自転車の練習をします
藤田海翔視点です。
スマホに電話がかかってきた。
通知名が「倉本家」となっていてテンションが急に上がった。
なんだろう、どうして梨音から電話が掛かってくるのが、そんなに嬉しいのだ?
「はい、海翔です」
『あ、えっと、カイ兄様?梨音です。本日はお暇なり、ますか?』
「あ、うん。暇ではないけど、用事は無いよ」
『では、ちょっとお付き合いして欲しいことがあるのです。今から行くので待っていて貰えますか』
相変わらず変な口調だった。
しばらくしてやってきた梨音は自転車を引いていた。
バスケットには黒猫がいて、じっとこっちを見ていた。
なんだろう?何か監視されているような気にさせる黒猫だ。
いや、べつに僕は梨音に気があるとか、そういうんじゃないよ・・・え、いや、本当に。
なんで僕は黒猫に言い訳しようとしているんだろう・・・不可解だ。
呼び出された理由を梨音に聞くと、自転車の練習がしたいということだった。
近くに公園があるから、そこでいいだろう。
自転車のタイヤには空気が少ししか入っていなかったので、家のポンプで空気を入れ、簡単に点検した。バイト先のリサイクルショップで少し前に中古自転車の手入れについて教えてもらったんだ。
公園で梨音の自転車練習に付き合う。
「荷台を持っているから、バランスを取ってペダルを漕いでみて」
「なるほど、そうやって練習するのですか」
「そうだよ、しっかり持っているから安心して乗ってごらん」
「じゃあ、おねがいします」
なんだか懐かしい。
小さい頃、学校が終わった後、こうやって日が暮れるまで一緒に遊んだっけ。この公園も久しぶりだ。
ふらつく梨音の自転車を支えながら一緒に走る。
「もう一回」
「はあ、はあ、はあ・・・」
息が切れてくる。けれど、なんだか楽しい。
「あ、うまく乗れそうな感じがしました!」
「うん、今のは良かったよ」
30分くらいの練習で梨音は自転車になんとか乗れるようになった。
大きめの自転車だったから少し心配だったけど、これでなんとかなるかも。
「ありがとう、カイ兄様」
「どういたしまして、梨音。けど、以前と違って物覚えが早くなった気がするな。上達が早いよ」
「えっと、それは・・・」
「まあ、梨音もやればできる子ってことだな」
「・・・ええ、そうなんですよ」
梨音が恥ずかしそうにほんの少し目を合わせた後、軽く微笑んで目を逸らした。
なんだろう、この時々見せる妙なかわいらしくて、何処となく色っぽい仕草・・・
体は子供というには大きいけれど、大人というにはまだ早い。なのに仕草だけは妙に大人っぽい。そして大きなグレーの瞳。その目は口よりもはるかに雄弁だ。
帰り際、僕は思い出して細長い包みを梨音に渡した。
「これは・・・?」
「この間、言っていた剣だよ」
梨音が、はっとして僕を大きな目で見つめる。すぐに目を細めてにっこりと笑う。なんて表情豊かなんだろう。
「カイ兄様、ありがとう。剣が無くて心細かったの」
梨音は両手で受け取る。
そして、少し怪訝な顔になる。
「とても軽い、のですね?」
それはそうだろう。プラスチックのオモチャの剣なんだから。
「開けてみたら?」
梨音は驚いた顔で首を振る。
「いえ、剣ですもの!人前で包みを開けるべきではありませんね。家に帰ってからにします。本当にありがとう!」
そう言うと梨音は帰っていった。
なんとなく、何か誤解があるような気がして仕方なかった。




