魔法と自転車
雷魔法について思いついたものの、元々あまり練習していない雷魔法の上に、こちらの世界では電気がそこら中に溢れているわけで、不用意に使って大変なことになっても困るので・・・
とりあえず自重する。
週末に、また人のいない所へ行って試してみることにするよ。
「ねえマウリツィオ」
「はいレナータ様。どうされましたか?」
「マウリツィオは雷魔法についてどう思う?こちらの世界は電気が身近でしょう?使えそうな気がするのだけど」
「そうですね、私は黒猫になってしまったので魔法行使はほとんど出来ないので実践したわけではないのですが・・・サンダースタンやライトニングシュートなどは使えそうです」
サンダースタンとは、電気ショックのことだ。文字通り電気ショックで敵を痺れさせ行動不能にする。
ライトニングシュートは雷をそのまま真横に飛ばすものだ。直撃を受けた敵を丸焦げにする。
確かに、と梨音は頷く。
「週末が楽しみね?マウリツィオ」
微笑んで黒猫マウリツィオを抱え上げる。
「ふにゃあ・・・」
マウリツィオが惚けた・・・
「梨音様~ああ、かわいいな~」
「え?何か言った?」
「あ、いえ、何も」
「それはそうと、海まで歩くと1時間くらいかかるのよね。なにか早くいく方法はないかしら?」
「クルマやバイクが使えればいいのですが・・・梨音様は免許というものを取得できる年齢に達していません」
「そうなのよね。梨音の知識で知っているわ。バスという有料の交通手段もあるようだけど、手持ち資金が300円ちょっとではね・・・」
「では自転車はどうですか?二ホンの国民はママチャリという種類の自転車を愛用していますよ。これは免許も不要ですし、バスケットに私を乗せて貰えれば一緒に移動も出来ます」
「自転車か~。ちょっと待ってね、梨音の知識にアクセスするから・・・。梨音用の自転車があるわね。中学入学祝いに買ってもらったもの、だそうよ。アイボリー色のおしゃれなママチャリタイプね」
「それは良いですね。自転車があれば行動範囲がぐっと広がります。転んだり、事故には気を付けなくてはなりませんが・・・ぜひ活用いたしましょう」
「でもね、一つ問題があるの」
「なんでしょう?」
梨音が困った顔で胸に抱いた黒猫を見下ろす。少し潤んだグレーの瞳にマウリツィオが蕩けそうになったが、続く言葉で正気に戻った。
「梨音、自転車に乗れないらしいのよ」
家に帰るとすぐに、梨音は倉庫から自転車を引き出した。
ほとんど乗っていない真新しい自転車。26インチのオシャレ自転車だ。
梨音の記憶においても、元々自転車に乗るのが苦手だったらしい。
その上、小柄な梨音は26インチという大人サイズの自転車が大き過ぎて足が爪先しか届かない。
結果、まともに走れなくてほとんど乗っていない、ということらしい。
いくら運動神経抜群のレナータでも、体力、筋力ともに虚弱な梨音の体では無理が出来ない上に、そもそもレナータ時代に自転車なんて見たことも聞いたこともない。
そんなんでは乗れるわけがない。
「どうしようかなあ・・・絶対に乗れた方が便利なんだけど・・・」
引っ張り出した自転車を押して道路まで出る。
何処かで練習するしかないか・・・けど、自転車の練習ってどうしたら良いのだろう?
「誰か練習に付き合ってくれそうな人、いないかなあ・・・」
梨音が思案する。梨音の知り合いで、練習に付き合ってくれそうな暇そうな人・・・梨音に好意を持っていて、近くに住んでいる人・・・
母親は無理だ。自転車よりも勉強しろ、と言いそうだし、そもそも今日は仕事で遅くなると言っていた。家にいない。
父親もダメだ。実のところ、梨音になってから5日目だけど、まだ姿を見たことが無い。ブラック?という会社に勤めているらしい。黒い何かを売っている商社か何かだろうか?ビターチョコとかかな?あ、コーラならいいな。あれはクセになる味だ。
あとは・・・
あ、カイ兄様!あの人ならきっと喜んで付き合ってくれるに違いない。




