都代の休息と超S級食材
今日は長めです。
食べ物系の話は長くなりがちですね。
目が覚めた時、ベッドの中だった。
「うん?ここはどこ?」
体がだるくて首だけで周りを見る。カーテンが閉められているのか薄暗い室内だった。板張りの壁。隣のベッド・・・野戦病院みたいだなあ・・・。
「うん、わかってるよ。アンジェラさんのサルーンの二階だね」
誰もいないと思って独り言をつぶやいたつもりだった。
「そうですわ。気が付きましたか?都代」
「レナータ・・・」
「あ、まだ起きてはダメ。もうしばらく寝ていらっしゃい。都代も魔法力の枯渇で倒れたのです。ナタリーが回復してくれましたけど、強力な魔法を使い過ぎました。2、3日は無理しないようにしてくださいね」
「いつからいたの?」
「2時間前くらいから、ですわ。もう夕方の5時になります。今晩もアンジェラさんのサルーンに泊めてもらって、明日、出発しますわ」
「そうだね。レナータの故郷、遠いもんね。急がなきゃ。ごめんね?倒れちゃって」
「何を言っているんですか。ワイバーンを倒すのに大活躍してくれたのは都代じゃないですか。都代がいなかったら、こんなにあっさりと倒せませんでしたよ」
「そうかなあ。レナータのアイスミサイル、凄かったよ。大砲も強力だったし、火縄銃も効いてたもん。私のファイヤーボールは大した威力無かったし、バリアを張ったのだって師匠のコントロールだもん」
「そんなことはありません。マウリツィオがコントロールしたのは都代の体と魔法力です。それに、都代のファイヤーボールが無ければ、大砲も火縄銃も当たらなかったはずですわ。第一に、そもそも都代には、この村の人達を救う理由が無いでしょ?見知らぬ土地の見知らぬ人達でしかないのに、都代は何も言わずに戦ってくれました。それだけでも素晴らしいことなんですよ?」
「困っている人達を助けるのは当たり前だよ」
「そんなことはありません。私は、この世界の人間として、そして大きな目標のために、この村が必要だったからワイバーンと戦う決意をしました。村人が困っていたから助けたわけではありません。でも都代は違う。危険を冒して村人を救う理由はないんです。理由もないのに一生懸命になれる都代は素晴らしいですわ」
「う、なんか馬鹿にされた気がする・・・」
「違いますよ、都代。私達、大人はね、いろんな人や立場に縛られて、心の声が聞こえにくくなってしまってるんです。都代は、まだそうじゃない。他の人の心の声が聞こえるんです。そして都代は、その声に答えることが出来た。そういう力を持っているから、です」
「お、うん、なんかわからないけど、なんか感動してきた。私、褒められてるんだね?村の人も褒めてくれるっぽい?」
「ええ。もちろん。村の人、みんなが都代に感謝してました。きっと、夕ご飯はいいものを食べられますよ」
「いいもの?」
「ええ。いいものです。だから、もう少し、おやすみなさい、都代」
なんか安心した。
え?
