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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
第二章 - 「新生始動」
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Op.47「景色の見え方」

主人公視点に戻ります。

「……おぉ、すげぇ」


 展望デッキへ足を踏み出した瞬間、思わず声が漏れた。

 海ではなく、空を悠然と進んでいく魔導戦艦の甲板。

 真横に広がる青空がゆっくりと橙色へ染まり、大きな白い雲が列をなして流れていく。


 眼下には、整然と並ぶ街並み。

 半球状の家屋、大きな湖、林立する鉄塔群。すべてが夕陽に照らされ、柔らかな金色をまとっていた。


 気づけば、空はすでに夕暮れへと傾き始めている。


「風も音もないのか……」


 俺の口から思わずこぼれた疑問。

 今の状況は、フライト中の飛行機から外へ飛び出しているようなものだ。

 だというのに、頬を撫でる風すら感じない。

 耳が詰まるような気圧変化もなければ、上空に吹き荒れる風の轟音も存在しない。


 本来なら、ありえない光景。

 だが、そのありえないはずの景色が、当たり前みたいにそこにあった。


「飛行中の魔導戦艦は、魔獣の襲撃などに備えて魔力障壁シールドを全面展開しているんです。だから、こうして外に出ても問題ないですし、風や音も遮断されてるんですよ」


 柔らかな口調で疑問に答えてくれたのは、俺の隣に立つ白髪のケモ耳少女。

 紺色のブレザー制服に身を包み、碧い瞳でこちらに微笑みを向ける。

 彼女の名は、シア・トワイライト。

 この世界に来て出会った人の中で、今のところトップクラスにまともな人物だ。


「へぇ、魔力障壁シールドって、あの光の膜みたいなやつ?」

「そうですよ。あれが、この魔導戦艦全体を覆って守ってくれているんです」

「すげぇな……」


 シアが指差した前方上空を見上げると、空気が揺らぐような薄い光の層が、戦艦を包み込んでいるのが分かる。


 空を飛ぶ船というのも俺にとっては十分に非日常だが、こうして未知の技術を体感するとやはり自分が別世界にいるということを改めて実感する。


(これなら天候にも左右されず飛行できるし、機体も揺れないってことか。技術力、めちゃくちゃ高ぇな……)


 魔法のある世界、恐るべし。

 なんてことを思いながら、興奮気味に周囲を見回していると、肩を軽くトントンと叩かれた。


「じゃあ、私たちも向こうに座りましょうか」


 シアが視線で示した先には、展望デッキの端に設けられた一角。


 緩やかに弧を描く船縁に沿って、丸いテーブルと木製の椅子が整然と並んでいる。

 黄昏の陽光を受けて淡く輝くその空間は、まるで空に浮かぶオープンカフェのような趣を帯びていた。


 今も青と橙が溶け合う空を背に、数十人ほどの乗客が席につき、グラスを傾けながら穏やかに談笑している。


「ちなみに、あの正面に見える大きな木が、さっきルナが話していた『約束の木』ですよ」

「あれが……」


 互いに向かい合って着席したところで、シアが微笑みながらとある方向を指差した。

 その先に佇むのは、推定でも1000メートルは優に超える巨大樹。

 幹は城壁のように太く、青々とした枝葉は雲のように広がり、まるで国そのものに根を張っているかのような圧倒的な存在感を放つ。


 その光景を前に、俺はルナから預かった一冊の本へと視線を落とした。

 表紙に刻まれたタイトルは、『愚者と約束の木』。

 正面に佇む巨大樹と深い繋がりがあるという物語。


 正直なところ、題名だけではジャンルも内容も想像がつかない。

 だからこそ、余計にどんな物語なのか気になるところだ。


「私は色々と報告書をまとめないといけないので、好きなだけ読書していてくださいね」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 シアは穏やかな笑みを浮かべながら、リュックからこの世界仕様のPCを取り出す。

 恐らく、俺の心情を察してくれたのだろう。

 ありがたい。これで心置きなく読書に没頭できる。


(さて、ルナが宝物だと豪語していたこの一冊は、どんな物語なのやら……)


 そんなことを考えつつ、俺は何度も読み込まれた跡のある、少しくたびれた表紙をそっと開いた。


 ●第一章『衝突』


 物語の幕開けに描かれるのは、敵国同士の二人。


 アルタイル王国の王女ユエ。

 そして、ベガ帝国の皇子ノクティス。


 戦争の最前線で、幾度となく刃を交える宿敵同士。

 互いに譲れぬ正義を掲げ、血と砂煙が舞う戦場で火花を散らす関係だった。


 だが、戦いを重ねるうちに、剣よりも先に言葉を交わす時間が増えていく。

 罵声は問いかけへ、問いかけは相手を知ろうとする言葉へと変わっていく。


 やがて二人の関係は、敵から友へ、そして――恋へ。

 それが、この章の大まかな流れだった。


(――ん? これってそういうロマンス系の話なのか……?)


