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社畜が送る異世界デスマーチのすすめ  作者: Maskwell
二章 小さき心に意思を!
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二十八話 悲しきまどろみは、宇宙を馳せる!

「……ぱい!先輩、起きてください!」


俺は自分を呼ぶ声に目を開ける。


「ん?あぁ、すまん寝てたか」


口元の涎を拭う。


「勘弁して下さいよ。僕一人じゃ、お手伝いすらできないんですから」


寝ぼけ(まなこ)で捕らえたのは、どこからどう見ても「オタク」な人物。


PCの時計を見ると午前1時を回ったところ。


書きかけの仕様書を見て、俺は現実へと引き戻される。


「ったく、早くお前もこれぐらいの内容なら書けるようになれ。じゃないと、いつまで経っても俺が楽にならない」


あくび混じりに俺は再び仕様書の作成へと思考を向ける。


「二年目の無能な後輩に、そんな無茶言わないで下さいよ」


自虐的な笑みを浮かべるオタ後輩。


「プログラム面はお前の方が理解は深いだろ?すぐに俺なんか抜けるさ」


俺も自虐的に返しつつオタ後輩へと視線を向ける。


事実、オタ後輩のこの一年の成長は他のどの同期よりも目覚ましいものだった。


もともと専門学校での下地はしっかりとしていた。


あとはきっかけさえあれば、自然と成長はしていたのだろう。


「でも思えば、お前が去年にしたあのトラブルがきっかけでここまで急成長をするとはな……」


「違うでしょ、先輩」


「ん?……っ!!!」


俺は気づけば近くにあった後輩の顔に肝が冷える。


それに、なんだ?その赤い目は?ドライアイ……じゃ、ないよな。


赤い……眼?


どこかで、見たような。




!!!


なにかおかしいと思ったときには、俺は星々が瞬く空間へと引き込まれる。


どこかでカタタタと断続的に聞き慣れた音が聞こえる。


これは……仕事中によく聞いていた……。


聴覚から視覚へと意識を向けると、目には見えない道の先に、先ほどまでの光景がぼんやりと浮かんでいる。


あぁ、俺はここを進んでいけばいいのか。


本能的に理解し、一歩踏み出す。


「オーカ!」


誰かが聞き覚えのある名前を呼ぶ。


声のした方へと俺は振り返る。


そこではピンク髪の少女と眠たげな目の少女がこちらを見ている。


しかし、俺はそちらへは行けない。


再び自分が進むべき道へとゆっくりと進んでいく。


「……オーカ」


優しい声に思わず振り向く。


その先にいたのは漆黒の美女。


……!!!


俺は思い出す。


俺が逃げてしまった世界を、俺が再び生まれた世界を。


さっきまで見ていたのは、元の世界?


いや、違う。だって、後輩は……。


俺にとって元の世界は灰色だった。


大きくは変わらない毎日。希望や夢を追いかけるよりも、付き(まと)う不安や不満から逃げる日々。


しかし、それがリアルだった。


理不尽で(くる)しくて、自分を待つ未来が明るいのかどうかさえわからない。


だから、俺はあの元の世界へと戻らなければならないのだろう。


「……オーカ」


「「オーカ!」」


リアルではない母と姉たちが、リアルではない俺の名を呼ぶ。


俺のリアルはあくまで元の世界。


だから、単なるエンターテイメント気分であの世界を見てきた。


だから、どこか馬鹿にしたような目であの世界を見ていた。


「いや、違うだろ……」


俺は自分自身につぶやく。


俺は自分が再び生まれた世界、エイディンへと思いを()せる。


俺はまた逃げようとしてるだけなんじゃないのか?


俺はこの5年で、新しい世界に自信を持っていた。


チートもハーレムもないと馬鹿にしながらも、元の世界では叶わなかった自分を作ろうとしていた。


魔法と愛しい家族のいるあの世界。


しかし、父に敗北し、入学試験で再び負けて思い知った。


自分が特別なわけではないのだと。


俺はアニメやゲームの主人公ではなく、あの世界に生きる一人なんだと。


できないことの方が多いただの個人なのだと。


「……オーカ」


「「オーカ!」」


再び母と姉たちが俺の名を呼ぶ。


できないこと方が多い。


前の世界もそうだった。


それなら、現実味がなくても、まだリアルだとは思えなくとも……。


「大好きな家族がいる、あの世界を俺は選ぶ!」


俺は完全に身体の向きを変えると、躊躇うことなく走り出す。





今、戻るよ。

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