・・懐かしくて涙が出てきます」
「あ、駄目だよ、泣いちゃ。説明、大変になっちゃうから」
「ええ、わかってますよ」
で、麦茶を持っておばあちゃんが現れ、ナタリーちゃんは麦茶をおいしそうに、いや本当においしそうに味わって飲んでいた。うれしそうなナタリーちゃんを見て、おばあちゃんが「のど乾いていたんかねえ?」と微笑んだ。
「こんなにおいしい麦茶は久しぶりに頂きました。ありがとうございます」
麦茶を飲みほしてナタリーちゃんがおばあちゃんにお礼を言った。そして私が予想もしていなかったことを言い出した。
「麦茶のお礼に何かしたいと思います。よろしいですか?」
「え?いえいえいいのよ、そんなこと。こんな水出しの麦茶なんかで」
「いえ、そうではないのです。都代ちゃんに少しお話をお伺いしました。奥の部屋に悪霊がいるそうですね?都代ちゃんが定期的に弱らせているそうですけど、消滅はしていないそうですね。私は、完全に浄霊できます。是非、やらせてください」
え?まじで?
そりゃおばあちゃんの為だから是非お願いしたいけど・・・お小遣い、もう貰えなくなるけど・・・あ、いや、なんでもないです。