そうだよ、私は頭良くないよ。難しいことはわからんのですよ?わからんけども、レナータは褒めてくれた。村の人も私をほめてくれるっぽい。
じゃあ、安心していいんじゃないかな。うん、安心した。私、役に立った。
安心したら眠くなってきた。
「ありがとう、レナータ・・・」
「お礼を言うのは私の方ですわ、都代」
うん、ありがと・・・。
次に目が覚めた時は、もう日が暮れかかっていた。
日没の時間だった。
「目が覚めた?都代」
「う、うーん。ナタリー?」
「ええ、そうですよ。起きられますか?」
「うん。起きるよ」
ゆっくりと体を起こした。
少し頭痛がするけど、そんなに気分は悪くない。
「ずっといたの?ナタリー」
「いいえ、さっき来たんですよ。そろそろ起きるかなって思って」
「そっか。起こしてくれても良かったのに」
「まさか。都代は自覚が無いようですけど、かなり危険な状態だったんですよ?魔法力の枯渇と同時に疲労による発熱もあって、回復魔法では治らなかったんですよ」
「え、そうなの?」
「そうですよ」
「そっか、ごめんね、ナタリー。迷惑かけちゃった」
「いやいや、こんなことくらいしか出来なくてごめんなさいね、都代」
「ううん。回復魔法してくれたんでしょ?ありがとう」
ナタリーに腕を持ってもらって起き上がったよ。
うん、少し体がだるいけど、起きられそうだ。
うん。
大丈夫そう。
「よし。起きるよ。なんかお腹減った」
「ふふふ。都代が元気になってみんな喜びますよ」
ナタリーが用意してくれた桶の水で顔を洗う。それから服を着がえて、階下へと降りて行った。
階段を下りる前から、気づいてはいたけど、下は随分と騒がしかった。
アンジェラさんの店には、エミリオやサンドロの姿もある。あと見覚えのない村人の姿も。シルベスタが私の姿に気が付き、駆け寄って来た。
「もう大丈夫なのか?今日は、本当にありがとう。村長に紹介する!」
ナタリーが同時通訳をしてくれた。それからナタリーが村長の前に都代に食事を、と答えた、らしい・・・ああ、言葉がわからない・・・。
「それにしてもナタリーは英語も話せるんだね」
「ええ、日常会話程度ですけどね。前世の記憶で」
「うーん。私も英語の授業頑張るよ・・・」
「あ、授業よりもN〇Kの基〇英語の方がいいですよ・・・」
そんなことを言いながら、都代は私をカウンターの前へと連れて行く。私に気付いた村人が、何か笑顔で声を掛けてくる。
「都代に、ありがとうって言ってますよ。すごい魔法だったって。ワイバーンを倒したやつなんて見たこと無いですって」
「ふはは・・・。なんか恥ずい・・・」
カウンターに辿り着くと、アンジェラが気付いて手を上げた。
「とりあえず作り置きのから揚げですって。どうぞ、召し上がれ」
「から揚げ?異世界なのに?」
「あ、それは、レナータの持ち込んだレシピですよ。鳥系の肉ならから揚げだろうって」
「鳥系の肉?」
「あ、そうそう。それはワイバーンのから揚げです。おいしいですよ」
「ワイバーン!」
伸ばしかけた手を引っ込めてしまった。
ワイバーン、あの、ワイバーン・・・。
「おいしいですって。倒した獲物は食べるべきですし」
「う、うん。なんとなく理屈はわかるけど・・・ワイバーンって・・・」
ごくり。
「弱肉強食と言いますし、都代はワイバーンを食べるべきですよ」
「え、私、ワイバーンより強くないってば」
「そんなことありません。強いですよ。だって、勝ったんですもの、都代が。ワイバーンに」
ええい。
食べちゃる。
食べちゃるぞ。
パクっ。
「ふはぁ・・・おいしい・・・」
すごい。
全然臭みもない。普通のから揚げで、塩くらいしか効いてないはずなのに、すごい旨味を感じる。
ふはあ・・・うまい・・・。
「どうですか?気に入りましたか?」
「うん。ワイバーン、おいしいね。すごくおいしいね」
「でしょう?さっき、私も少し頂きましたけど、生前の記憶も含めて今まで食べたから揚げの中で文句なく最上級クラスです。これで味付けは塩だけというから驚きですよ。昨日の白トリュフといい、この村、食材についてはものすごく恵まれているのかもしれません」
「ナタリーちゃん、ワイバーンなんて普通は倒せる人、いませんから」
いつの間にかマウリツィオ師匠もそばに来ていた。
「師匠。元気になった?」
「ええ、元気ですよ。すっかり回復しました。都代ちゃんも、随分顔色良くなりましたね」
「うん、しっかり休めたし。それにこのから揚げ、めっちゃうまい」
