化け物と世界
一人残された梨音。
海翔の「化け物だ」という言葉が耳について離れなかった。
「化け物、でしょうか」
レナータの常識では、人間は魔法を使えて当たり前。魔法こそが人を獣と分ける叡智だと言っても過言ではない。
人は魔法を使うことが出来る。
それはこの世界でも同じだ。
都代が魔法を習得できたことがそれを証明している。
ならば魔法を使えることが「化け物」というのは間違っている。
でも、この世界に魔法は存在していないようだ。
都代が使えるのだから、どこかにはあるのかもしれないのだけど、世間的には存在していないことになっている。
それならば、梨音は化け物なのだろうか。
学校の社会の教科書にちらっと書かれていた中世ヨーロッパでの魔女狩りのこと。
魔法らしきものが歴史に出てくるのは、そのくらいだったため、気にはなっていた。
レナータの歴史では、同じ頃に魔法は始まり、それは社会を変革させた。こちらの世界では、魔法は迫害され、徹底的に排除された。
魔法とは禁忌。
魔法は・・・化け物・・・。
それに・・・
私はレナータ・ディ・スカファーティー。
本当の倉本梨音は異世界で目覚めたはず。ここにいるのは、梨音の殻を被った異世界人。海翔の友人だった少女ではない。
ただ海翔の優しさを利用していただけだったのではないか?
前田都代が、簡単に梨音の言うことを信じたから。梨音の中身がレナータだってことを受け入れたから。
海翔も受け入れてくれると、勝手に決めつけてしまった。
大きくため息をつく。
「チート」とやらを手に入れるために禁忌魔法を使った。
その結果、異世界の少女と魂が入れ替わった。意味が分からなかったけれど、元に戻る方法は絶望的だと思った。
いや、最初から諦めてもいた。
多大な犠牲を払って、無理に戻ったとしても、どれほどの価値があるというのだろう、とも思った。
レナータは、地方貴族の三女。必死に武術と魔術を学び、スカファーティー領の役に立とうとしてきたけれど、父上にとっては「チート知識」と同等程度の価値しかなかったのだろう。
将来の行く末など知れている。
どうせどこかの貴族に嫁がされるのだ。そうなれば、レナータには自由は無い。
一生、貴族の妻として束縛されて生きるのだ。
それならば、こちらの世界で生きていったほうがいいのではないか。
そう思った。
思っていたけれど・・・。
今は元の世界へ帰りたい。
将来のことはわからない。
けれど、国境警備隊の隊員たち。仕事終わりに飲むエールの旨さ。誰かの恋の行方を肴に飲み明かした夜。街の人たちの顔。
レナータの人生はカンパニア王国スカファーティー領、その国境地帯の街・・・そこにあったのだ。
もう一度大きなため息をつく。
そうして立ち上がった。
顔を上げた先に男が二人、立っていた。
訝しげに眉を顰める梨音。男の一人には見覚えがある。
何を隠そう、梨音の父親だ。義理の、父親だ。一緒に寿司を食べた相手だ。
「お父様?」
父と呼ばれた男は苦笑いで答える。
「無理をしなくても良い。私はあなたの父ではないことを知っている」
「・・・。ええ、血のつながりが無いことは・・・存じていますけれど」
「そうではない。あなたの中身が、既に倉本梨音ではない、ということを知っているのです」
「それは・・・どういう意味でしょうか」
倉本雅臣は、寂しそうに笑う。
「ここで怒りを表さないことは、あなたが倉本梨音ではないと認めるということですね」
梨音は答えなかった。
「一緒に来てください。私達は、あなたのような異世界転生者を導く組織の者です。その魔法力、異世界の知識、私達にとっては有用です」
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