ヘルハウンド
で、だ。
マウリツィオ師匠、これの何処がバイトなんです?
ただのスパルタ魔法練習じゃないですか!
「都代ちゃん、消えたヘルハウンドのあたりを探してください」
「ふぇ?消えた・・・?」
振り返ると倒したはずの黒焦げのヘルハウンドの死体が無い。
一瞬、あの魔犬は私の妄想が生み出した錯覚だったのか、と思った。
けど、地面には焼け焦げた跡がある。
錯覚なんかじゃない。
「探す?何を?」
「宝石、指輪、ヘルハウンドはそういうものが大好きなので、拾うと体内にため込む習性があります」
・・・。
ドロップ品?
「以前から、このあたりには魔物が時々現れていました。たぶん、この近くに異世界に繋がる歪みがあるんじゃないかと思います。そこから魔素が流れ出し、それが野良犬に影響を与え、魔犬、モンスターと化す。私のいた世界でも、魔物は普通の動物に過剰な魔素の影響があって産まれてくるもの、とされていました。」
師匠は言葉を区切る。
「魔物は、元々は普通の動物です。けれど、一度魔素に侵されると、その身はエネルギーとして喰い尽くされていきます。ヘルハウンドは自らの肉体を糧に大型化していくんです。最終的には生身の体を持たない魔物になります。今回のやつは、そうなる一歩手前の状態でしたね」
「師匠、私は以前にイギリスでヘルハウンドが出現したという記録を読んだことがあります」
「ほお、興味深い」
「シャーロック・ホームズのバスカビルの犬、という話の元になったのが、ヘルハウンドの伝説だったとかって書かれていたと思います。師匠は、何百年も前のイギリスに現れた魔犬の伝承が、この魔物に関連していると思いますか?」
「私は、その記録を読んだことは無いからね。正確なところはわからないよ。しかし、今回の、いや、このあたりで発生している魔物達は、間違いなく、この近くで口を開けている異世界との接点、歪み、が関係しているよ。その古いイギリスの魔犬も、ひょっとしたら同じように異世界から流れ込んだ魔素が関係しているのかもしれないね」
私は焦げた地面をつぶさに見ていく。
そして、それを見つけた。
「師匠、ペンダントが落ちています」
「うん、回収しておきましょう。それがヘルハウンドの核になっていたものです。魔物化し始めた者たちは、宝石や貴金属を好むようになります。宝石は魔素を集めやすく、貴金属は魔素を実体化させる触媒になりますから」
「けど、師匠、まだわかりません。これの何処がアルバイトなんです?」
マウリツィオ師匠は不敵に笑った。いや、黒猫が笑ったような感じがした。
「あれだけ強大な魔物になった核ですから。何処にでもある安物ってわけではないはずです。値打ちがあるはずです。そのペンダントを警察に届けましょう。きっと落とし主が現れて礼をしてくるに違いありません」
「え?落とし物のお礼が、バイト代?ってこと?」
「そうですよー?何か問題でも?」
「・・・いや、いいんだけど・・・そういうことなら」
「それよりも、ですよ、都代ちゃん。さっきも言いましたけど、ああいう魔物は以前は多くは無かったのです。なので、きっと、空間の歪みは最近になって出来たもの、と考えられるのです。それも、ここ1か月くらいの間で」
「何か起きているのかなあ」
「起きてるんでしょうね。ひょっとすると、これはレナータ様の仕業かもしれませんね。あの方なら・・・空間に歪みの一つや二つ、作っても不思議はないように思います」
「レナータって・・・梨音が?交通事故で入院しているはずじゃ・・・」
「それもフェイクかもしれません・・・」




