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梨音と魔法と設定と(3)

 予想はしていた、と梨音は思う。

 カイ兄様は魔法習得は出来ない。それは年齢が高すぎるから。


 カンパニア王国において、平民の子供たちは、魔法習得の儀式を10歳になって初めての冬に行う。

 田舎の方に行けば、コムーネごと一度に執り行うこともあるというけれど、スカファーティー領の都市は大きく、一度に執り行うには人数が多過ぎた。そこで街の住所で分けて順番に行われている。

 そのため比較的忙しくない冬に行われるのだ。


 貴族や裕福な商人の家庭では、それよりも早くに魔法習得儀式をすることがある。


 レナータの魔法習得は4歳の時だ。

 早くに習得することで魔法力は高まると、一般的には思われている。だけれど、現代日本に比べて子供の生存率は低い。

 カンパニア王国の平均寿命は43歳くらいだけれど、人が40代半ばでバタバタと死んでいくわけではない。乳幼児死亡率が高いから、平均値を押し下げているだけである。

 生存出来ないかもしれない子供に魔法を習得させる手間を掛けるのは無駄だ、と思われているのだ。

 なにせ魔法を使えるようになるためには、最初の儀式だけではなく、毎日の訓練が欠かせない。体内の魔法力の流れをコントロールし続けることで、より大きな、より広い範囲の事象を操ることが出来るようになっていくのだ。

 

 平民の子が10歳で儀式を通じて最初の魔法を使えるようになると、一日、最低でも1時間くらいの練習をする。これは一人で出来るかというと、まず無理で、誰かに魔法力のコントロールを教えてもらう必要がある。


 そう、丁度、都代がマウリツィオについてもらって魔法の練習をしているように。


 それと、魔法は火や水や風を発生させる。

 あまり低い年齢で魔法を使うと、生活上の安全に関わってくる。

 低年齢のうちから魔法を教えないのは、その安全管理が大変だから、という理由もある。


 だけれど、一般的に12歳を超えてしまうと、今度は習得することが困難になってくる。

 はっきりとした理由はカンパニア王国でもわかってはいない。

 

 もちろんいくつかの例外はある。

 10歳の儀式で魔法適性が無く、魔法を使えないだろうとされていた男が、30歳を過ぎてから魔法力取得に成功し、その後、大魔法士として伝説の魔物と戦う話なんかが有名だ。

 

でもそんなのは例外だ。

 魔法力は、12歳を過ぎると習得出来なくなる。

 だから海翔が魔法を使えるようにならなくても仕方が無いことなのだ。


「カイ兄様、気を落とさないよう」

「いや、梨音、僕は別に平気だよ」

 そんなことよりも、海翔は思う。急に魔法の練習と言われてしまったからな、梨音の「設定」について知りたいことがあるのだ。

「それよりも梨音、さっき広報館で言った『本当のこと』について教えてくれないか?」

 梨音が海翔の目をじっと見つめる。海翔も、じっと見つめ返す。

 梨音は、ふっと息を吐いた。

「わかりました、カイ兄様。お話をする前に、先に魔法をお見せしましょう」

「う、うん」

 海翔は少し引き気味で頷いた。

魔法を見せるって?いったいどんな手品を見せてくれるんだろうか。

それとも雲を指さして「あれを消して見せる」とか言うんだろうか。

「じゃあ、最初は初級魔法、ファイヤーボール」

 梨音は海翔によく見えるように両手を突き出した。

 その両手を揃えてお椀を持ち上げるような形にする。

 梨音がその手に集中すると、そこにテニスボール程度の火の玉が現れた。

「うわ!梨音!すげえな」

 大袈裟なくらい驚く海翔。びっくりして2歩ほど下がってしまったくらいだ。

 まじまじと梨音の両手の上を注視する。


 どこからどう見ても「火」だ。


 メラメラの揺らめきながら、だけれども不自然に丸い形を保って浮いているように見えた。

 海翔は、梨音、すげえ手品を出来るんだな、と心底から驚いていた。

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