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異世界農村スローライフ

 来週の予定が決まったところで、私は日本から持ってきた荷物を取り出した。

「はい、これ。言われた通り、文房具屋さんで売ってたよ。初めて見たけどレトロでかっこいいよね」

 ナタリーちゃんは苦笑して、その小さな刃物を受け取った。

「ありがとうございます、都代ちゃん。このナイフは肥後守ひごのかみと言うんですよ。伝統的な日本の折り畳みナイフです」

「いちおう、高い方を買ってきたよ。そのほうが役に立つでしょ?」

「え?うわ!本当だ。これ割込じゃないですか!」

 めちゃ異世界美幼女が純日本風のナイフの刃をしげしげと眺めながら興奮している様子は、なかなかに違和感があるよ。

「割込?なにそれ」

「このブレードはですね、3層構造で出来てるんですよ。切れ味鋭い刃金を衝撃に強く柔らかい軟鉄でサンドイッチしているんです」

「ふーん。そうなんだ」

「都代ちゃんにはわからないかぁ。これの凄さが」

 いや、わかるよ、マウリツィオ師匠の目が爛々としてるもの。ん?いや、幼女が刃物を握りしめて興奮している絵面に興奮しているだけかな?

「都代ちゃんのお陰で、この村の特産品の見本が手に入りました。3層のブレードはすぐには無理でしょうけど。この切れ味の鋭さと便利な折り畳み機能、そして簡素な作り。さっそく工房長を呼んで見せてあげなくては。いつかこの村を鋼鉄の街として有名にするんです」

 

 それからは工房長と村長と、若手の職人が何人かがやってきて、私の持ってきた肥後守ナイフを手に取って話し合っていた。お酒も入って、議論は熱を帯びていくようだ。

 何を言っているのかは全然わからないんだけど。


「こちらの世界・・・というより生前の世界でも日本の刃物の切れ味の良さは定評がありますからね。目の前に優れた逸品があるというのは職人のプライドをくすぐる物なんですね。これを遠くからの旅人である都代ちゃんが村にもたらすこと、そこに意味があるんです」


 ナタリーちゃんは、その後、村を案内してくれたよ。

 山で掘り出した鉄鉱石を集めている小屋。人力で風を送る高炉。木炭を貯蔵している小屋。出来た錬鉄を浸炭処理するところ。

「鉄の生産としては原始的な設備ですね。今後は水車を使った高温還元の出来る炉を開発したいと思っています。そうなれば鉄の生産量は一気に何倍にもなります。炉を止めることも無くなるので、24時間操業になってしまいますけど・・・あ、こんな話ばかりではつまらないですよね。次は村の住居を紹介します」


 村の家々を見て回る。異世界の村は、思ったよりも原始的な生活に近いんだな、と思った。

 水道設備は無い。

 いちおうあるのは村の中を流れる小川。水が綺麗なので、そのまま飲み水としても利用しているという。

 そんな感じなので、お風呂に入る文化は無いそうだ。せいぜい汲んできた水で濡らした布で体を拭くくらい。

 食事は周辺の森で採れた獲物の肉を中心に、木の実や原種の野菜っぽいもの。後は街や農村からくる人達と取引して手に入れている。

「不便な生活でしょう?私は少しでも暮らしをよくしたいんです。刃物の営業をしていた関係で、金属についてと刃物関係には詳しかったので、この村から始めることにしたんです。そんな時に都代ちゃんが来てくれて幸いでした」


 私にとっては、異世界での暮らしを体験する貴重な一日だったよ。

 いつかこういう村で過ごしてみたいって、ずっと思っていたんだよね。


 憧れの農村スローライフだよ。


 でも、リアルに体験すると、便利な電化製品とかそういうのが一切ない世界って大変なんだなぁ・・・梨音とかマウリツィオ師匠もこんなに大変な苦労をしてきたのかなあ・・・。

「いや都代ちゃん、それは違いますぞ。私達の世界では魔法文明が栄えていましたからな。日本の生活水準には遠く及びませんが、電灯、冷蔵庫、エアコン、無線のような遠距離情報伝達手段・・・そのあたりは魔法か、魔法理論を応用した魔法具で行っておりましたからな。水道設備もありますし、沸かすのも魔法具で出来ましたしな」

「ほう、魔法文明ですか。マウリツィオさん、それは興味のある話ですね。是非お聞かせください」

 

 そんな感じで一日は過ぎて行った。


 この村への訪問は、ナタリーちゃんが数日間、一人で行動するための布石でもあったんだ。

 なんだかんだ言ってもナタリーちゃんは6歳の子供。どんなに賢くても周りの大人から見たら子供なので、単独行動はさせてもらえない。でも、日本へ行くなら、他の人を連れて行くわけにはいかない。


 ナタリーちゃんは来週、領都に戻ることにしてある。

 そこで、領都に戻る途中で数日間、ナタリーちゃんと私が行動する。その間、乳母を初めとして護衛の人達や側使えの人達には休暇を出すことにした。でも、一部の人達は付きそうと言って聞かない。

 そりゃあそうだ。

 とくに乳母さんなんかは、本当の母親以上にナタリーちゃんを大切にしているものだから、片時もそばを離れたがらない。いくら乳母が自分の故郷に何年も帰ってないからと言っても、関係ないことなのだ。

 それで、私が村を訪れて、皆と顔を合わせて安心してもらう必要があった、というわけ。


 ナタリーちゃんとは、森の秘密の家で新しい製鉄技術や、いろいろな産業の元になる勉強をするんだと言ってあるらしいよ。

 でも、それはナタリーちゃん以外には教えられない秘密だから、一切の付き添いを認めない、という設定。でも、命の恩人とはいえ、見ず知らずの外国人に大事な領主の娘を預けるわけにはいかない・・・だから顔見せが必要・・・と。


 いやあ、農村スローライフ、満喫しました。

 楽しかったけど、不便だから、一泊だけで充分ですw。

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