“伏見悠榎”は記憶に遊ばれる。そして彼は見つけた。
祭。それは不特定多数の人間が集結することによってようやく執り行うことの出来る行事。県外からであれ、町内からであれ、とりあえず多くの人を集めて大々的に行われる。その為、会場には人が群れをなしてわいのわいのと賑わっていた。その情景は「見ろ! 人がゴミのようだ」と心中で呟いてしまうくらいである。まぁ、こんなにゴミが散らかっていたら大問題になりかねないのだけれど。
つまり、なにがいいたいのかというと……。
「……はぁ」
……俺の周り一面は人の群れでいっぱいである、ということだ。なにこれ昆虫の群れ? って感じ。
祭の会場には、俺の推測通りの人混みが群れをなしていてちょっとテンションダウン。そして、やはりそこら中に男女のカップルで来ている奴らを見かけて更にドーン。気分は一気に最下層まで下っていくのであった。やはりリア充は爆発するべきである、と声を大にして叫びたい気分。
「……で、これからどうすんの? 屋台を見て廻んの? それとも帰んの?」
「早っ!!? 今来たばかりなのに……」
「二言目に『帰る』って選択肢が出る辺り、流石は兄貴だと思うよ」
つい溢れてしまった俺の本音に、神城と千夏がジト目でこっちを見ながら呟いている。いやいや、確かにここに来る前は頑張れる気がしたんですよ、俺。でもここに来てみればこの人混みじゃないっすか。その瞬間、俺の中のなにかが崩れ落ちる音がしました。それでも神城と千夏はその人混みを掻き分けて先に進もうとする。あぁ、よく進めるなぁ。俺だったら絶対無理だね。むしろ人混みを掻き分けず、手短な場所の屋台だけて用を済ませた方が楽じゃね? って思う。まぁ、パッと見た感じ無理だと即答できるけれども。
「……で、お前らは二人はどうすんの?」
神城&千夏の行動力に着いていけてない逢坂、来栖に向けてふと尋ねてみる。
「そうね……私、こういう催しに参加するの初めてだから、どうすればいいかわからないのだけれど」
……ですよねー。まぁ、なんとなくそう言いそうな雰囲気はしてましたけども、安定の世俗の知らなさですね、逢坂さん。もはやこの人の興味の対象像がよくわからない。
対する来栖氏はというと、
「私も初めてね。こう……男の子と来るのは」
「……知らんがな」
異性とこういった催しに来たかどうかはともかく、来栖さんはとりあえず、俺と腕組もうとするのは止めようね。暑いからね。密着されると暑苦しいからね!
……とりあえずやつは離れてくれたけれど、人混みを見るだけでも疲れてるのに、来栖にいちいちツッコミを入れたおかげで更に疲れた。体力ゲージとか表示されたらきっとピコンピコンと点滅しているレベル。
ちなみに、正直俺もこういった催しに参加回数は少ないので、一体何をしたらよいのかわからない。むしろ今回は我が妹の千夏の案内を頼りにブラブラしようかと思っていたらこの様である。なので俺は迷える逢坂達に助言の一つも与えることが出来ないのである。あらやだ伏見さん役立ちませんね。申し訳ないっす。サーセン。
「………」
なにやら逢坂の表情が心なしか微笑んでいるように見える。
「どした? そんなにニヤニヤしてさ。まぁ、ニヤニヤしてんのかわかんねぇけれども」
「……ちょっとね。やはり初めてだから少し楽しみなのよ」
「……さいですか」
……まぁ、気持ち分からなくもない。大概の初めての出来事は楽しみか不安かどちらかを感じる。俺も幼い頃に何度かこういう催しには参加したことがある。まぁ、あくまでも指折り数える事の出来る回数くらいだし、それも人混みの多いところではなく、あまり誰も来そうになく且つ夜空に上がる花火を見ることの出来る場所で一人座っていただけなのだけれど。それでもやはり初めて参加した祭りは子供心ながら胸の高鳴る感触を感じていた……気がする。今では哀しきかな、そう感じていたあの頃はまだ幼かったな、俺……と感慨深く感じてしまうレベルの達観ぶり。というより、単に人混みが嫌いなだけなのだけれどね。とりま逢坂には俺と同じような道程を歩まぬよう願います。
