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神秘解戦~ダンジョンプラネット~  作者: 白石誠吾
第二章 - 「新生始動」
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Op.43「既視感の正体」

「……あー、言われてみれば18歳くらいだった気がするかも。けど、なんで俺の年齢が分かんの?」


 自分の皿に残っていた付け合わせの野菜をフォークで突き、何事もなかったかのように口へ運ぶ。

 声の調子も、表情も、できるだけ平坦に。


 ここで焦って、軽率に否定に走ってしまうのは完全に悪手。

 まずは、受け入れてから年齢を言い当てた根拠を探ることが必要だ。


 そう腹の内で判断しながらルナへ視線を向けたが、答えを持っていたのは彼女ではなかった。


「さっき、ヒーリングカプセルで治療している時に、その……あなたの身体に異常がないか、簡単に調べていたんです。そこで肉体の年齢が分かって……勝手に確認してしまって、ごめんなさい……」


 左正面に座るシアが、どこか申し訳なさそうに視線を伏せ、軽く頭を下げる。

 特徴的な灰色がかった獣耳も、気持ちを映すようにぺたりと倒れ、肩口までの白髪がふわりと揺れた。


(なるほどね、そういうことか)


 思い返してみれば、俺がヒーリングカプセル内で治療中に彼女は備え付けの操作パネルをポチポチと叩いていた。

 言い回し的に、あの装置を使って怪我の状態を確認する過程で、肉体年齢のデータが判明したという経緯だろう。


「いや、シアちゃんが謝る必要はないよ。俺にとっても自分の情報を知れるのはありがたいことだしね」

「……そう言ってもらえると助かります」


 ほっとしたように、シアの表情がわずかに緩む。


 あくまでも、俺は『記憶喪失の名もなき青年A』だ。

 この設定は、もう覆すことはできないのでこのまま貫き通すのみ。


 あと、気になるのは、俺の身体の構造がこの世界の人間と同じなのかという点。

 神秘のオルゴールをいくつも開けたり、魔法が使えたり、剣が扱えたりと、元々できなかったことができるようになってるし、自分でも何がどうなっているのか分からないことだらけ。


 今のところ異常は指摘されていないし、深く探られている様子もない。

 ひとまず今は、問題なしと考えていいだろう。


 そんな懸念を忙しなく頭の中で整理していると……


 ぐいっ――


 なぜか隣から、人差し指が遠慮なく俺の頬に突き刺さった。


「ちなみに、私もシアも18歳で君と同い年だからね!」

「……ルナって18なのか」

「なーんで私だけ確認したのかなー?」


(歳相応の落ち着きがないからだよ)


 心の中で即答した瞬間、頬に食い込む指の圧力がさらに強くなる。

 その様子を見て、コーヒーを一口飲み、ふぅと息をついたシアが穏やかに割って入った。


「まぁまぁ。ルナだって今日18歳になったばかりなんだから」

「へぇ、今日が誕生日なんだ?」

「そーですよー。危うくその誕生日に死ぬとこだったけどね」


 軽い調子でそう言いながらも、ルナは一瞬だけ疲れたような笑みを浮かべ、息を吐いた。

 恐らくだが、死にかけた状況のことを思い返してしまったのだろう。


 俺も詳しくは聞いていないが、彼女は列車の乗客を守るために囮となって魔獣を引き付けながら戦っていたらしい。その挙句に、メガロドンに喰い殺されそうになり、謎の爆発に巻き込まれ、上空から地面に落ちて死ぬ寸前だったと聞いている。


