魔法アシスト自転車(2)
梨音は残念そうに首を振った。
「ウインドを二つ同時にコントロールするのは難しいので・・・ちょっと危険だと思います。今も、停まるのギリギリでしたし・・・」
「そうか・・・」
別に魔法がなんちゃらっていうのを信じていたわけじゃないからね?けっこう必死にスピードを出しても普通のシティー車で追い付いてくる梨音が不思議だっただけだから。何か理由があるんだ、きっと。偶然なだけかもしれないし・・・
「それよりカイ兄様。スピードが速すぎます。確かにもっと速くてもいいですよ、とは言いましたけど・・・」
「あ、そうだよね?ごめん」
うん、つい梨音が涼しい顔でついてくるから対抗意識でスピードを出し過ぎていた。きっと梨音も必死に追い付こうとペダルを漕いだんだろう。平気そうな顔をしているけれど、梨音は大抵いつもポーカーフェイスだった。平気そうにみえるけど、本当はすごくしんどいんだ。うん、きっとそうだ。そうに違いない。
「風魔法はスピードを出せますけど、追い風の中を走っているので風を切っている感じが全くしないんです。せっかくなので、気持ちのいい風を感じていたいです」
梨音はあくまで設定にこだわるらしい。そうか、まあそれなら付き合ってやるか。
「わかったよ、梨音。じゃああとは適度にゆっくり走るよ」
海翔は青に変わった信号を見て、ゆっくりと走りはじめた。
原子力発電所広報館「ガイアパーク」は2階建ての施設だった。
自転車を停めて館内に入る。
人はあまりいない。人気のスポットというわけではないらしい。
ま、確かに真面目な学習のための展示館、といった趣向だ。壁面には「ガイアちゃん」と書かれた微妙な地球儀のようなキャラクターが描かれているけれど、ガイアちゃんの被り物をした職員がいたりもしない。
というか、館内にはあまり人がいないけれど、屋外の公園施設や、水遊びコーナーには小さい子供を連れた親子連れが結構いた。
「梨音、水遊びとかする?」
梨音は原子力展示ホールを覗き込んでいるところだった。
「カイ兄様は水遊びがしたいのですか?それなら構いませんよ?私は原子力発電について学んできます」
「あ、いや、そういうわけじゃないよ」
梨音は展示ホールに入っていった。
原子力発電の歴史・・・原子力発電の安全・・・海翔も嫌いではない。広大な敷地に想像を超えたエネルギーを発生させている施設。そういう巨大なパワー・・・的な何かというのは、年頃の男の子の憧れではある。
だから、原子力発電所というのは興味がある・・・けれど・・・
梨音は、こういうもの、好きなんだっけ・・・?
少し離れたところから海翔は梨音を観察する。
興味深そうに展示物を丁寧に見て回っている。その表情は真剣だ。
あれも「設定」なんだろうか?
海翔の知る梨音は勉強嫌いだ。文字が列をなしているのを見ただけで目を背けるくらいに勉強が嫌いだ。
海翔は最近の梨音については、1週間前くらいまで疎遠だった。だから、ひょっとしたら何かあって勉強大好きになったのかもしれない・・・
いや、ならないよな、そう簡単には。
ということは、これはやっぱり「設定」か?
原発にやってきて調査をするエージェント的な何か、なのか?