二つ目を食べながら答えていると、アンジェラが別の皿をカウンターに置いた。
「都代の料理が出来ましたって」
「私の?」
「ええ。ワイバーンのふかひれスープです」
「ふかひれ?」
卵の入ったスープが湯気を立てていた。
「ええ。ワイバーンのひれはふかひれによく似たゼラチン質なんだそうで。魔法力回復に効果があるそうですよ。どうぞ」
「う、うん」
そっと口を付けてみる。
「あち!」
ふうふうと冷まして、スプーンで掬う。いい匂いだ。そっと口を付ける。
ほわぁ・・・やっわらかい。少しプニプニとした食感だ。おいしい。
体が芯から温まって来る。別に寒かったわけじゃないけど、何か芯の方から体力が回復していくような感じがする。
「ワイバーンの魔力がこもっているそうですから。村人の伝承では、伝説の英雄級の力を授かるとか言ってましたよ」
「ふへぇ。超S級食材ってやつじゃない。師匠も食べとく?スープなら食べられるでしょ。冷ましてあげるね?」
ふうふうしてマウリツィオ師匠にも食べさせあげた
「ほう。これはうまい。それに魔法力が回復するのがわかる。これはすごい」
「魔法力って回復してるのわかるものなの?」
「都代はわからないの?」
ナタリーが逆に聞いてくる。
「ううん、わからないの。枯渇しそうとか、そういうのもわからないんだよ」
「それは・・・都代ちゃん、私のせいですな。私が都代ちゃんの体を使って強力な魔法を何度も使ってしまったせいで、都代ちゃんは魔法力の残りを感じにくくなっているんだと思います。しばらくは、無理しないようにしていくしかないですな」
「そっかー、まあしょうがないね」
「しょうがないで済んじゃう問題じゃないんですけどね、本当は・・・」
次に出てきたのはサラダ。
白トリュフのせ。
おお、なんか伝説級の食材がオンパレード。
メインディッシュはワイバーンのソテー。レモンバター風味。
オリーブオイルの香りが食欲をそそるよ。
パクっ。
「うまあ・・・。レモンバター、すごい好き」
いつの間にか来ていたシルベスタが、何か言って笑った。
「元気になって良かったって。あと、どれもうまそうに食うやつだなって」
「うん、どれもおいしいよ。アンジェラさんにお礼を言って。それからシルベスタにもお裾分け・・・」
「ああ、大丈夫ですよ。ワイバーンの肉は、まだまだありますから。村人総出で食べても腐らせてしまうかもしれないくらい。みなさん、盛り上がっていますから」
「そうなんだ。ワイバーンが食べられるなんて思ってなかったよー。そして、こんなにうまいとも思わなかったー」
「ですねー。私も、珍しいものが食べられて嬉しいですよ」
レモンバター風味のワイバーンソテーを食べ終わる頃、村長という人が挨拶に来た。
「この度は、村の危機を救っていただき感謝いたします。都代様はウパッキの村、302名の命の恩人です。心よりお礼申し上げます」
ナタリーの通訳で意味が分かった時、思わず椅子から降りてしまったよ。
「いえいえ、そんな大したことはしていません。一生懸命戦った結果、そうなっただけですから!」
「そういう謙虚なお姿、誠に感動いたします。まさに都代様こそ神の御心。麗しき女神の化身でございましょう」
「ほうわぁわぁ。鳥肌立つー」
ナタリーが苦笑いしていたよ。
いや、だって、女神の化身だって。私、女神様だって。うわあああ。恥ずいー。
その後、宴は夜遅くまで続いた。
とはいえ、日が落ちる前から村人は戦勝記念だと騒いでいたので、10時を過ぎるころには村人の姿はまばらになり、アンジェラの店も落ち着いた。
私達も、そろそろ寝る準備をして明日に備えなきゃ。
「片付け、手伝うよ」
「え?」
「え?」
「ええ?」
残っていたロッコやサンドロ、レナータに一斉に「え?」と言われた。
「今日の主役が、パーティーの後片付けをするとか有り得ません。そういうのは明日、村人がしますから、気にせずお休みなさい」
「えー、でもレナータ、後片付けは大事だよ」
「立場がわかってませんね。今日は、都代が一番の日ですよ。片付けなんかいりません。それよりも、裏庭に行きましょう。お風呂を用意してあげますから」
「お風呂!本当?入れるの?」
「ええ。簡易の湯舟ですけど、日本の習慣をお話したら、なんとかなりそうだと言うので、用意してもらいました。お湯は、私が魔法で作りますけどね」
「おーお風呂―!」
やった!お風呂入れるよ。お風呂、嬉しいよ。
私は、二階に荷物を取りに戻った。
タオルや着替えを用意したよ。
さあ、お風呂へ行くよ!




