アイスミサイルとビスコッティ
すっかり日も落ちて、アンジェラのサルーンには灯りが灯されている。
オイルランプっぽい何か。オレンジっぽい柔らかい灯りに目が慣れてくると、薄暗いけれど居心地がよく感じられた。
「明日、都代は見張り台から魔法攻撃、ワイバーンの進入角度に気を付けて」
「うん。わかってるよ。今日、確認したとおりでしょ?」
「そうだけど、一つだけ変更があるの。ちょっとだけ時間貰えないかしら?」
レナータに呼ばれて店の外へ。
外は真っ暗だ。
普段はこれでも、所々にランプを灯しているらしいのだけど、ワイバーンを警戒して灯火管制を敷いているんだそうだ。
灯火管制っていう言葉、初めて知ったよ。
「都代、昼間使ったアイスニードルの大きいやつ、あれ、やってくれない?」
「アイスミサイル?いいけど、何処へ撃てばいい?」
「あ、撃たなくていいから、作って見せて」
「いいけど・・・アイススフィア!」
アイスミサイルはアイススフィアを変形させて作るので、まずはアイススフィアだ。これはミスト状の氷から氷の粒を作成し、徐々に集めて大きくしていく魔法だ。
範囲、規模、氷のサイズは自由度が高い。
「アイスミサイル!」
氷を集積して三十センチくらいの円筒形を作る。裾の方には羽根を付けて飛行安定を
図っている。これは師匠の提案だ。
師匠は、最近では現代兵器の本ばかり読んでいたからね。バーストだとか、フルオートだとかっていうのも、アサルトライフルの発射機構をヒントに考えたものだ。
アサルトライフルっていうのは、兵隊さんの持っている長い銃のことね。
「持ってもいい?」
レナータが空中に浮いているアイスミサイルに手を伸ばす。
「いいけど・・・冷たいよ?」
「そのくらいなら大丈夫」
そう言って、レナータがアイスミサイルに触れる。
「昼間見た時は、白い煙を噴きながら上昇していたけれど、一体どういう仕組みなのかしら?」
「えっと、空気を圧縮していて、水と一緒に噴き出すことで加速させることが出来るよ」
「空気?圧縮?」
「えっと、言いたくないな・・・」
「教えて?ねえ、都代~」
レナータが妙なかわいい声で迫って来た。でも目だけが真剣だ。
「都代~。こんな魔法、初めて見たのよ。教えて~」
以前にマウリツィオ師匠から聞いていたけど、レナータは魔法マニア、魔法のオタク、狂気のマッドサイエンティストだ。黙っていても諦めないだろう。
いやあ・・・別に秘密にしていたいわけじゃなんだ・・・ただ、恥ずかしいだけで、さ。
「レナータ、言ってもいいけど笑わないでよ?なーんだ、とか言わないでよ?」
「笑わないよ、都代。誓う、誓う」
「誓うって二回言うと、信用度は半分になるよ」
「誓う、誓う、誓う!」
「それ、三分の一・・・」
「いいから、早く!」
「う、うん。実はそれ、中身はペットボトルロケットなんだ」
「ペットボトル・・・?」
「そう。空気を圧縮して貯め込んで、水と一緒に噴き出すことで推進力を得る・・・科学工作人気ナンバーワンの・・・」
「あ、あれ!テレビで見たことがある!」
「そう、それ」
「なるほどね。氷系魔法と科学工作を組み合わせてるわけか・・・実に面白い発想だ。都代、凄いね。魔法の才能・・・いえ、センスがあるわ。素晴らしい!」
「え?あ、ありがとう」
お、褒められた?レナータに褒められると嬉しいね。
「でも、そうするとこれ以上のパワーアップは不可能か・・・」
「最初は魔法で飛ばすんだけど、射程距離から出る前にペットボトルロケットを噴出するんだ。あと、ホーミング機能もあるけど、そこは完全に魔法制御だね」
「もう少しスピードと飛行距離が伸ばせたらなあ・・・。いえ、そうだわ。空気圧縮だけが科学じゃないわね・・・。そこに拘る必要は無い・・・いえ、最初から魔法は推進力のみに・・・」
レナータが自分の世界に入ってしまった。
もう呼びかけても返事をしなかったよ。もう、私、帰るからね?そろそろお肉の焼けたいい匂いがするから、食べに行きたいんだからね?
