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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、心なしか夏休みを楽しみにしている。
22/33

“伏見悠榎”は 彼女達と共に祭に参加する。べ、別にお祭りが楽しみなんかないんだからね(棒読み)

「……ん」


 多分、窓から射し込んだ光が目を刺激して、やむなく目を覚ます俺。気怠さの残る体を起こすように腕を天井に伸ばし左右に倒してみたりする。

 椅子に座って寝落ちてしまっていたはずなのだけれど、気付けば俺は床に寝転んでいた。どうやら途中で椅子から転げ落ちて眠っていたみたいだ。眠りについていると何をされても起きない自信があるのだけれど、眠っている間に襲われても気付くことないので少し心配である。がしかし、そこようなことは滅多に、いや全く起きる気配もないので安心です。

 今だにぼやけている瞳を擦っていると、次第に視界も開けてきた。


「……なっ!?」


 どうやら布団をかけられていたようだが、よく見ると隣に誰かが眠っていた。顔まで布団が被さっていたけれど、時おり覗く金色じみた長髪を見る限り、明らかにその正体は神城なのであった。なにこれ朝チュン? っつ ーかあんた何してんのさ!?

 俺には海から帰って来た後の記憶がない。勿論その後寝落ちたんだから当たり前である。だからこそ、なぜこいつがここにいるのか検討もつかないのである。あぅあぅ~、頭の中のちっちゃい妖精さんが混乱して暴れまわっているのですぅ~。

 ……いやいや、落ち着けよ、俺。別に俺が何か悪いことをしたわけでないし、むしろ俺が被害者なわけである。よって満場一致で俺の否はないのである、多分。しかし、この状況はどう足掻いても絶望な気がするんだけれど、気のせいでしょうか?

 ……とりあえず、こいつを起こすとしよう。


「おいアホ子、起きろ。朝だぞ」


 ユサユサと肩を揺らしながら語りかけるも、全く以て起きる気配無し。時折可愛らしい寝息が聞こえるのみである。畜生、何だこの罰ゲーム。一体俺が何をしたというのだ。ただ寝落ちただけでこの有り様なのであった。


「……ん~」


 ……おや、どうやら自然とお目覚めになったようだ。神城は大きく欠伸をしたあと、寝ぼけ眼で俺の顔を見る。


「……へ?」

「……あ?」


 俺の顔を見た神城の目は丸くなり、かなり仰天したようすの表情を浮かべた。


「……き」

「……き?」


 き、とは何ぞや? 朝っぱらから意味不明な単語を呟く神城をついジト目で睨んでしまう俺。対する神城はその表情を徐々に変えていき、最終的にはまるで幽霊か何か恐ろしい物を見たときのような表情を浮かべて、


「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」


 と、声を大にして叫び始めたのであった。それはまさしく絶叫であった。耐えれず俺は耳を塞ぐ。あぁもう五月蝿いなぁ。これなんて絶叫大会? どこだか忘れたけれどそういう催しを執り行っている県があるらしいから、叫ぶならそこでおもいっきり叫んで優勝して頂きたい。


「……五月蝿い、神城。寝起きで頭痛ぇのに、そんなに騒がれたらより一層頭痛が酷くなるだろうが」

「あ、ごめん……じゃなくて!! なな、何でふしみんが私の布団所にいるわけぇ?」


 ……いやいや、それはまさにこちらの台詞である。その言葉をそのまま神城に送り返してやりたいです。


「何でって……じゃあ逆に聞くけれど、どうしてお前ここにいんの? 確かここは俺が昨日寝落ちした部屋なんですけどぉ?」


 最後の方、ちょっと頑張ってイラッと来そうな若者風に尋ねてみる。自分で言っといてなんだけれど、正直この喋り方イラッとした。多分これをビッチな奴が言ったなら、迷わずそやつの喉元にラリアットを食らわしたくなる位のイラつき加減。まぁ、実際にはやりませんけどね。


「なんかその言い方ムカつく!!」

「はいはいムカつくムカつく。どうでもいいけど、とりま周りを見てみ?」


 俺は適当な言葉を返しつつ、神城に冷静になるように暗に促す。神城も一通り周りを見渡した後、


「……あれ?」


 と呟いて小首を傾げた。そして自分の失態に気付き、次第に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤に染め上げたのであった。

 今更思うのだけれど、先程の神城氏の叫び声はかなり五月蝿かった。多分この別荘中に響き渡ったんじゃね? って思うくらいの声量だった気がするのだ。

 つまり何が言いたいのかと言うと……ですね。


「どうしたんですかぁ!? 神城さん!!」


 この別荘には他にも人がいて、先程の悲鳴を聞いていた可能性が高確率で存在する、ということである。それを証明するかのように、ドタドタと喧しい足音を立てながら千夏がこの部屋に入ってきた。部屋に入るやいきなり俺と神城の顔を交互に見る千夏。初めは神城よろしく目を丸くさせていたのだけれど、次第にニヤニヤと笑いはじめて、