 ……後半、若干俺が原因な気がしなくもないが、そこは黙っておいた方がいいだろう。


「そうか。じゃあ、18歳の誕生日おめでとうってことでプレゼントにこれをあげるから元気出せよ」


 少し重くなりかけた空気を断ち切るように、俺は自分の皿に残っていた野菜を、ルナの皿へとそっと移した。


 やっぱり、ハンバーグやステーキの付け合わせ野菜が微妙なのは、どの世界でも共通らしい。


「あっ! これ、ぜーったい自分で食べたくないだけでしょうがっ!」

「心からルナの健康を願ってるんだよ……ふっ……」

「おいコラ。ちゃんと私の目を見て言ってみなさいよ」


 目を逸らしながら誤魔化す俺に向けてルナが拳を構えた、その瞬間。


「ふふっ。じゃあ、私のも野菜もあげちゃおーっと。健康は大事だもんね」


 追撃のように、にんまりと笑みを浮かべたシアが自分の皿から野菜を移す。


「んなっ!? ……こんのっ……二人してざっけんなー!」


 そう文句を言いながらも、結局ルナは山盛りになった野菜を、きっちりと平らげたのだった。


 それからも雑談を交わしつつ、何度か料理を取りに行っては食べる、というのを繰り返し、三人の腹がすっかり満たされた頃のことだった。


 食堂のざわめきに紛れるように、シアの胸元から規則的な電子音が鳴り始めた。


 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ――


 反射的に肩を震わせた彼女は、慌てながらブレザー制服の胸ポケットへと手を差し入れる。

 そこから取り出したのは、手のひらサイズの薄い長方形の物体だった。


 表面には電子的なディスプレイと、いくつかの小さなボタン。

 今も画面を点滅させながら、着信音らしき音を鳴らしている。

 どこからどう見ても携帯電話、というかスマホにしか見えない。


「あっ、フィオネさんからだ。ちょっと話してくるね」

「んーっ!」


 口いっぱいにデザートを詰め込み、リスのように頬を膨らませたルナが、片手でOKのポーズを作る。シアは慌てて立ち上がると、紺色のスカートを揺らしながら、小走りで食堂の出口へと向かっていった。


(……ってか、あれ、絶対にスマホだよな?)


 料理や言葉に続き、またしても既視感のある道具。

 デザインは見慣れないが、形状も大きさも、俺の知るそれと酷似している。

 ここまで何度か見覚えのあるものをスルーしてきたが、今回はどうしても気になって、俺は隣に座るルナへ視線を向けた。


「なぁ、ルナ」

「ん? どした?」

「シアちゃんが手に持ってたのって、何?」

「あー、テレパスフォンね。これでしょ?」


 そう言いながら、まだ口の中でもぐもぐとデザートを頬張ったまま、ルナはショートパンツのポケットから、同じ形状のデバイスを無造作に取り出した。


 名前は、テレパスフォンというらしい。

 彼女はそれをテーブルの上に置き、俺の方へと滑らせてくる。


「ちょっと見てもいいか?」

「もちろん♪」


 実際にテレパスフォンを手に取ってみると、やはり手に馴染む。

 まぁ、それはそうだろう。

 約15センチのディスプレイと、下部に備え付けられた三つの小さなボタン。

 現代っ子には欠かせない必需品だったスマホと同じ形、重さ、使用感。

 体感的には、昨日まで使っていたスマホと何ら変わりない。


「ここを押すと、ロックが解除されて操作できるようになるんだよ」


 ルナはフォークでケーキをつまみながら、空いた右手でボタンを押す。

 すると、画面が切り替わり、丸いアイコンのようなものがいくつも並んだ。


「これで遠く離れた人とも会話できるってことだよな?」

「そうっ! よく分かってんじゃん」

「他には何ができんの?」

「そうだなー、色々できるよ。メッセージ送ったりとか、自由組合が公開してる依頼表を見たりとか? あとは、写真撮って解析鑑定スキャンしたり、簡易的な魔力探知機能レーダーもあるよ」


 やはり仕様や細部こそ異なるものの、このテレパスフォンがこの世界における電話やスマホの役割を担っていると考えて間違いないだろう。


「ちなみに、このテレパスフォンって何を動力源にしてるんだ?」

「えっ、そんなの魔力以外になくない?」

「魔力……」


 電力ではなく魔力。

 それがこの世界においてエネルギーの基盤になっているらしい。


 まだここら辺はちゃんと理解できていない部分が多いが、これまで魔法を使用した際に俺の体内から溢れ出した力の奔流が魔力だったはず。


(ってことは、この世界では人が魔力というエネルギーを生み出して、日常で使用する道具に供給してるってことになるのか……?)


 前世で例えるなら、人が体内で電力を生み出してスマホを充電したり、車や電車を動かすイメージだろうか?