アンジェラのお店に戻り、お肉パーティーに間に合った。
ナタリーは、こそっとアイテムボックスから焼肉のたれを出して使っていたから、私も分けてもらった。
ブラックボアのお肉はおいしかったー。
お腹いっぱいになったら眠くなって、ウトウトしていたら、アンジェラさんにベッドに連れていかれたよ。アンジェラさんの店の二階は宿屋になっていたよ。
ベッドに横になったら、すぐに寝てしまいました。
え?緊張感が無い?
そう言わないで・・・。一日中歩き疲れて、戦闘までしたんだから・・・。寝るなって方が無茶ですよ。
翌朝、薄暗いうちに目が覚めた。
空気は冷たく、少し肌寒い。
お風呂に入らずに寝たから、少し体がべた付いて気持ち悪い気もする。
けど、お風呂は無いんだろうなあ・・・
仕方ない。
私はベッドサイドに用意されていたタオル・・・のような布と桶を使うことにした。
水道は・・・無いね。
面倒だ。
「アクアボール!」
水の玉、作成。桶に静かに入れる。
ポチャン!
その水で布を湿らせ、体を拭く。
「都代・・・おはよ・・・」
眠たい目を擦りながらナタリーが起きた。隣のベッドで寝ていたんだね。
私は、もう一つの桶にもアクアボールで水を汲む。
「はい、ナタリー。お水。顔を洗えるよ」
「うん、ありがと・・・都代・・・」
寝起きのナタリーはかわいいね。年相応の子供に見えるよ。
「少しモジャモジャッとした金髪が最高に可愛さアピールしてますな。いい、実にいいですな!」
て、朝からうるさいよ、師匠!
カイトも同じ部屋で寝ていた。
ベッドは全部で3つ。師匠は私と同じベッドだったから、レナータだけいない?
いや、おかしいでしょ。普通、男の子のカイトだけ別の部屋とかにするでしょう?
まるで、カイトにとって、私は対象外って感じがして、なんか腹立つわ。
え?ナタリーは子供だもん。だってまだ肉体年齢6歳だし。
え?私は、もう中学生だし!
いや、恋愛はまだ早いよ、うん、早いけども!
カイトにも水の桶を用意して、階下へ降りた。
「おはよう!よく眠れた?」
レナータは朝食を食べていた。
って、クッキーとコーヒー?
私もテーブルにつく。
「ビスコッティーっていうの。固いクッキーみたいなものね。どうぞ、召し上がれ」
「うん、ありがとう」
ガリっと齧る。あっさり塩味。もっと甘い感じを想像してた。
「たぶん、日本で食べられるものよりも砂糖控え目で味も悪いと思うけど・・・私は懐かしいわ。こういうのが朝食なのよ」
「へえ。朝からクッキー?とか思っちゃったけど、そういう文化なんだね」
「私も頂きます」
ナタリーもビスコッティーを齧る。
「なかなかいけますね。コーヒーと相性がいいですよ」
うん、たしかに。てかコーヒーはすごくおいしい。こんなにおいしいコーヒーが飲めるとは思わなかったよ。全然砂糖なしでも飲めるよ!
「たしかに、ここのコーヒーはおいしいですね。アンジェラのこだわりかしらね?」
まだ薄暗い。
腕時計を見ると4時半を過ぎた頃。すごい早起きだ。
「朝ご飯を食べたら戦闘準備です。ワイバーンはいつ来るかわかりませんから」
「そうだね、レナータ」
ガリガリとビスコッティを食べ、コーヒーでしっかりと目を覚ます。
カイトも眠そうにしていたけれど、コーヒーを飲み干すころにはだいぶシャッキリとしてきた。
「さあ、ワイバーンをやっつけましょう!」
レナータが宣言して、私達はそれぞれの持ち場へ移動した。




