三十五話 暴力と不安、屈服するのはどちら?
控えめな残酷描写あります。
「アルカ!あなたの方は?!」
ナナカが明らかに焦りを見せて声を荒げる。
「無理。完全に外部と隔絶されてる」
おそらくアルカの得意魔法【置換】を試した結果だろう。
アルカの能力は単純な結界などでは影響をうけない。範囲外となると、よほど高等な結界もしくは、この教室そのものがどこか別空間に移動させられたか?
つまり八方塞な状況が確認できたわけだ。最高だよ。
ふと、肩のマチを見ると口元に手を当て青い顔をしている。たのむからそこでゲロるなよ。
「ぎゃーーーー!!!」
耳にいつまでもこびりつくような悲鳴。
教室の中心へと再び目を向けると、そこには目をふさぎたくなるような光景が広がっていた。
生徒の一人が魔獣の口から半身を覗かせている。
食われている?
「や、やめ……いたい!いたいぃぃぃいいい!!!あああああ!!!!」
下半身が砕ける嫌な音がこちらにまで聞こえる。
耳を塞ぎたくなる不快な音、男子生徒は短い悲鳴と共に白目を剥くともう何も反応がなくなった。
あまりの光景に教室の隅で嘔吐する生徒がちらりと写る。
悪魔はいても楽園。それがこの世界じゃないのかよ?!
ようやく冷静なりかけかた頭が再び焦りに塗りつぶされていく。
前世でどれだけ大きなトラブルがあっても、これほど身近に死を感じることなどなかった。
俺は今初めて、死の恐怖に直面している。
「おい!僕を守れ!」
一人の生徒が使用人のヒュルムを盾にしようと前へと押し出す。
「ぼ、ぼっちゃま?!」
抵抗することもできずに使用人らしきヒュルムが魔獣の目の前へと押しやられる。
咆哮。
心臓を鷲づかみされるよな、腹のそこから恐怖が湧き上がる鳴き声。
「ひっ!」
その短い悲鳴が彼の最後の言葉となった。
筋肉質な腕が横殴りに動くと、彼はゴムマリのような動きで壁際へと跳ね飛ぶ。
ヒュルムを盾にした主人は、犠牲の意味なく気づけば次の犠牲者へとなっている。
再び悲鳴と怒声が教室を支配する。
数名の生徒が逃げようとこちらに走ってくる。
「動いちゃダメ」
アルカが短く呟く。
俺はその言葉の真意を理解するのに、数瞬の間を必要とする。
動き出した生徒に向かって魔獣が突っ込む。
階段教室の木製机は魔獣の進行を阻むにはあまりにも心もとなく、混乱する生徒たちに魔獣から身を守る術などなかった。
魔獣の巨体で、その無惨な光景が隠れているのは救いか。いや、想像によって俺の恐怖をより駆り立てる。
そもそも、この空間に
救いなどない。
力無い悲鳴と、肉と骨からしか生まれない不愉快な音。よくわからない刺激臭。
俺の目の前には理不尽としか言えない悲劇が繰り広げられていた。
「火球よ。【ファルガ】」
こんな状況で英雄的な行為が取れる者がいるのは、それこそ漫画やラノベの中だけの話だと思ってた。
まして、それが自分の知り合いの中にいるとは。
「相手してやるわよ。クソ野郎」
ハスキーヴォイスと共にメロウが魔獣を睨んでいた。