 正直なところ、俺はもっと王道ファンタジーを想像していた。

『最果ての英雄』みたいな、お宝探しや魔法が登場する冒険譚を。


(……まぁ、冒頭だけで決めつけるのは早いか)


 そう自分に言い聞かせながら、俺は次の展開を求めてページを捲った。

 

 ●第二章『愛の証明』


 敵国同士――許されざる恋人たちの暗躍。


 戦争を終結させ、互いの関係を公に認めさせるため、二人は水面下で支持を広げていく。

 民の声を集め、味方を増やし、発言権を掴む。


 そして停戦交渉の席で、彼らが打ち出したのは、『二人の婚姻による終戦』。

 だが、ユエの父であるアルタイル王は、それを簡単には認めず、ノクティスに常軌を逸した三つの条件を課す。


 第八迷宮『海王星迷宮ネプチューン』80階層の単独踏破。

 惑星迷宮ダンジョンの秘宝とされる神秘のオルゴールの獲得。

 そして、国に迫る脅威の排除。


 どれも、一人の人間に課すにはあまりにも過酷すぎる偉業だった。


 それでもノクティスは、迷いなくそれを受ける。

 愛する恋人との未来を掴むために。

 そして、彼は単身で迷宮へと挑み始める。


(――ロマンスとファンタジーの掛け合わせ、って感じだな)


 というか、ここでも神秘のオルゴールやら惑星迷宮ダンジョンが出てくるのか。

 やっぱりこの世界において、それらは切っても切り離せない存在らしい。


 この物語の輪郭を感じ始めたところで、俺は静かに続きを追った。


 ●第三章『鮫の王』

 

 ノクティスが迷宮へ旅立った後、地上では異変が起きる。

 魔海の魔獣メガロドンが進化を果たし、鮫の魔王(シャークロード)が誕生。


 その魔王は、アルタイル王国とベガ帝国へ牙を剥く。

 いくつもの町や村が蹂躙され、両国は同盟を結び討伐に臨む。

 ユエも最前線で奮戦するが、魔王の力は圧倒的。

 ベガ帝国は半壊。アルタイル王国も陥落寸前まで追い詰められていく。

 

(メガロドン……あのデカ鮫、ここでまた出てくるのか)

 

 俺はあの鮫の化け物と何か因縁でもあるのだろうか。

 喰い殺されかけたり、逆に美味しく食べてやったりと、妙な縁を感じざるを得ない。

 ってか、魔獣って進化もするのかよ……。


 気づけば、俺は息を詰めたままページを追い始めていた。


 ●第四章『破滅と繁栄』

 

 魔王との戦いでユエが窮地に陥る中、三年ぶりにノクティスが帰還。

 空中で彼女を抱きとめて救い出し、そこから二人で再び魔王へ挑む。


 三年という月日を感じさせない完璧な連携。

 交差する魔法と魔術。

 視線ひとつで通じ合う阿吽の呼吸。


 そして最後、放たれた希望の光が魔王を呑み込み――

 王国の未来は『破滅』から『繁栄』へと塗り替えられた。

 

(これは史実みたいだし、一歩間違っていれば、この国は滅んでいたってことだよな……)

 

 俺は小さく息を吐き、本から視線を外した。


 展望デッキから見下ろす街並み。

 夕焼けに照らされた屋根と塔。

 青々とした大きな森、国を横断するように流れる巨大な川。


 もし歴史が少し違っていれば、あれは瓦礫の山だったかもしれないわけだ。


 そう思った瞬間、目の前の景色がほんの少しだけ、重みを帯びて見えた。


 そんな感覚を胸に残したまま、俺は次章へと続くページを開いた。


 ●第五章『平穏』

 

 魔王討伐後、ノクティスは残党を掃討し、ユエとの婚姻のための三条件を達成。

 こうして、ノクティスとユエの婚姻が正式に認められる。


 ようやく実現した二人の夢。

 戦火に包まれていた空に、初めて穏やかな朝が訪れる。

 国中の誰もが、二人の婚姻を祝福した。

 剣を握っていた手が花束を持ち、戦場となった街中に笑い声が戻る。


 さらに、ユエが王位を継承し、ベガ帝国が合併され新国家アルタイル共和国が誕生。

 この時、新たな国の平和な未来や繁栄を願って植えられた一本の小さな木。


 それこそが『約束の木』。

 

(なるほどね。ここで二つの国がまとまってアルタイル共和国が誕生したわけか)

 

