梨音と魔法と設定と(5)
梨音が海にディストラクトライトニング・・・雷を落とした同時刻。
折湊市に瞬間的な停電が発生した。
停電時間、約1秒。
梨音は発電所、正確には変電施設から電力を奪った。
事前に図書室での学習を通して、必要な時間は計算していたけれど、実際には直感で魔法を行使した。
この時稼働していた原子炉は1基のみ。
その定格出力は、およそ100万キロワット。
およそ1秒間で280kWhとなる。
落雷のエネルギーとしては小さい方・・・ではあったが、地表近くからの落雷であり、自然現象で発生するものよりも遥かに効率が高い。
TNT火薬240キロ分ぐらいのエネルギーである。
その瞬間、ディストラクトライトニングで発生した雷で瞬間的に大気は3万度まで温度が上昇。
急激に熱せられた大気は衝撃波を発生、同時に熱せられた海水が一気に蒸発することで大波が発生した。
それを目の当たりにした海翔。
数百メートル先・・・学校のグラウンドの端から端までくらいよりちょっと遠いかな?くらい・・・に突然の落雷。
けれど、あまりに近過ぎて雷だと思うよりも、いきなり海上に爆弾でも落ちたのかと思った。
眩しい閃光に一瞬遅れて耳をつんざく爆発音。
思わず頭を抱えてしゃがみ込んだら、梨音に引き起こされた。
顔を上げたら高波が見えて、這いずるようにして逃げた。
海翔はベンチに腰を下ろしても、まだ混乱していた。
命の危機からの生還・・・まだ目の前で起きた現象が、魔法なのか自然現象なのかということよりも、すっごく危険な爆発から運良く逃げられた、という感覚の方が勝っていた。
「カイ兄様?大丈夫ですか?」
海翔は虚ろな目を梨音に向ける。
「・・・梨音。梨音は平気なの?あんな・・・雷を目の前で・・・」
「それは・・・安全な距離でしたよ?」
「安全・・・?」
「ちゃんと距離を取りましたし。ちょっと威力は想定以上でしたけど。怪我もしてませんし。それに、私の魔法ですから」
「魔法・・・」
魔法・・・魔法・・・魔法・・・
「梨音はあれが魔法だというの?」
「ええ。私は異世界から来た魔法士です」
「・・・いや梨音でしょ?」
「体は梨音ですけれど、中身は違います。私の名前はレナータ・ディ・スカファーティー。国境警備を主任務とする魔法騎士で・・・」
「やめてくれ!」
海翔は梨音を遮って叫んだ。
「やめてくれ!いい加減にしろよ、梨音。何が魔法だよ?あれは雷じゃないか!どうなってるのかわからないけれど、あれは雷!何処へ落ちるのかわからないものだ!ひょっとしたら死んでいたのかもしれないんだぞ!」
「ですから、あれはコントロールされた雷属性魔法、ディストラクトライ・・・」
「いい加減にしてくれ!」
梨音は口を閉じる。
カイ兄様は混乱しているのですね?と思う。ちょっとやり過ぎでしたか。
「カイ兄様・・・ごめんなさい。ちょっとやり過ぎでした」
「やり過ぎ・・・?」
「あんなに威力の高い魔法になるとは思っていなかったんです。雷属性魔法には慣れていなくて・・・」
海翔は命の危険から興奮状態にあった。アドレナリン分泌による怒りと同時に恐怖心が心の中に渦巻いていた。
それなのに目の前の少女は、魔法だとか安全にコントロールされていた、だとかわけのわからないことを言っている。海翔は感情的になりつつあった。
「梨音!あれが魔法だというのなら、僕は梨音には近づかない!あれは雷だ!平気な顔であんなものを落とせる人間がいるなんて認められない」
梨音は悲しそうな顔をした。だがそんなことで海翔の興奮状態は収まらなかった。
「もしもあれが梨音の起こしたことだというのなら・・・おまえは・・・化け物だよ」
それだけ言うと海翔は立ち上がった。
梨音から目を逸らす。
一瞬、躊躇する。けれど、再び目を合わすことなく海翔は自分の自転車に向かって歩き出した。
「カイ兄様・・・」
梨音は悲しそうな声で呼びかける。
けれど、海翔はそのまま立ち去って行った。




