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梨音と魔法と設定と(2)

昨日に引き続き、カイ兄様の視点です。

 原子力発電所の施設を出た。

 梨音の後ろをついていく。


「梨音、道はわかるのかい?」

「ええ、カイ兄様。先ほど模型で確認しましたから。ぐるっと回りこむと海に出れます」

「へえ・・・そうなんだ」

 梨音の自転車はゆっくりと走っていく。

 しばらく行くと右折する。川沿いの道だ。

 百メートルくらいで舗装が無くなった。

 砂利道はロードバイクでは走りにくい・・・けれど気を付ければなんとか・・・。


 そのうちに海が見えてきた。

 川の最終地点が近づく。草の生えた堤防が終わり、砂利が砂浜へと続いていく。


 何処までも広がる景色。

 

 海だね。


 梨音が自転車を停めた。

 僕のロードバイクにはスタンドが無いから梨音の自転車に寄りかからせてもらう。

「もう少し、歩きましょう」

 梨音が砂浜へと誘う。

 微笑んだ梨音の表情は、ついこの間まで小学生だった少女の顔には見えなかった。微笑みの向こう側に誘うような妖艶さ・・・幼馴染に何言ってるんだ・・・けれど、なんだ、この気持ち・・・まるで高校の女子くらいの・・・


 いや、高校の同級生だってこんな表情はしないだろう。

 僕を見透かすようなグレーの瞳。瞳だけでどれだけのことを訴えかけてくるのだろう。

その瞳には憂いが見える。

気のせいだろうか?

子供っぽさは無い。

砂浜へと歩いていく後ろ姿は、大人になりかけた子供の体だったけれど、そのシルエットは、歩き方は、違って見える。


これも「設定」なのか?


梨音が立ち止まった。


「カイ兄様。私の手を握ってください」

「え?」

 驚いて聞き返す。梨音の手・・・幼馴染だ、別に考える必要は無い。無いんだけど、躊躇してしまった。それは梨音が・・・大人っぽいからだ。

 梨音は躊躇う僕の手を握る。

「これから言う言葉を復唱してください」

「え?」

「先週、カイ兄様は言いました。私と魔法の練習がしたいと。だからカイ兄様にも儀式を行います」

「えっと、魔法?儀式?」

そういえば先週、そんなことも言っていたっけ?

僕は魔法の練習がしたい、とは言わなかったと思うけど。梨音の友達と出掛ける話を聞いて、僕も梨音と一緒にサイクリングがしたい、と言ったつもりだった。梨音は僕が魔法の練習をしたいと思っていると勘違いしたのだろう。

 まあ、これも梨音の「設定」だ。

 付き合ってやろうじゃないか。


「He that observeth the wind shall not ・・・」

「ヒーザットオブザーブ・・・なんだっけ?」

「the wind shall not・・・」

「ザウインドシャルナット・・・」

 突然の英語。僕は英語は得意科目ではない。無いけど、梨音の発音がネイティブっぽいことはわかる。

 梨音は学校の成績は悪いほうのはずだ。

 英語は・・・半分イタリア人だから?

 いや、でも、本当の父親の記憶は無いって言っていたよな?

「Enhanced energy transfer・・・」

 呪文のような英語の復唱が終わった。

「カイ兄様。目を閉じて下さい」

「目を・・・」

 言われるままに目を閉じる。

 いやでも、ちょっと、これ・・・ひょっとしてこれは・・・キスイベント・・・?


「魔法力を感じてください」

 魔法力?

 キスではないらしい。ちょっと恥ずかしい。


「手の上に熱を集めるイメージです」

 そう言われても、どうしたらいいのかわからない。一応、梨音の言う通り魔法力とやらも感じようと努力はしてみたけれど、さっぱりわからない。

 もちろん、手の上に熱も感じることは無い。


 梨音がふうっと息を吐いたのがわかった。


「もういいですよ、カイ兄様」

 僕は目を開けた。

 何故か残念そうな顔をした梨音がそこにいた。

 なんだろう、僕は悪いことしたような気持ちになった。


「気にしなくても良いのですよ、カイ兄様」

「・・・何を?」

「カイ兄様は高校1年生、少し年齢が高過ぎます。儀式がうまくいく可能性は元々少なかったのです」

「可能性?」

「ええ。魔法習得の儀式は10歳頃に受けるのが習わしなのです。遅くても12歳頃までには・・・。それよりも遅いと、魔法を感じる力が得られない、とされているのです」

 お、おう。一瞬、梨音の話を信じ掛けてしまった。

 これは、設定、梨音の設定だ。黙って聞いてやろうじゃないか。

「そのため、カイ兄様の年齢では遅すぎるのです。そのうえ場所も神殿では無いし、私は神官ではありません。成功する可能性の方が低かったのです」

「そうか・・・」

「残念ですけど、カイ兄様は一生、魔法を習得することは出来ません」

 すごくどうでもいい・・・はずだ。

 魔法なんてあるはずがない。あるはずはない、のだけど・・・。

 なんかすごく残念な気持ちになるな。

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