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都代と魔法の練習(3)

 都代の手の中に小さな炎があった。

「ファイヤーボールだよ、都代ちゃん」

 梨音の言葉に都代の目が見開かれる。


 正しい儀式が行われれば、こちらの世界での魔法は使えるようになるのだな、とマウリツィオは一人頷いていた。

 あ、1匹頷いていた。

 神との契約、それは魔法士から体内の魔法力の感じ方、動かし方を感覚として体得する過程であり、世界と自分が一体であることを信仰することだった。

 本来であれば、それは神殿で行われるべき神聖な儀式なのだが、知識としてのマウリツィオ、大きな魔法力を持つ梨音が一体となれば、神殿なしでもなんとかなるものである。

 理論的には可能だと思っていた。


 でもこれまで何十年も、マウリツィオにはそれを実践する機会が無かった。

 

 確かに過去に異世界からやってきた者と会ったことはある。

 すぐに死んでしまった者、同郷ではなかった者、偶然にも同郷であっても魔力がほとんどなかった者・・・今回のレナータは特別なのだ。

 レナータだからこそ、こんなにも簡単に魔法の習得が出来たのだ。


 マウリツィオは心の心底から震える。喜び、そして少しの恐れ・・・淡い期待。



 都代は梨音の言葉に合わせてファイヤーボールを移動させていく。

 手元からゆっくりと上昇するファイヤーボール。そして30センチほど浮かんだところで、すっと消えて行った。

 張りつめていた息を吐く。梨音も、都代も同じように一呼吸した。


「うまくいったね、都代ちゃん」

「う、うん。あれは・・・魔法・・・?」

「そうだよ、都代ちゃん。私が魔法力を送り込んで手伝いましたけれど、都代ちゃんが発動させた火魔法なのですよ」

「本当に魔法・・・」

 都代は半信半疑だ。


 これは何かの手品かもしれない。

 テレビで種も仕掛けも全く分からない不思議なマジックショーを見たことがある。それとこれではどう違っているのだろう。

 確かに自分の手の中に炎のようなものがあった。熱さも少し感じていた。

 でも、それが梨音の手品じゃないとは言い切れない・・・

「じゃあ、次は都代ちゃんが自分でやってみる番です」

「え?」

「最初の儀式はうまくいきましたから。次は都代ちゃんが自分でファイヤーボールを出してみて」

「え?えー?」

「難しく考えなくていいのよ。さっき体の中に魔法力を感じたでしょう?」

「う、うん。何か温かいものが湧き出るような、流れ込んでくるような・・・」

「流れ込んできたのは私の魔法力。湧き出るような感じがしたのは都代ちゃんの魔法力ですよ。湧き出てきたのはどのあたりから?」

「このあたり・・・」

 みぞおちの辺りを指さしながら都代が梨音を見る。

「じゃあ、もう一度、魔法力が湧き上がってくるイメージを思い出して・・・」


 都代は素直に目を閉じてイメージをする。


 何か温かいものが体の中から湧き上がってくる。


 それは小さい力で体の中にあるのだけれど、ふわっと体全体が宙に浮いていくような、まるで自分が体の中から湧き上がる温かいものになってしまうような浮遊感を伴う。


「そうしたら、左手を開いて・・・そう。そこに熱を集めていく・・・うん、ゆっくりでいいから・・・」


 左の手のひらが熱く感じる・・・都代は、そっと目を開いた。


「出来た・・・」


 ライターの火くらいの炎の塊が手のひらの上にあった。


「私・・・魔法で、火、火を出してる・・・」


 梨音が優しく微笑んだ。


 ふっと炎が消えていく。

 集中力が切れたのが自分でもわかった。


 けれど・・・


 これは手品じゃない。

 ちっちゃな炎だけれど、これは私が自分の力で出した魔法なんだ。



 1時間後。


 都代はライターくらいの炎を出すことに、三回成功していた。

 炎の大きさは中々大きくはならないけど・・・


「あとは練習を繰り返していけば、安定して炎が出せるようになりますよ」

「はい、梨音ちゃん」

「じゃあ、休憩にしてお昼ご飯を食べましょう」

 そう言われて都代は腕時計を見る。

 11時半になっていた。

 びっくりだ。あっという間に時間が経っている。

「もうこんな時間だったんだね」

「都代ちゃん、集中していたもの」

 うんうん、とうなずく都代。

「お昼、何処で食べる?この砂浜でもいいけど・・・」

「向こうに見晴らしのいい場所があるの。そこにしましょう」

 先週にも来たことのある高台の場所。芝があるので、座るのにも丁度いい。景色もいいし。

「うん、じゃあ行こ!梨音ちゃん」

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