ワイバーンとの対決。
見張り台の螺旋階段を上がり、屋上へ出る。
3階建てくらいの高さの屋上から見る景色は、なかなかの絶景だ。
眼下に広がるのは、昨日、散々苦労して歩いてきた森だ。
遠くの山々、丘、川が眺めに入る。夏の緑は元気いっぱいな感じだ。
何処までも広がる緑の景色は起伏に富んでいて飽きない。
見張り台にいるのは、私、ナタリー、マウリツィオ師匠、それから連絡係のシルベスタ、それから見張りの応援でブルーノとカルロだ。
ワイバーンは何処から来るかわからないので、みんなで全方位を見張る。
シルベスタとはナタリーと師匠を通訳にして、お話をしたよ。
シルベスタは13歳。へえ、私より一つだけ年上なんだね。村では足が速いことで有名なんだけど、狩りは苦手。
ブルーノはシルベスタの友達で、同い年。カルロは二つ年上。
「この村って、どうやって生活しているの?」
「森で狩れる魔物から素材回収したり、森で採れるものを売りに行ったりだよ。特に魔道具に必要な魔石とか、魔結晶が主力製品だな。ああいうのは魔素が濃いところの方が採れるからな」
「そっか。魔物も焼くと核をドロップするよね」
「ああ、ゴブリンなんかでも、魔石を残すことがあるからな・・・って、ドロップってなんだ?」
「あー、気にしないで・・・。そういえば昨日、結構倒したエリートゴブリンもファイヤーボールで焼いてしまえば何かドロップしたかもしれないね」
「そこまでしなくてもいいですよ、都代。ファイヤーボールも魔法力を消費しますし」
「え?エリートゴブリンを倒して来たのかよ。もったいねえ。ここから近いのか?ワイバーンをうまく倒せたら、あとでみんなで回収に行くよ」
「そうですか?じゃあ、場所は・・・」
そんな会話をしている間も、私達は周囲の警戒を続けていたよ。
みんな背中合わせで座り、空を見上げる感じだよ。カルロは森での活動の時は3人のリーダーだった。三人は幼馴染で連携もばっちりだって。
9時38分。
腕時計で確認したから間違いない。
ワイバーンを発見。カルロが監視していた北側から現れた。
シルベスタは見張り台を駆け下り、連絡に向かう。ブルーノも村人に知らせるために駆け下りていった。村人は戦闘には参加しないけど、危険が去るまで安全な場所に避難してもらうためだ。
いちおう、今日は子供や老人は安全な頑丈な建物の中から出ないように言ってあるけど、全ての住人が避難していたわけではない。
生活に必要な用事だってあるし。
見張り台の1階には、交代で連絡係の村人がいる。ブルーノは、その人達に伝えに行ったんだ。
ワイバーンは上空を悠々と飛び、こちらの様子を探っているようだった。
村の上を一周する。
「都代、射程距離ですか?」
私は首を振る。
「ううん。届くとは思うけど、避けられるね。アイスミサイルも追撃中に燃料が切れると思う」
カルロは上空のワイバーンから目を離さない。
私の視力は平均的な日本人なので、1.0くらい。良くもないけど悪くもない程度。けれど、会話していてわかったんだけど、カルロ達の視力は2.0以上。たぶん、もっといいみたい。遠くの獲物や、小さな採集対象を毎日探し続けている効果かもね。
その時、カルロが叫んだよ。
「ドロップ!」
「都代ちゃん!岩を迎撃!落下地点を予測して!」
「そんなんわからないよ!え~い、アイススフィア!」
すぐさまアイスミサイルを作成して撃ち出す。落ちてくる標的なら燃料切れにはならない。
ブラストで岩を粉々に破壊するほうが被害は抑えられるんだけど、それが可能なのは自分の上に落ちてくる時だけ。ブラストは近距離攻撃で、遠くの標的には効果が無い。
アイスミサイルは、岩に向かって飛んでいく。
軌跡から推定して岩の落下予測地点は村の中央広場あたり。レナータのいる砦と、こちらとの中間地点になる。
アイスミサイルで岩を破壊しても、小石大の破片になって降り注ぐ。村に被害なしとはいかないけれど、場所が悪いよ。遠すぎて正確な射撃は出来ない。
アイスミサイルが岩に直撃。
粉々に粉砕する。岩の元の大きさは電子レンジくらいのサイズ。ミサイルで粉砕して、大きいもので拳大くらい・・・になったよね?遠くてよくわからない。
「岩の破壊を確認、充分に細かくなった」
カルロが言った言葉を、師匠が即座に通訳する。
「了解!」
すぐさまワイバーンの姿を探す。
あれ?どこ行った?
「カルロ?」
「すまん、こちらも見失った」
「都代、南東!太陽の中!」
ナタリーが叫んだ。え?真後ろじゃない!
急いで振り向きつつ「アイススフィア!」と叫ぶ。右手の周囲に氷の塊を作成・・・。
「突っ込んでくる!」
「きゃあー!」
思わず叫んじゃったよ。太陽の光の中から急に現れたワイバーンの姿はすごく大きかった。それに凄いスピードだった。
「都代ちゃん!アイハブコントロール!」
久しぶりの師匠の緊急乗っ取り!急に体のコントロールが効かなくなる。あわわ・・・
右手に浮かんでいた氷の粒はバラバラと床に落ちた。
「パーフェクトバリア!」
知らない魔法を師匠が叫んだ。いや、叫んでいるのは私なんだけど、叫ばせているのは師匠・・・というか。
カキン!という音が聞こえたような気がした。一瞬、目の前にガラスのようなものが出現したような錯覚。見えない壁?
ワイバーンは、浅い角度で降下しながら最大限の速度で接近していた。
「ウインドスラッシュ!来ます!」
ナタリーが叫んだ。その声は少し震えていた。
白い三日月状の斬撃がワイバーンから連続的に発射される。ワイバーンの首、ドラゴンの首の付け根辺りから、2メートルほどの幅の斬撃が連射で撃ち出されてくる!
「きゃあぁー!」と叫んだ私の声は、心の中だけに響いた。師匠のコントロール下では、声も出ない。
パキン!パキン!パキン!
ウインドスラッシュが目の前で火花を散らし、上方へ弾かれた。透明な壁がウインドスラッシュを弾いている!
パキン!パキン!
次々と弾かれるウインドスラッシュ。ワイバーンは「キィェー!」と叫び、ウインドスラッシュの斬撃を飛ばしながらさらに近づく。
もはや恐怖しかない。
ナタリーも頭を抱えて地面に伏せてしまった。カルロは見張り台の壁に身を隠すようにしゃがみ込んでいる。
私だけが・・・いや、私と師匠だけが立ったまま、ワイバーンと対峙していた。
バシン!バシィ!バシィ!
近づくにつれ、ウインドスラッシュの勢いはさらに増す。風系魔法はゼロ距離が一番強い。
バシバシィ!バシバシバシィ!
耐えられるのか、これ。




