梨音と魔法と設定と(4)
「手品だと思ってますね?」
梨音は海翔を見て、少し不機嫌そうに言った。
「そんなことは無いよ。うん、これは魔法だとも」
海翔は取ってつけたように答えた。
「本物の魔法ですよ」
梨音は、両手の上のファイヤーボールをつまらなさそうに海に向かって撃ち出した。
テニスボールくらいの大きさのファイヤーボールは、ビュンっと音を立てて波打ち際へ飛んでいくと、ジュバッとバケツくらいの大きさで海水を蒸発させて泡となり消えていった。
都代の練習中のファイヤーボールとは比べ物にならない。
球速は150キロくらいはあるだろう。メジャーリーグ級のスピードだ。
海翔はあっけにとられてそれを見ていた。
あれは一体、どんな仕掛けの手品なんだ?
それとも、僕の目の錯覚か?
花火か?大きな打ち上げ花火なら、あのくらいのことが出来る・・・。そんな花火、売ってるものなのか?作るにしても危険過ぎる。
いや、それならやっぱり僕の目の錯覚、錯覚を誘う手品・・・?
「信じてませんか?カイ兄様」
「信じる、信じてるよ、梨音の設定を」
混乱している海翔。設定を信じる、と言ってしまったら、逆にそれは「信じてない」と言っているようなものだ。
「わかりました。じゃあオッキイやつをぶち込んであげますわ」
そう言って梨音が暗い笑みを浮かべた。令嬢モードから魔法騎士モードへ移行だ。
「オッキイやつって・・・」
「カイ兄様」
「なんだい?急に改まって」
「空を見上げてください」
ん?と言って上を向く海翔。
「空には雲一つありませんね?」
「いや、少しはあるよ。晴天ってほどじゃ・・・」
「細かいことはいいじゃないですか。今の天気は概ね晴れ。雷がなるはずはないでしょう?」
「うん?まあそうだね」
「これから、海に雷を落とします。魔法で」
「え?」
梨音が目を閉じる。
大きく息を吸って、止める。
「電力を変換、エネルギーを移送・・・」
ぶつぶつとつぶやく梨音。
十数秒後、梨音は目を開けた。
「ディストラクティブライトニング!」
波打ち際から数百メートル先の沖合。
何もない空間に突如として稲光が垂直に走った。
圧倒的な眩しさで光の柱がそそり立つ!
バリ、ドギャン!
一瞬遅れて雷鳴が鳴り響く。
ズババーン!
まるで目の前で電車と大型トラックが正面衝突したくらいの破壊的な轟音が襲った。
直後、ものすごい勢いで水柱が上がる。
「うぐわぁーあ!」
反射的に仰け反る海翔。
そのまま後ろへ倒れこむように砂浜にしゃがみ込む。
ピリピリとした感触を肌に感じた。辺り一面、帯電しているような感じだ。
両手で頭を抱え込む。
「あ、逃げましょう、カイ兄様」
梨音は海面を見たまま、へたり込んでいる海翔の左手を掴んで引っ張った。
「え?」
「大波が、来ます」
反射的に振り返る海翔。その目に数メートルの波が映る。
「うわあぁーあ!」
慌てて4つ足状態で駆け出す海翔。その手を引っ張りながら走り出す梨音。砂に足を取られながらも、数十メートルを走った。
直後、浜に大波が打ち寄せた。
ザバババーーン、と波が浜に到達し、通常よりも20メートルくらい先まで波が到達する。
梨音と海翔の二人は波の届かない位置まで逃げ切れていた。
ほっと息をつく梨音。
言葉も出ない海翔。
「どうですか?カイ兄様。これで魔法を信じてもらえますか?」
冷や汗を隠してクールに言い放つ。
驚愕の表情のまま梨音を見つめる海翔。
ふうっとため息をつく。
「とにかく、ここを離れましょうか。ちょっとやり過ぎました。人が来る前に移動しましょう」
そう言って自転車の方へ歩き出す梨音。
一瞬、躊躇い、それでも梨音の後をついて歩き出す海翔。
二人は無言のまま自転車に乗り、海岸を離れた。
途中、パトカーが2台ほど海岸へ走っていくのとすれ違った。
けれども、呼び止められることもなく・・・。
十五分後。
二人は海岸から少し離れた場所にいた。
小高い丘。
ウォーキングをする人のために設置されたベンチがあった。
ベンチの隣に自転車を置いて、梨音が腰を下ろす。
少し躊躇い、無言のまま海翔も梨音の隣へ腰を掛けた。
他に誰もいない。
「思ったよりも威力があったの。驚かせてごめんなさい」
「ああ」
「あれは雷属性魔法。ディストラクティブライトニング。発電所の電気を少し使った・・・」