さて、一体これからどうしたものか。来栖はともかく、逢坂と一応俺も全くの祭り初心者なので、この先どうしたらよいのかさっぱり検討もつかない。かといってこの人混みを掻き分けて先に進めるかと言えば絶対に無理だと断言出来る。無理というか嫌だ。正直言ってやはり帰りたい気分。あれこれと考えを巡らせている時である。
ピトッ。
という擬音が似合うような感じで来栖の畜生が俺の腕にくっついてきやがった。
「……何してんの? お前」
「ん? 恋人っぽい仕草よ?」
「……そんなんやる必要性が見当たらないんだが」
「ただ私がやりたかっただけよ」
「こちらとしては止めていただきたいのだけれど」
「それは無理な相談ね。……伏見君の腕、気持ちいい」
「止めてくださいその台詞。周りに聞かれたら変な解釈をされそうなので」
「あら残念」
下をペロッと出しながら茶化すように来栖が呟く。こちらとしては別に残念なんかではない。むしろ安堵を感じてしまうレベル。……きっとこういうシチュエーションに一般男性の方々はドキッとしてしまうのだろう。確かにこれはよくリア充共の間で行われている比較的頻度の高い行動である……と思うし、そういうのに慣れておられない方々にとっては経験してみたい事の一つであると思う。だけれど、“恋愛アンチ”を語る俺にとってはただただ鬱陶しく感じるだけの行動であるのだった。とりあえず離れようね? 来栖さん。そして逢坂よ、こちらをジト目で見んな。
「……とりあえず自由に行動すればいいんじゃね。あいつら二人はもう行っちまった訳だし、後で合流する場所さえ決めとけばいいし。その方が個人的には効率的だと思う」
「……確かにそうね。でも、神城さん達はどうするのかしら」
「あぁ、どうせ千夏にも伝えなきゃならんからまとめて俺が伝えとく。とりあえず集合場所は鳥居の前な。それだけ分かれば自由に旅立っていいぞ」
二人に確認をしたあと、俺はすぐさま携帯を取りだしてメールを作成し始める。一々二人分のメールを作るのは面倒ではあるけれど、あいつらが別々に行動していた場合の事を想定して嫌々ながら頑張ってみた。まぁ、文章は単に『用がすんだら鳥居の前に集合』といった必要事項のみを書いただけなのだけれども。詳しい集合時間を決めていないけれども……まぁ、気にせんでいよう。
……とりあえずこれでよし。さて、俺はどうしようかな、と髪を掻きむしりながら後ろを振り向くと、何故かまだ逢坂と来栖がいた。何でお前らここいんの? 自由行動って言ったじゃない。
そう心のなかで呟いたつもりだったのだけれど、俺の思考を読んでいるかのように逢坂が答えた。
「とりあえず私は、貴方の後に着いていくことにしたわ」
どうしてそうなった。だって自由行動だぜ? 自由に行動してもいいのだから俺に着いてくる必要ないし、むしろ一人で行動した方が個人的には効率的だと思う。なんてったって自由行動だからね。それに目の前にはこの人の群れだ。共に行動していても結局はぐれてしまうフラグが立つのは容易に想像できる。逢坂はそれくらいわかっていると思っているのだけれど……。
だから俺はふと逢坂に尋ねてみた。
「何故俺に着いてくるという決断に至ったのだ? 一緒にいたところでこの人混みだ。どうあがいてもはぐれてしまう確率の方が大きいだろうに」
「確かにそうだけれど、それでも貴方の近くの方が都合がいいの。昨日の海水浴場での一件みたいなのがあるかもしれないし……」
……まぁ確かに、この人混みの中にはそうゆう分別のできん輩がいてそうだし、こいつら二人は無駄に容姿端麗だからそういうアクシデントが無いとは言い切れない。まぁ、不思議なことに大概そういう奴等に限って容姿は中途半端なのが多いから、所謂ナンパ成功率は低いのだけれど。
「それに、伏見君ならあまり疲れずに祭をそれなりに楽しむ道程を知ってそうに思ったから」