「あらあら、これは私の気が回りませんでした。折角の二人っきりという状況を邪魔するのは野暮というものですね」


 と、茶化すように呟いて部屋を出ていった。その敬語がやけにイラッとする。先程と同じく神城は顔を真っ赤にして、何やらアワアワと口ごもっていた。

 あぁ、俺の静かな朝というのは、いつやって来るのでしょうか。そこんところお願いします。誰に言うでもなく俺は心のなかで呟いたのであった。






 何故朝っぱらからこんな疲れなければならないんだろうか。千夏からはまるで巣立っていく子供を見送る親のような視線を送られるし、神城とは何やら気まずい雰囲気が漂っている。別に俺は気まずい訳ではないのだけれど、神城本人が気まずいオーラをぷんぷん放出しているのである。逢坂と来栖は俺達二人に何があったのか知らない振りをして実は知っているのではないかと俺は思った。だって、あいつらめっちゃこっち見てクスクス笑ってんだもの! あれは絶対確信犯だってばよ。

 ……あぁ、もうどうでもいい。なんかもうどうでもよくなってきちゃった。軽く現実逃避をしてしまいそうになったが、そこはぐっと堪えてみる。人生とは我慢の連続だと誰かが言っていた。なにそれ嫌だなぁ。


「……で、今日は何すんの?」


 沈黙打破というわけではないけれど、俺は誰にでもなく質問を投げ掛ける。一応この合宿は部活動の一部という題目なので、各々が勝手に行動してはいけないと思ったのだけれど、


「……夜まで何もないわ。自由にして構わないと思う」


 と、逢坂が答える。どうやらその通りではなかったらしい。まぁそうだわな。俺らここに来て部活っぽいことしてないし、ましてや世間一般的な“合宿”さえ執り行えていないのである。言ってしまえばこれはただのお泊まり会である。 今更ながら思うけれど、“部活動としての合宿”には、その部活動の顧問の存在が必要不可欠であるのだが、我々の今回の合宿にはその顧問がいない。というか学校ん時の活動時にも見たことがない。そもそもこの部活に顧問いんの? と疑ってしまうレベル。

 まぁそれはそれとして、今日は何をしようかしら。自由っつー事はあれでしょ? 何しても良いんでしょ? いやぁ、何しようかな。とりま昨日途中までしか読んでない小説の続きでも読もうかしら。本日の行動予定をウキウキとしながら考えていると、唐突な一言を来栖が言い放つ。


「ちなみに夜からは近くでやっているお祭りに行くから」


 ――え? 聞いてないですよ? そんな事。まぁ、言われた記憶もないのだから当たり前なのだけれとも。しかしまぁまた唐突に何を言い出してんだこの人。

 来栖の話によれば、この別荘の近くにある神社周辺でどうやら盆祭りのようなものが開催されるらしい。俺達の夏休みも確か七月下旬から八月中旬の、丁度盆明け辺りまでを予定していたはず。なのである意味丁度よいタイミングだったのだろう。

 ――まぁ、夜からはこれといって予定もないし、むしろ夜を迎えるまでも予定もない、所謂、俺超暇状態にあるのである。まぁだからと言って誰かに誘われてもそれを拒否するんだけどね。

 しかし、祭りねぇ……。自慢という程でもないが、俺はこう言った催し事には基本的に参加しない質の人間である。だって人多いし、屋台の食い物は基本的に金高いし、リア充(笑)共が毎度のごとくたむろしているし、どう考えても俺に何の利点も無いじゃないですか。……あ、あと家から祭会場遠いし。

 これらの事柄から推測するに、とりあえずリア充は爆発すればいいと思いました。

 ……まぁ今回は嫌々ながらも参加してやろうじゃないか。もしかしたら何か嬉し恥ずかしな掘り出し物があるかもしれん。……出来れば恥ずかしくないものが良いな、俺。








 いつもいつも思うのだけれど、何故時間というのはこうも早く過ぎ去っていくのだろうか。相も変わらずぐうたら読書をして過ごしていると窓の外はもう茜色、朧気ではあるが祭囃子も聞こえ始めてきた。いつもなら「祭だなぁ……(棒読み)」と呟き再び自分の世界に旅立つところなのだけれど、生憎今回は祭への参加が決定してしまっているのでここら辺で俺は手に広げていた小説をパタンと閉じた。

 先程の部屋をあとにした俺は、一人玄関先でボーッとしていた。理由は簡単、某部活動メンバー+我が妹のが現れるのを待っているのである。別にあいつらを放置して行っても良かったのだけれど、流石は兄妹きょうだいと言ったところか、千夏のやつに「先走り禁止!」と釘を刺されたのである。別にはしゃいでる訳ではないのだけれど。

