転移の部屋
通路は・・・文字通りの亀裂で、踏み込んだ先に地面があった。
え、ほら、なんか、こっちとあっちの中間のワープゾーン的な何かがあるのかな、って思ってて。
ローディングタイム的なやつ?
ま、そういうのは無かったよ。
通り抜けた先は薄暗い場所だった。
ひんやりとした空気は、湿り気を帯びていて、物音一つしなかった。
少しづつ目が慣れてくると、土の壁っぽいものが見えてきた。
地下室?
「ダンジョン、というわけではないようですね」
マウリツィオ師匠が辺りを見渡しながら言った。
「都代ちゃん、壁まで移動しましょう。ぼんやり明るいのは魔法による光だと思います。ということは管理された場所だということです」
「へえ、この灯り、魔法なんだ・・・」
天井を見上げると、雲っぽいというか霧っぽいというか、そんな感じのものが広がっていた。もちろん、そんなに高い場所じゃない。せいぜい数メートルというくらい。
本当の天井がどうなっているかはわからないけれど、その雲っぽいのが発光していて、ぼんやりと明るいのだ。
壁まで来た。
床は土っぽい。湿り気はあるけど靴が沈むほどでもない。
壁に沿って歩いていく。
目が慣れてきた。どうやら学校の体育館の半分くらいの広さの空間だ。反対側の壁も真っ黒でサイズ感が掴みにくかったようだ。
丁度、正方形だと思う。
天井は体育館ほど高いわけじゃなく、日本の普通の部屋くらいより少し高いくらい?あ、雲っぽいやつの高さまでで、ね。
部屋の・・・もう部屋って表現しちゃうけど、部屋の中には私たち以外に人はいない。というか誰もいない。
転移してきた歪みは部屋の中心付近。
まるで、転移の歪みを守るために作られた部屋みたい。
「ああ、そういう可能性もありますね」
「え?」
「都代ちゃん、今は緊急時に備えてシンクロしてますから。考えていることがわかります」
「え?・・・私、師匠の考えていること、少しもわからないんだけど・・・」
「・・・それは・・・熟練度の差というか・・・」
「そうなんだ・・・なんかずるい」
「まあ、それはともかく、この部屋は転移の歪みを守る部屋なのかもしれませんね。ある種の魔法なら、この程度の部屋なら1日もあれば作れますからね」
「え!それはすごいね。パワーショベルとかよりも凄いかも」
「だとすると、どこかに外に通じる扉が・・・」
「あ、あった」
壁の端まで行って、90度曲がり、しばらく行ったところで扉があった。
石の扉だ。
普通に見たら重すぎて動きそうにない。
「魔法によるプロテクトが掛かっています。許可されたものしか通さない仕掛けのようです」
「えー?ここまで来たのに、外にも出られないの?」
私は、扉をパン、パンと叩いた。冷やっこい感触だった。本当に石で出来ているらしい。パンパン叩いても、びくともしない。ペチ、ペチ、と音がするだけだ。
「開いて~このドア開いて~」
「そんなことで開くわけない・・・」
マウリツィオ師匠が途中で言葉を止めました。扉の中央付近が青く光り出したからです。
「なにこれ?」
何か書いてある。
「汝の名を名乗れ。許可のある者だけが、この扉を使用できる」
マウリツィオ師匠が、少し震えた声で読み上げたよ。なんで震えてるの?
「前田都代!」
「な!都代ちゃん、不用意過ぎでしょ!」
名乗ったら師匠に怒られたよ。いや、名乗れって言われたし。
ゴゴゴゴ・・・・
何処からともなく重いものを引きずるような音が・・・
・・・扉が開いていく・・・
「どうして都代ちゃんの名前で扉が開く・・・?」
師匠が呆然とした声を出した。
ま、いいじゃない。扉は開いたんだから。きっと誰かが私の名前も登録してくれたんだよ、きっと。
じゃなきゃ、許可あるものっていう表現が、特定の人を指しているわけじゃなくて「心が綺麗な人」とか「悪意のない旅人」とか「勇者」とか、なんかそういうのを指しているんじゃないかな。
扉が開くのは遅く、ゆっくりと光が差し込んできた。
そうして開いた扉の向こうには森が広がっていた。
鬱蒼とした・・・蔦の絡まる、魔物の棲んでそうな・・・森だった。