……それは買い被りすぎてある。俺が知っている道程は、俺得な道程であって、そこに他人のことを考慮したりすることはないだろう。基本的に俺は自分のことしか考えていないから、他者にとって俺との行動は何のメリットもないと言っても過言ではないと思われ。
だが、多分逢坂もそんなことは承知の上だろう。あれだけ俺のことを見ていたのだから……。勿論異性としてではなく、あくまでも観察対象としてであろうけれども。
仕方ない。こいつの提案に巻き込まれてやるとしよう。
「……まぁ、着いてくるのは勝手だが、はぐれたとしても知らねぇからな」
「じゃあ、はぐれないように手を繋げばいいんじゃないかしら?」
ふと来栖の口からなんともまぁあり得ない発想が飛び出て来た。子供かお前は!! と心中ながら突っ込んでしまった。
「するわけなかろうがそんな事。子供じゃあるまいし……」
「あらそうかしら。私はむしろ恋人同士のやり取りだと思うのだけれど」
「恋人同士な……それこそあり得ん話だ。誰が誰と付き合うんだ? お前と逢坂か? それとも神城か? もしかして逢坂と神城じゃなかろうな。どうあがいても百合展開じゃねぇか。誰得だよ全く」
「そこにどうして“伏見君”という選択肢が無いのかしら?」
「え? 俺? それはないない。百合展開より確率無いだろ絶対」
むしろ腐女子連中待望の、男子同士のホモォでホモォなホモ展開が起きるよりも低確率だと言っても過言ではない。何しろ俺は恋愛アンチなのだから。これ大事ね。
「……呆れるほど鈍感ね、伏見君」
「なんか言ったか? 来栖」
「いえ別に、何でもないわ」
何でもないと言うわりには口元がつり上がっていますけれども? 来栖さん。あいつ絶対なんか言ったし、要らんことを思ってる気がしてならん。
すると、唐突というか案の定というか、来栖は再び俺の腕に抱き付いてきた。だからそれを止めろと何度言ったらわかるのかしらこの人は。
「ちなみに、私にとっての恋人同士の仕草はこれなのだけれどね」
「知らんがな。っつーか一々くっつくな」
抱き付いてきた来栖の腕を、俺は腕を振り回しながら引き離した。本当この人苦手!
「どうでもいいけど、さっさといくぞ? 時間がねぇから」
「別に私はいいけれど、何かあるのかしら?」
「……は?」
不意に返ってくる質問に、俺はいかにも間抜けなリアクションで返してしまう。無意識のうちに呟いたけれど、正直自分でも何に対して時間が無いのかよくわからない。しかし、何かあったはずだとぼんやりと記憶している。もしかして何か忘れているのではなかろうか。いやいや、そんなことはどうでもいい。
「何でもねぇ、気にすんな。とりあえず行くぞ」
俺はそう言い放ち、スタスタと歩き始めた。勿論、比較的人混みの少ない所を選びながら。
……だがしかし、
「……ぐぬぬっ」
目の前に広がる人混みのおかげで満足に目的の売店にはたどり着けないでいた。まぁ、案の定こうなることは分かってはいた。分かってはいたけれどもやはり不満の声が溢れてしまう。
そんな中で満足に購入出来たものと言えば、たこ焼きとリンゴ飴くらいしかなかった。しかも全負担俺だし……。
来栖氏曰く、「彼女に何か買ってあげるのは彼氏の義務」らしい。俺達全く付き合っていないのだけれど……という反論が出てきたが、めんどくさいので言わないでおいた。
そして現在、極力人混みの少ない場所を求めて途方の無い道を辿っている最中である。
「ねぇ、伏見君」
ふと逢坂が声を掛けてくる。
「何だ?」
「私達は今、どこに向かっているのかしら?」
「どこって……人の少ない所だよ」
「そんな所あるのかしら。 周りはこの人混みよ?」
確かに、逢坂の言う通りこの人混みで人の少ない所など皆無に等しいかも知れない。 むしろこんな人混みの中で比較的人の少ない場所を探せってどんな無理ゲーだよ、と突っ込んでしまいたいレベルの難易度だ。
けれど、俺にはその問題を、比較的最良な形で解決できる場所を知っている。いや、知っているかもしれないと言った方が正しいかもしれない。
ぼんやりやとした記憶で、正直他人にどう説明したらよいかわからない。だから俺は、逢坂の問いかけに対して、
