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魔物の森(4)

 言葉はわからなかったけれど、彼が何を言っているのかはわかった。

「ありがとう」

 この状況で、それ以外の言葉だったらびっくりだ。


 業者台から馬車の中へ声をかける。

 つられて私も馬車の中を見た。そこには涙目でこちらをみている小さな女の子と、その母親がいた。

 たぶん、母親だと思う。なんか抱き合ってる雰囲気が、そういう感じ。

 馬車の簡素な感じに比べ、中の二人の身なりはいい。御者の男の子の服装とは違い、生地も仕立ても良さそうな上品な服を着ている。

 なんだろ。訳ありっぽい?

「大丈夫でしたか?怪我はしてないですか?」

 私の言葉に、一瞬、怪訝そうな顔をする母親。やはり言葉は通じないようだ・・・と思ったら女の子の方がびっくりしたような顔でこちらを見つめていた。

 ん?なに?私、変?

 

 御者の男の子が馬車から降りた。


 馬のそばに歩み寄って怪我の様子を確認する。

 こちらから見ていても馬の状況は悪い。首筋にざっくりと引っかかれ傷が出来ている。そこから血が流れ、たてがみを濡らしていた。


 私も近寄る。


 一応、治癒魔法も習ったからね。


 マウリツィオ師匠が教えてくれた治癒魔法は、自分の魔力を他者に流すことで怪我をした生物の体内へ生命エネルギーを与えるのが基本となる。

 単純なエネルギー転移魔法とは違い、操るのが魔力そのものとなるため高度の魔術に類する・・・らしい。

 そのため、無詠唱で行うことは困難だ。


 私はリュックサックの中からノートを取り出すと、ページをめくった。

「うん、これでいこう」

 治癒魔法、ヒール。カンペを読みながら魔法詠唱した。


 馬の怪我の辺りが、ぽうっと光る。

 傍らにいる男の子が驚いた顔で馬と私を見比べた。信じられないものでも見ているかのような顔で私を見ていた。


 しばらくしてヒールの効果が終わる。

 馬は目をパチクリさせて、ゆっくりと立ち上がった。

「〇△◇・・・」

 相変わらず何を言っているのかはわからないけれど、たぶん「こりゃたまげた」とかいう内容のことを言っている、と思う。

 いや、言い方は私が、今、気分で。


「ヒーリングの魔法ですか。すごいですね」

 ふえ?誰?日本語?

 振り返ると、さっき馬車の中にいた小さな子が私の後ろに立っていた。幼女らしくない表情の欠けた顔で私を見上げていた。

「あ、ありがと・・・」

「お姉さん、日本人ですよね?」

 今度ははっきりと聞き取れた。間違いなく、この女の子は日本語を話していた。

「・・・ええ」

「驚かせてごめんなさい。私の名前はナターリエ。ナタリーって呼んでください」

「あ、はい。私は都代です。前田、都代」

「前だ、とよ?」

「・・・。そういうのはやめてください」

 はっとして目を逸らすナタリー。

「す、すみません。その、つい・・・なんというか・・・つい・・・」

 ふっと笑う。

「いいですよ。そういじられるのは慣れていますから」

「本当にごめんなさい。命の恩人なのに。大変失礼なことを口走ってしまいました」


 最初の驚きが過ぎ去ってみれば・・・


 目の前の女の子は、とんでもなく可憐で美しい幼女だった。


 言い切ってしまって問題ない。


 なぜならば、さっきからずっと、マウリツィオ師匠が固まってしまって一言も話さないからだ。

 師匠を硬直させてしまうほどの破壊力で、この幼女は芸術的に美しい。


 髪の色は金色。薄茶色とか、白っぽい黄色とかじゃない。まさに金色。光り輝くような黄金色。よく梳かされているのだろう、サラサラで肩へ流れていく髪も艶々としている。

 瞳はエメラルド。透き通るような淡いグリーン。白い肌。整った顔立ち・・・


「まるでお人形さんのよう・・・」

 今度は幼女がはっとする番だった。

「ご、ごめんなさい。気にしてましたか?ごめんなさい、つい・・・」

「いえ、気になさらずに。言われ慣れていますから」

 そう答えながら、西洋人形は微笑んだ。


「あああ・・・とろけてしまうわ・・・」

 唐突にマウリツィオ師匠が脳内で叫んだ。・・・じゃかましいわ。


「それに、都代さんの、何度も謝る感じ?すっごく日本人っぽくて懐かしいです」

「・・・懐かしい?」

「ええ。私、転生者ですから。こちらに転生してきて6年になります」

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