ヴューテルシュミット村
都代視点に戻ります。
ヴューテルシュミットの村では、バーベキューの用意がされていたよ。
村の中心には広場があって、普段は狩りで取った獲物を捌いて村人に分け与えたり、集会で使われたりするんだって。広場の周りには市場があって、村の人だけじゃなくて別の村や街から来た人が店を開いている。
今日は、その広場に多くの人が集まり、バーベキュー台がいくつも設置されていたよ。その上では肉やソーセージが焼かれ、いい匂いがしていた。
「今日はお祭りか何かだったの?」
「いえ、都代ちゃんを歓迎するための宴ですよ」
「え?歓迎されるほどの者では・・・」
「何を言ってるんですか。ヘルハウンドを追い払った魔法使いじゃないですか。あのままヘルハウンドがうろついていては、いずれ村も危険になっていましたし。今日は遠慮なしに食べてください」
まあそういうことなら・・・
ナタリーちゃんに手を引かれて広場の一角に設けられた少し大きめのテントに行くと、クロスを引いたテーブルに皿やグラスが用意されていた。
「じゃあ、都代ちゃんは私の隣、マウリツィオさんは都代ちゃんの横に台を用意しますね」
「ありがとうー!」
席についてあらためて広場を眺める。
オレンジ色の髪の男性、筋肉がすごい。布の服、と表現するのにぴったりの中世風。隣の女の人は青色の髪。髪の色は本当に色々だ。赤色の髪の女の子もいるし、茶色の子もいる。黒は・・・いないな。顔だちはヨーロッパ系かな。背の高さもバラバラ。小柄な男性もいれば、背の高い人もいる。でも、とりあえず人族しかいないね。
何処かで見た顔の男の子がやってきて頭を下げて何か言った。
「ありがとう、って。ヘンリックは知ってますね?先日、馬車の御者をしていました」
「ああ、あの時の。どういたしまして、と伝えてください」
グリーンの髪を見たら思い出したよ。ヘンリックというのか。覚えておこう。
元気のいいおばちゃんが何か言いながら、笑顔で焼けた肉を私の前に置かれた皿に山盛りにしていった。
「たくさん食べてくださいって。村を守ってくれて感謝してるって言ってましたよ」
なんか気恥ずかしいな。大したことはしてないのに。というか、体は貸したけど、やったのはほとんどマウリツィオ師匠なんだよね。
その後も村長だっていう人とか、ナタリーちゃんの護衛の人だとか、ナタリーちゃんの乳母だとかが挨拶にやってきた。
いやあ、こういうの慣れてないから緊張したよ。
おかげで、肉の味がさっぱりわからない。
「お肉、味気ないでしょう?」
「え?そんなことないよ。おいしい、よ」
ナタリーちゃんは笑って首を振る。
「日本の焼肉と違って、味付けは塩のみですから。それもほんのちょっぴり。山で取れる香草で香りづけはしてますけど、それだけですからね。胡椒も塩も、このあたりでは高値で取引される高級品なんですよ」
あ、そういうことか。
異世界でのあるあるだ。歓迎会があるなら、焼き肉のたれを買って来ればよかったな。
一躍ヒーローになれたのに。
次からはそうしよう。
ソーセージはおいしかったよ。
山で取れる香草は数種類あって、それが刻んで入っているんだとか。不思議な香りがしておいしかった。
お腹もいっぱいになってきたところで、ナタリーちゃんが話を始めた。
「それで、私の日本への一時帰国の件ですけど・・・」
「うん。私、来週から夏休みだから、それからなら付き合えるよ」
「ええ。ですが勝手知ったる日本ですから。一人で行けますよ。都代ちゃんのお時間を取らせなくても・・・」
「いいの。私も行くの。いくらナタリーちゃんの中身が大人の人だったとしても、外見は小学校に入るかどうかの子供じゃない。行く先々で怪しまれるよ。それに、お金、無いでしょ?」
「それは・・・そうですが。お金の件は、両替をお願いしようと思っていたんです。金の延べ棒を用意してますから。これを1万円くらいで買ってほしいな、と」
「いやいや、それは私だってわかるよ。安すぎでしょ、それ」
「安過ぎではありません。私は、こんな子供ですもの。日本円を入手する方法はありませんから。ゴールドだって、買い取りに持って行くわけにいかないですし」
「ならなおさらだよ。一緒に行くよ。お金も、最近のバイトで少したまってるし」
「バイト?都代ちゃん、高校生には見えないですけど・・・」
「あー、なんていうか、人助け?的な?マジカルな力でぇーみたいな」
「とにかく、そんなことまで甘えるわけにはいきませんよ」
「いいよ。甘えて。というか、私が付いて行きたいんだよ」
ナタリーちゃんはしばらく考えていたようだったけれど、こう言った。
「じゃあ、お願いします!都代ちゃん、ナタリーの日本の保護者になってください」
「う、うん!よろしくね」




