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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
第二章 - 「新生始動」
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Op.44「穏やかな旅路の終わり」

「ごめーん。お待たせ。ちょっと話し込んじゃって、長くなっちゃった」


 ブレザー制服姿の白髪の少女は、やや早足でテーブルに戻ってくると、そのまま腰を下ろした。同時に、肩に掛けていたリュックを膝の上へ引き寄せ、慣れた手つきでファスナーを開く。


 中から取り出されたのは、黒色の薄い長方形の板状の物体。

 金属とも樹脂とも判別のつかない、鈍く光を反射する滑らかな質感。

 片手で持てるほどの大きさと薄さが、やけに現代的だった。


(あれは……まぁ、スマホみたいなものがあるなら、これがあっても不思議じゃないか)


 彼女はそれをテーブルの上に置き、縁に指を掛ける。

 すると、板は静かに二つに開き、内側からもう一枚の黒い面が姿を現した。


 もはや驚きはなく、疑いようもなかった。

 ノート型のPCだ。

 ただし、キーボードに刻まれている文字はアルファベットではなく、音符記号に似た独特な紋様。


 これもまた、この世界独自の仕様ということなのだろう。


 俺が再び、同郷かもしれない英雄の痕跡に考えを巡らせていると、ルナが間髪入れずにシアへ問いかけた。


「それで? なんの話だったの?」

「えっとね、この後の予定のことなんだけど……」


 そうして、二人は自然な流れで今後の段取りについて話し始める。

 俺は口を挟まず、静かにそのやり取りに耳を傾けた。


「フィオネさんが、まずはルナに今回の件について事情聴取したいって」

「まぁ、そうなるよね。怒られないといいんだけど……」

「それは大丈夫じゃないかな。今回の状況なら、ルナがやるしかなかったって分かってくれてると思うよ」


 シアは柔らかな微笑みをルナに向けたまま、手元のキーボードを軽く二度叩く。

 だが次の瞬間、その表情はすっと引き締まり、こちらへと視線を移した。


「それで、次に……」


 澄んだ碧眼と真正面から視線が交わる。

 だが、彼女は言葉を続けず、わずかに口を開いたまま逡巡した。


 何か言い出しにくい悪い知らせなのか、そう身構えた俺をよそに、彼女は少し困ったように微笑んだ。


「それで、えっと……何て呼べばいいのか困っちゃいますね」


 思わず拍子抜けして、身体から力が抜けた。

 どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。

 彼女はただ、()()()()()()()をどう呼ぶべきか悩んでいただけのようだ。


「あ、それ私も思ってた! やーっぱ名前分かんないと呼びづらいし困るよね」

「って、俺に言われてもな……」


 確かに、ルナはこれまで俺のことを『君』と呼んでいた。

 特に俺自身は違和感もなかったが、本人は違和感があったのだろう。

 といっても、今さら本名を名乗るわけにもいかないのでどうしようもない。


「とにかく、ルナの後になるんですけど……色々とお話を聞かせていただきたいです」


 話題を戻すように、シアはまっすぐな眼差しで告げた。

 言葉を濁してはいるが、要は本格的な事情聴取ということだろう。


 そして、今回その相手はシアではなく二人の会話に登場しているフィオネという人物と考えて間違いない。


「別にいいけど、シアちゃんに話した以上のことは出てこないと思うよ」

「はい。それで十分です」


 微笑みながら頷く彼女を見て、俺は小さく肩の力を抜いた。

 こうして、本日二度目となる事情聴取が確定した。


「んじゃ、話もまとまったみたいだし、私もちゃちゃっと行ってきますかね」


 そう言ってルナは立ち上がり、軽く背筋を伸ばす。

 そのまま自身のバッグを手に軽やかに歩き出しかけたが、ふと何か思い出したように足を止め、こちらへ振り返った。


「あっ、せっかくだしさ。()はシアと展望デッキで景色でも見てきなよ。もうちょっとしたら『約束の木』も見えると思うし」

「約束の木?」


 聞き返すと、ルナは自身のバッグから一冊の本を取り出した。


「そうっ! この『愚者と約束の木』の物語に出てくる伝説の大樹! 聞き覚えない?」


 確か、サポート型アンドロイドのクロがこの国の情報を示してくれた中に似たような記述があったことを記憶している。

 しかし、その詳細までは不明。

 ここは普通に知らないと答えておくのがベストだろう。


「あぁ、初耳だと思う」

「じゃあ、私の宝物を貸してあげるから読んでみなよ。とっても素敵な物語だからさ♪」


 満面の笑みを浮かべたルナは、やや強引に俺の手へ一冊の本を押しつけてきた。

 それなりに厚みがあり、手に取った瞬間、年季の入った一冊だと分かる。

 表紙には、巨大樹の前で見つめ合い、そっと手を重ねる王子様とお姫様の姿。

 裏表紙には、その巨大樹を背に、お姫様を抱きかかえる王子様が描かれていた。


 どんな物語なのか、軽く聞いておこうと視線を前に戻す。

 だが、その時にはもう、天真爛漫な金髪少女の姿はそこになかった。


「では、私たちは展望デッキの方へ向かいましょうか」


 こうして、俺とシアはこの空飛ぶ船の甲板へ向かうこととなった。

 彼女に付き従う形で、食堂を後にして船の中を案内してもらいながら進んでいく。


 時に、視界に入った目新しいものについて質問したり、何気ない雑談を交わす。

 心が躍りつつも、どこか肩の力が抜ける、平和で楽しい時間。

 その中で、俺は片手に抱える一冊の本へと視線を落とす。


(愚者と約束の木、どんな物語なのか気になるな……)


 ルナから預かった本を読むことを楽しみに、甲板の展望デッキを目指す。

 だが、この時は夢にも思わなかった。

 穏やかな空の旅路が、静かに、そして着実に、終わりへ向かいつつあったことを。

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