「……ついてくれば分かるよ」
という、まるでイケメン(笑)が呟きそうな一言を言い放つ。自分で言っておいてなんだけど、これかなり恥ずかしいぞ。世間に蔓延るイケメン(笑)達はよくこんな赤面覚悟の台詞をサラッと言ってのけるなぁ……。少しばかり尊敬してしまうレベル。
しかし、ホントにこの道で大丈夫なのか? 朧気な記憶を頼りに進んでいるのだが、どんどんと祭会場から遠ざかって行っているのだが。正直言って何か不安しかないんですけど……。
挙げ句の果てに、
「……ねぇ、伏見君」
「……何だよ」
「この道で大丈夫なの? 本当に……」
と再び訪ねられてしまう始末。いや、こっちが聞きたいよそれ。
我が記憶ながら疑心暗鬼になるけれど、それでもその記憶に従って目の前の道を進む。その結果森のなかに入ってしまう羽目に。ここまで来るともう道を照らす明かりも無くなり、足元でさえかろうじて「道である」と確認出来る程の暗さだ。だって森のなかだもの。
……やっぱり本当にこの道で大丈夫なのかな? 何かこれ迷子フラグ確立してんじゃね? と再び疑心暗鬼になりかける。それでもやはり、この不安定極まりない記憶を頼りにしなければならない、と諦めて進んでいると、目の前になにやら階段らしき段差がぼんやりと見えた。それを目で追っていくと、頂上辺りがほんのりと明るい。多分この先は何かしらの明かりが灯っているのだろう。とりあえず俺はその明かりを目指して再び足を動かす。
その階段っぽい道を辿った先には人影が見えた。どうやら先客がいたようである。しかしこんななんもないところに来るなんて物好きもいるもんだなぁ……。まぁ、人の事は言えないけれど。
髪をくくっていることから推測するにそいつは多分女性。その髪はまるで光の粒子を放出している上に月明かりに照らされて白銀もしくは金色に輝いていた。
……まぁ、所謂「髪の色が金色っぽい」と言いたいのである。詩的な表現で言ってはみるがやはりまどろっこしくなってしまったが、要は彼女を誉めたのである。珍しいことに俺が他人を……である。
足元の砂利の音で気付いたのか、その人物がこちらを振り向いた。
……その正体は俺の、そして後ろに何とかついてきていた逢坂達の見知っている人物であった。
「あれ、ふしみん? それに二人も……」
何故お前がここにいるのだ……神城蘭子。
記憶を辿っていった先に知り合いがいるとかなにこれ何てギャルゲー? って感じ。そういうのは何か運命感じちゃいそうなのでやめていただきたい。しかも心中こいつんこと誉めてしまったし。うわ、何か恥ずかしい。この姿を我が妹に見られたりしたら確実に家で弄られるに決まって……。
……そういえば千夏は何処にいるのだろう。たしかこいつと一緒にあの人混みの中に消えていったはずなのだが……。
まさかの迷子か? もしくはあの人混みの中ではぐれてしまったか。
……いいえ、いました。暗がりで分かりづらかったけれど、神城の隣で、向こう側の空を見上げたままポツリと立っていた。
「……あ、兄貴。来てたんたね」
「来てたんだね……って、気付いてなかったのか?」
「ん~、まぁそんな感じかな? それよりもうすぐだよ!」
「もうすぐって何がーー」
そう言おうとした刹那、俺の声をかき消すように何かが弾ける音がした。音のする方向を振り向くと、夜の空に広がる火花の塊ーー所謂花火が上がっていた。しゅーという音をたてながら一つ、また一つと夜空に火薬の弾が舞う。そして数秒後にまるで花びらの如く破裂する。その予想だにしない光景に周りの連中は心底驚いている様子だ。
各位う俺もそうなのかというと、不思議なことにあまり驚きはしなかった。
「……ねぇ」
ふと千夏の声が聞こえる。多分俺に言っているのだろう、俺は彼女の方へ目を向ける。
「兄貴は覚えてる? 私達が初めてこの祭に来た時の事……」
「………」
いつになく神妙な様子で語り始める千夏。俺はその問い掛けに沈黙で返す。
言えない。言えやしないよ。珍しくしおらしい妹の問い掛けに、「全く覚えてない」なんて!!
