魔物の森(1)
「これは・・・魔物が出てきそうな森ですな」
「いざとなったら、マウリツィオ師匠、助けてね」
「もちろんそのつもりですけれど・・・さっきみたいに不用意な行動はしないでくださいね」
「さっきのって?」
私、なんかしたっけ?
「名乗れ、と言われて自分の名前を叫んだことですよ。もしもトラップとか仕掛けられていて、許可のないものは攻撃されるとかっていう魔法だったらどうなっていたことか」
あー、そういうこともあるのか。そうだよね、ここはもう異世界なんだもの。日本の常識で考えていると危険だね。
「ということは、ここからは厨二病全開の思考でいけば、むしろうまくいく、と」
「・・・それがどういう意味なのかわかりませんな・・・」
まずは方角を確認する。
空を見上げたけれど鬱蒼とした森だった。背の高い杉のような木が視界を遮っていて太陽は確認出来なかった。
仕方ない。
方位磁石を取り出した。
100均で買ったやつだ。
「一応、方角は定まるね」
この世界が、地球と同じように地磁気があるかどうかはわからない。わかんないけど、とりあえず一方向は指していた。
「じゃあ、あの木を目印に行こう」
広い森の中、適当に歩いていたら、元の場所にさえ戻っては来れないからね。
最初の目標の木の近くまで来た。
そこは丘状になっていた。巨木が林立しているし、蔦や茂みが邪魔をするからまっすぐには歩けなかったし、丘に登ったところで遠くまで見えるわけでもないのだけど、それでも少し周辺が見える。
「さっきの転移の部屋、あれだね」
「見えますな。この木は周辺よりも高いところに立っているし、古く大きな木ですから、遠くからでも見えるかもしれませんな。よく覚えておくと良いでしょう」
「うん。覚える。メモ、するね。あと、カメラで撮っとく」
スマホで撮影するよ。どうせ電波は無いから、省エネモードで通信遮断しているけどね。
「ところで、少し寒いかな。ちょっとジャケット着るね」
師匠を一度地面に降ろし、リュックから防水ジャケットを取り出して重ね着した。気温は15度くらいかな?少しひんやりとしている。太陽は直接見えないけれど、時々木漏れ日のようなものが差し込んでいるから、晴れているはずだ。
準備が出来たので、次の目標を探す。
周囲をよく見渡すと、この木から方位磁石でいうと東に向かって獣道があるのを発見した。
「あれを辿りましょうか、都代ちゃん」
他にいい案も無いから、師匠の言う通りにする。
獣道を進み始めて5分くらい経った時、師匠が突然「止まって!」と叫んだ。
叫んだ、と言っても、基本、声に出さないでテレパシー状態で会話しているんだけどね。
「なんです?師匠」
「体、借りますよ」
そう言うと師匠は、私の意識の上に上がって来た。
例えるのが難しいんだけど、FPSゲームとかしていて、急にストーリーモードになった時みたいな感じ。急に操作を受け付けなくなって戸惑う感じ?
意識はあるし、視界も変わらないんだけど、勝手に体が動くよ。
私は森の中を走っていた。根っことか泥濘とかあるんだけど、うまく避けていく。
すごいな!私よりも反射神経がいい。
「アイススフィア!」
師匠が魔法を発動。周囲に氷の塊みたいなのかいくつも出来る。どれも野球のボールくらいの大きさ。
ほおお・・・不思議な光景に感動する。リアルに見るゲーム世界だ。
「アイスニードル!」
氷の塊の一つが形を変えて細く尖った形状になる。長さ30~50センチの氷の杭みたいなやつだ。
形状変換が終わったら、ビュン、と飛び去っていく。
ドス、ドス!
アイスニードルは森の中にいる何かに突き刺さったようだ。
「もう大丈夫でしょう。戻しますよ(ユーハブ コントロール)、都代ちゃん」
「アイ、ハブ」
ユーハブ コントロール、と言われたので、答えておいた。飛行機のパイロットが操縦を変わる時に言うやつだ。
「お、動く」
練習で何度かやったけど、不思議な感覚だなあ。
「都代ちゃん、大丈夫ですか?気分悪くなったり、してないですか?」
「ううん?大丈夫だよ」
「他人に勝手に体を動かされて、視界や音だけは聞こえるんですから、普通は気持ち悪くなったりするはずなんですけどね」
「いや、慣れてるから。ゲームで」
チュートリアルとかで勝手に動くやつだよね、これ。
きっと未来でフルダイブ型MMOが配信された時には、私の気分がわかるはずだ。
「チュートリアルですか・・・まあ、それに近いとも言えますかな・・・それよりも、倒した魔物を確認してください」
「あ、はーい」
私は返事をしてアイスニードルが飛んで行った方へ進む。藪を掻き分けると、大きめの犬くらい大きさの魔物が横たわっていた。イノシシかな?
「スモールボアですね。野生の豚が魔物化したものです。一応食べられると思いますけど、どうしますか?」
「・・・食べるって・・・誰が捌くの、これ」
「ですよね」
魔物と言っても、野生動物に近いものだったらしい。普通にジビエで頂くことも出来そうだというけれど、私は遠慮した。
そこまでガチに冒険者をしようとは思っていないので。
「じゃあ、都代ちゃん、ファイヤーボールで焼いてしまってください。焼いたら何かドロップするかもしれません」
「そうなの?ファイヤーボール!」
私の唯一の攻撃魔法、ファイヤーボール。師匠が雑魚モンスターを私に任せなかった理由・・・それは私がファイヤーボールしか使えないからだ。
攻撃力を問わないのなら、風魔法も氷属性のも、雷系も使えるよ?
けど、雷系は森の中だと転移できる電気が無いし、風も氷も攻撃力というレベルの物は撃てない。ファイヤーボールを飛ばすと・・・こんなジャングル一歩手前の森の中では、山火事になる可能性がある。
目の前の動かない対象物なら、かなりコントロール出来るけど、敵に向かって、それで的を外したら、けっこうやばい。
そんなわけで、ファイヤーボールで焼くと、魔物は跡形もなく消えた。
そこに小さな小石のようなものを残して。