 少し想像しづらいが、発想自体は間違っていないはず。

 その場合、体内で生み出せる魔力の量に個人差があるのか、他にどんな用途があるのか、人がエネルギー資源そのものになり得るのではないのか、といった疑問が次々に頭の中に噴出する。


 しかし、ルナが次に言い放った一言で俺の思考は完全に停止することとなった。


「こういうテレパスフォンとか、この食堂に並ぶ料理、私たちがここまで乗って来た車や列車もなんだけどさ。全部、君も持ってる本『最果ての英雄』に登場する三人の英雄がこの世界に伝え遺したものなんだよ? 今を生きる私たちはホント感謝しないとだよね、って……聞いてる?」


 衝撃的な内容に相槌を打つことすら忘れ、俺は固まっていた。

 食堂内に響くにぎやかな笑い声や足音、食器の触れ合う甲高い音、料理やデザートの匂いさえもどこか遠くなっていく。同時に、これまで積み重なっていた既視感が、一気に一本の線で繋がったような感覚が沸き上がる。


 まるで、頭の中を覆っていた濃い霧が晴れ、一気にこの世界への理解が鮮明になったみたいだ。


「おーい、聞こえてますかー? ルナさんが目の前でいっぱい喋ってるんですけどー?」


 さらに、高い確率で俺と同郷の人間が存在しているかもしれないという事実。

 そして、彼らはこの世界において千年前に実在した英雄的な存在。

 つまり、かなり昔に日本の知識や文化がこちらに持ち込まれ、それがこの世界に根差しつつ、独自の発展を遂げたと考えられる。


(ようやく色々と腑に落ちたけど、まだまだ考えることは多いな……)


 いくつもの衝撃が重なり、俺の脳内は密度の高い情報によってパンク寸前。

 当然ながら、目の前の金髪少女の声はちっとも届いていなかった。


「……んぐっ!?」


 しかし、次の瞬間、頬に鋭い痛みが走った。

 そのまま意識が強制的に引き戻され、至近距離で茜色の瞳と視線がぶつかる。


「い、痛い……。ほっぺたをつまむのやめてくれ……」

「あ、やーっと戻って来た。私が話してるのに全然聞いてないし……、もしかして、何か思い出した?」


 不満顔から心配顔へ切り替わり、小首を傾げたことでルナの金色の髪が揺らめく。

 記憶喪失ということになっている俺が何かを思い出したのではないかと考えたようだ。

 俺自身、まだこの設定に慣れていないせいか、ちょくちょく反応が遅れてしまう。


「いや、まったく。ルナの話が凄すぎて、色々考えさせられたんだよ」

「そういうことね。まぁ、ビックリだよね。私だって思っちゃうもん、たった三人だけでそんな凄いことできんのかーってさ」

「かなり昔の話なら、尾ひれがついて誇張されてる可能性は?」

「どうだろ。全部が嘘ってことはないと思うし、少なくとも私は信じてるよ」

「その根拠は?」

「根拠はないけど、その方がロマンがあるじゃん! それに……」


 鼻息混じりの調子から一転し、ルナはほんの一瞬だけ表情を引き締めて、声のトーンを落とした。


「みんなに出来ないことを成し遂げたから、三人は英雄として語り継がれてるんだと思うよ」


 穏やかな口調で言い終えると、彼女は喋り疲れた喉を潤すように手元のグラスを手に取り、グビっと豪快にドリンクを流し込んだ。


 一方で、俺も彼女の言葉にどこか納得しながら、ドリンクを軽く口に含む。

 柑橘系の炭酸が喉奥を刺激し、酸味のある爽快感に包まれたまま、心を落ち着かせるように小さく息を吐く。


(にしても、一つ新しい情報が加わるだけで、周りの景色すらも違って見えるから面白いもんだな……)


 この食堂に並ぶ料理やドリンクの数々。

 ルナやシアが当たり前のように使っている通信用のデバイス。

 道中で乗った車、目にした線路や列車、そして今まさに搭乗している魔導戦艦。


 今にして思えば、星屑の森での騒動を伝えていたニュース番組や、それを届けるための仕組み、食堂の壁に設置されていたテレビモニターですら、前世の知識を土台にして作り上げられたものなのかもしれない。


 そして、それを成し遂げたのがこの世界で千年前より語り継がれる三人の英雄。

 到達不可能とされる世界の中心地へ辿り着いた伝説の勇者パーティ『ブレーメン』。

 奇想天外な知識と発想で、文明の礎を築き上げたとされる偉人たち。


(三英雄……やっぱ、俺と同郷の存在な気がするけど……一体、どんな人たちだったんだろうな……)


 彼らへの興味も疑問も溢れ出すばかりで尽きることはない。

 千年前の英雄たちの足跡は、他にもまだ多く残っているだろう。

 できることなら、このままルナと雑談を続け、少しでも多く情報を獲得したい。


 そんなことを考えていた矢先――

 食堂の入り口から、シアが足早に戻ってきたことで、この話題はひとまず幕引きとなった。

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