 何か浴衣に着替えるのに時間が掛かるんだとか言われたけれど、こちらとしては幾分どうでもいいことである。別に私服でもええやん、とエセ関西弁でつい突っ込んでしまうレベル。

 ……かれこれ待って数十分。前回と同様全く出てくる気配もなし。……なにこれ俺への挑戦状? 俺の人間性を試しているの? そんな事する暇があるならさっさと準備終わらせろよ。

 正直もう先に行ってやろうかな、と思い始めていると、それを見越したかのように千夏達が表れた。だから何でそう丁度いいタイミングで現れるわけ? それはやはり俺への挑戦状なの?

 「ゴメーン」と謝罪をしている千夏の顔はやはりにやけている。さしずめ「兄貴がここまで待てるなんて意外!!」とでも思っているのだろう。残念、お前の兄貴はそこまで我慢の出来ない若者ではないので。むしろ今の現状――苦手な女子やつらと共に行動出来る時点で何でも我慢出来そうな自信すらあるのである。


「……遅い」

「ごめんごめん。ちょっと長話してて」


 俺は腕時計をとんとんと叩きながら呟き、千夏は両手を合わせて謝る。長話しするくらいならさっさと出てきてくれよ。軽く溜め息を吐きながら俺は目的地へと足を運ぼうとする。すると、


「兄貴ぃ、もうちょい気を聞かそうよ」


 と、千夏から何故かダメ出しを食らう。


「俺、気ぃしか使ってないのだけれど……」

「そーゆー自虐ネタは要らないから」

「自虐ネタじゃねぇし……」

「ほらほら、何かないの? 浴衣だよ? しかもこんなに美人揃いなんだよ?」

「知らねぇよ。ちなみにその美人軍団にお前も含まれてんの?」

「当たり前じゃん」

「……さいですか」


 これ以上突っ込んでいても埒が空かない気がしてきたので、俺は早々に諦めモードに。しかし、何を誉めろと言うのだろう。……めんどくさいので適当に誉めておくとしよう。


「ハイハイ可愛い可愛い。皆可愛い可愛い。超可愛い」


 適当な誉め言葉を述べるのだけれど、我ながらボキャブラリー少ないなぁ、と思ってしまう。実際「可愛い」しか言ってねぇし。

 だがしかし、どうやら外野側にはそう思われていないらしい


「う、や、そんな誉められると恥ずかしいよぉ……」

「……ま、まぁ、誉め言葉として素直に受け取っておきましょう」

「……フフ、もしかして私に惚れたかしら?」


 ……という感じに顔を赤くしながら何かしら呟いていた。まぁ、顔を赤くしてたのは主に神城なのだけれど。あれ? 女性ってこんな適当な言葉でも喜ぶもんなの? なにそれ超単純。そんな感じのやつらに騙された男も超単純。

 ……まぁ実際その通りではないわけで、


「うわぁ……超適当だぁ」


 と、千夏にジト目で見られながら突っ込まれた。流石は我が妹。伊達に毎回同じような誉め言葉を聞いていないぜ。他のやつ――主に神城がキョトンとして「え? 適当だったの?」と言いた気な顔をしていた。いやいやだって誉め方とか知らねぇし、むしろ俺には不必要な物だと考えて真っ先に切り捨てた位である。そんな俺に何か期待されても迷惑なだけです。


「っつーかそんなんどうでもいい。さっさと神社行くぞ」


 俺は軽く溜め息を吐き、いかにも怠そうに歩き出すのであった。


「兄貴ってば、そんなに祭が楽しみなわけ?」


 と千夏に問われたけれど、別に祭が楽しみなわけではない。正直言って気分は乗らない。きっと人は多くて人混みができそうだし、何かしらを買うにしても金が掛かるだろうし、地元のリア充共、もしくは他所から来たリア充共が結構存在してそうで嫌気しかしないのである。だけど、他のやつらの意見をないがしろにする程俺は自分中心な人間ではない。この世の中、自分の意見が通らない事が数多くある。確かに自分の意見や意思を通すことは悪いことではないけれど、それが必ずしも正しい道であるとは言えない。時には諦めることも大事なのだ。

 だから俺は、千夏の問い掛けにこう答えるのである。


「べ、別に、祭が楽しみなんかじゃないんたからな」


 ……言い終わってから気付いたんだけれど、どう考えてもこれ祭を楽しみにしてるやつの台詞だな。あまりにもツンデレの言う台詞のテンプレ過ぎて、なに俺ツンデレ? って思ってしまうレベル。何やら色んな批判を受けそうな気がしたので、俺は後ろのやつらを気にしないように、くだんの祭会場に足を進めるのであった。

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