……まぁ、全く覚えてない訳ではない。ほんの少しではあるけれど曖昧だった記憶が蘇ってきた。
何時だったか忘れたけれど、確かに俺はここに来た。今と同じようにぼっちだった俺が、今とは違って独りでここにいたのだ。その際千夏がいたのかは覚えてはいないけれど。
「あの時の兄貴はいつも寂しそうだったよね」
「そうか? 俺的には全く寂しくなかったがな」
「私から見たらそうだったの。いっつも一人でいるし、他の人にも関わろうとしなかったし、挙げ句に私にまであんまし構ってこなかったじゃんさ!」
「別にいいだろ、昔の事なんか」
「……そうだけれども」
千夏はいかにも不満そうにムスッとした表情を浮かべた。この人はなにが不満なのだろうか? 一瞬の不満げな表情の意味を俺はわからなかったけれど……まぁいいか。
でも、確かにあの時の俺は寂しそうだった。というより暗かった。今にまして瞳は輝きを失っていたし、体の周りからは無気力オーラが放出されているようだとよく言われた。というか囁かれていた。直接言われたことはないからな。
俺曰く、あの時期が俺史上で最も根暗だった期間であった。例えるなら日が落ち始めた裏路地に雰囲気くらいは暗かった。今では懐かしき笑い話の一つである。いや、全然笑えねぇけどね。
そうやって夜空を彩る花火を見つつ他愛のない兄妹の会話を交わす。あの頃の俺には到底できるはずのなかった行為である。今思うとあの頃の俺酷かったなぁ、としみじみ。
だがしかし、あの頃の全てが無駄だと、必要なかったと、取り消したいと思ったことは一度もない。今の“伏見悠榎”という人格は、俺が今まで生きてきた時間や経験から形成されている。この一五、六年で経験した成功や失敗、挑戦や妥協、それら全てを引っ括めて俺なのだ。“たら”“れば”の話は必要ない。
俺は、こんな自分を結構好んでいる。妹曰く意外と整った顔立ちとか、そこそこ勉学の出来る知識だとか、他人になかなか素直になれない捻くれた性格とか、俺を構成するもの全てが堪らなく好きなのだ。あとちょっと目が輝いていたらなとは思ったりするけれども……。
俺は再び昇る花火に視線を移し、そしてチラッと逢坂達の方を一瞥する。
こいつらはきっと、今の“俺”だからこそ知り合った他人なのだ。俺がもうちょっとリア充してたら逢坂は話し掛けてこないだろうし、来栖もここまで過度に絡んでは来ないだろう。神城は……知らね。
ここであったのも何かの縁なのかもしれないが、その縁もきっと卒業と同時に消えてなくなってしまうだろう。無くしてから分かることがあるというけれど、こいつらとのこの関係は俺にとって一体どんなものなのだろうか。それはとても興味深そうな“研究対象”だ。
女性は苦手なままだけど。恋愛はしない主義だけれど。俺はこいつらと、捻くれ者なりの接し方で付き合っていくとしよう。
そう思いつつ見上げた空には、逆さまのハート型の花火がうち上がっていた。