 俺は再び、本のページから視線を上げて正面に佇む巨大樹へと視線を向けた。

 大地そのもののように太い幹。分厚い雲のように生い茂る緑葉。

 あれほどまでに大きくなるまで、どれほどの年月を重ねたのか。


 目の前に広がる景色にさらなる歴史の重みを感じながら、俺は次章に続くページを捲った。


 ●第六章『姿無き災い』


 新国家アルタイル共和国が誕生して五年。

 紆余曲折ありながらも、順調に安定と繁栄の軌道に乗り始める。


 しかし、数百年に一度の大厄災ラグナロックが発生。

 世界各地に魔獣の『卵』が流星のごとく降り注ぐ。


 女王となったユエと彼女を陰で支えるノクティスを筆頭として、次々に魔獣を撃退していく。


 だが、真の脅威は姿を見せぬ厄災の獣『パンドラ』。

 眷属を介し、『触れて名を呼ぶ』ことで魂を迷宮最奥へ誘う呪い。

 ユエは、少女に擬態したパンドラの策略によって呪いを受けてしまう。


 それでも彼女は呪いを受けた事実を隠し、民の希望であり続けようとする。

 しかし厄災を退けた直後、彼女の身体は限界を迎える。

 最後にノクティスと再会の約束を結び、夜明けとともに、彼女は目覚めぬ眠りへと堕ちてしまう。


(なんか……思ったより切ない話だな……)


 この章の中で、特に印象的だったのは、呪いを受けたユエが残された時間の中で、黄昏時の上空から自分が治める国を眺めながら涙をこぼすシーン。


(彼女も、こんな風に夕暮れの景色を見ていたのだろうか)


 そんなことを考えながら、俺は深く息を吐き、再び視線を外へ向けた。

 先ほどよりも深く茜に染まる街並み。

 約束の木の緑葉も、静かに赤く染まっていく。


 この物語を読み進めていく度に、今いる場所が尊いものに感じられる。

 同時に、哀愁や喪失感を胸に抱きながら、俺は最終章へと続くページを開いた。


 ●第七章『愚者』


 ノクティスはユエの魂を取り戻すため、再び単身で第八迷宮の攻略に挑み始める。

 それは世界を救うためではなく、ただ一人の最愛を救うための戦いだった。

 彼は前人未到の速度で階層を踏破し、人類史を塗り替える偉業を次々と成し遂げていく。


 だがその間、地上では新たな魔王や災厄が発生し、人々は『人類最強』に救いを求めた。

 それでもノクティスは地上へ戻らず、やがて世間の評価は英雄から非難へと変わっていく。


『人々に救いの手を差し伸べず、迷宮攻略さえも失敗した愚か者』

『自己中心的で身勝手な愚か者』

『力はあれど、思いやりの心がない愚か者』

『三英雄に最も近く、最も遠い愚か者』


 いつしか彼は、人々から『最強の愚者』と呼ばれるようになっていく。

 それでも彼は、ただ前だけを見て進み続けた。

 しかし、90階層到達の報せを最後に、ノクティスは忽然と姿を消す。

 彼がどこまで進み、どのように死んだのか、その真実を知る者はいない。


 そしてノクティスとユエの死後、アルタイル共和国に残された『約束の木』。

 二人の約束の日より100年、200年、300年――

 果たされぬ再会の誓いと共に、静かに、そして国を見守るように成長を続けていくのだった。


(……愚者ってそういう意味だったのか)


 俺は本をそっと閉じ、表紙に刻まれたタイトルに目を落としながら大きく息を吐いた。

 ページを閉じてもなお、物語の重さが消えない。

 楽しさや爽快感ではなく、考えさせられた感情がゆっくりと心に染み込んでくる。


 読後、しばらく何もしたくなくなる――そんな余韻に浸りながら、俺は椅子の背もたれに深く身を預けた。


「もう読み終わったんですね。どうでしたか?」


 現実へ引き戻すような声。

 正面に座り、この世界仕様のPCで報告書をまとめていた白髪のケモ耳少女シアが、柔らかく微笑む。


「読む前と読んだ後じゃ、ここからの景色がまったく違って見えるよ」

「ふふっ、気に入ってもらえたようでよかったです。あとでルナも感想を教えてって騒ぐと思うので、たっぷり付き合ってあげてくださいね」


 茜色の光に包まれた展望デッキで、俺とシアは小さく笑い合う。

 気づけば、空から青は消え、世界は完全に夕闇へと沈みかけていた。

 黄昏の穏やかな静寂。

 胸の奥に残る、重たい余韻。


 もう少しだけ、この景色を目に焼き付けていたい。


(時間があるなら、もう一回くらい読み直すのもありか……って、なんだこの音……?)


 再び『愚者と約束の木』を読み返そうかと考えていた時だった。


 ダン、ダン、ダン――

 重い軍靴の音が甲板を打ち鳴らす。

 足音は一つではない。

 規則正しく重なり合い、波のように近づいてくる。


 刹那、周囲のざわめきが、すっと引いた。


 そして、その足音が背後で止んだ瞬間――

 俺とシアは白と黒を基調とした隊服に身を包んだ集団に取り囲まれていた。


「世界調律騎士団だ! お前を特級アーティファクトの無断使用および対魔特別条項第七項違反の容疑で連行する!」

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※毎週、土曜12頃に更新中です。

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