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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、既に捻くれていた
12/33

“伏見悠榎”は再び部活動に入部する。その時の「俺、何やってんだ……」感はハンパない。

 俺は、一人でいる時間が好きだ。

 誰からも相手にされず、束縛もされず、自分の時間に浸れるのは良い。俺はイヤホンを耳に嵌め、音楽を聴きながら小説を読む。何という至福の時間なのだろう。


「……ねぇ、伏見君」

「………」


 周りを気にせず自分の世界に入り浸れるのは素晴らしい。これだからぼっちはやめられない。いや、なりたくてぼっちになった訳違うけどな。


「……聞いてるのかしら?」

「………」

「おーい、逢坂さんが尋ねてるよー」


 ……先程から周りがちょこちょことうぜぇ。

 何言うてるかわからん分、異常にうざったいです。例えるなら、汗をかいた時に周りに寄って来る小蝿とか蚊レベルのウザさ。ふと叩いてやろうかと思っちゃったよ。

 致し方なく俺はイヤホンを外し、


「……何?」


 と素っ気なく尋ねてみる。


「放課後、例の部室に行くのだけれど……どう?」

「何が“どう?”だよ。俺に何を求める気だ」

「一緒に行かない? って事よ。少しは気になるのでしょ?」


 ぐっ……あながち間違いではないから否定できん。少しばかりかかなり気になる。むしろあの説明だけで気にならない奴がいたら会ってみたい。そんで握手とかしてしまうレベル。


「……ね、ねぇ」


 ふと神城が声を掛けて来る。あまりに静かだったので忘れていたよ。


「何?」

「わ、私も、ついていっても、い、いい?」

「……良いんじゃない?」


 それは俺にではなく逢坂に尋ねてもらいたい。逢坂はどのような回答を述べるのだろうかと振り向くと、


「………」


 おぉ……、よくわからんが少しばかり不機嫌だ。いつも無表情で分かりづらいが、今回はいつもよりジト目で神城を睨んでいた。何? お前はこいつの事嫌いなん?

 でもまぁ、逢坂の気持ちもわからなくもない。目の前にいる神城は所謂リア充(笑)組で、今時のイケイケビッチ風女子生徒だ。寡黙で人見知り気味な逢坂とは真逆の立ち位置にいる人物である。ぶっちゃけ言えば、絡みたくないレベル。俺も里中が同じ様なことをしてきたら、逢坂と同じ行動を取る自信がある。もはや「爆発しろ」と呟いてしまう位。リア充とぼっちは互いに相容れない存在である。例えるなら水と油。

 しかし、そんな逢坂の表情を見ながら、「え、だ、駄目?」と呟く神城は今にも泣きそうだ。何だか可哀相なので、俺は致し方なく助け舟を出す。


「別にいいだろ? 他の奴らがついて来る訳と違うし。こいつは見た目こんなんだけど、中身は阿呆だから」

「アホとは何だぁっ!?」

「五月蝿い」


 せっかく助け舟を出してやろうとしてるのに怒るとはどゆこと? 全く、これだから阿呆は。空気読め空気。深呼吸だ。


「……そうね。人は見掛けに寄らないと言うし、むしろ観察対象が増えるとますます面白そうだし」

「さ、さいですか」


 どうやら先程の説明が役に立ったらしい。逢坂はフフフと微笑み、神城の同行を了承したっぽい。

 そんなこんなで俺、逢坂、神城は、謎の部活動である“隣人研究部”を訪問することになった。……で、部室はどこぞね?






「……ここよ」


 逢坂に案内されて来た場所はなんと“化学準備室”。

 ……ふむ、何とも物騒な雰囲気。もしかして、マジで改造とかされたりするのか? この隣人研究部って名前を聞いたときに、全く以て俺の偏見でしかないが、何やら怪しい研究をしているか、友達作りという名の残念系ハーレム軍団しか思いつかなかったぞ。

 俺が何やら間違った解釈をしているのをよそに、逢坂と神城はすんなりと扉を開け、教室内に入る。

 恐る恐る中を見渡す。準備室とあってか、化学の授業に必要な用具一式がちらほら見受けられるが、だいたいがケースや棚の中にしまってあり、人が数人入るには苦労しない程度のスペースがあった。もうちょいごちゃごちゃしてると思ったんだが……。

 その中央にドシンと足を組み座っている女子生徒がいた。……何か白衣着てるし。何それ助手? ……ってか誰?


「……よく来たな」


 何やらすっごい上からのお出迎えである。


「……誰?」

「……どなたかしら?」


 俺と逢坂は声を揃えて尋ねた。


「フフ、冗談がすぎるんじゃないかな、皐月」


 白衣の彼女は不敵に微笑みながら、逢坂の名を呼ぶ。


「何? あれ……知り合い?」

「……さぁ?」


 無表情だけど何となくわかる。逢坂の奴マジでアレの事知らないぞ。いやだって、キョトンとしてるし、頭の当たりから“?”がめっちゃ出てるし、「誰? 知らない」って目が語ってるし。

 多分神城も知らないだろうけど、駄目元で尋ねようとしてみると、


「マジやばい!!」


 ……何がマジやばいのかは置いといて、どうやら神城はあの方をご存知の様子。


「……なぁ、アレ誰?」

「はぁ? あの人を知らんとか有り得ないし!」


 はいはい、有り得ない有り得ない。でも知らないんだから仕方がないよね。


「ばっかお前、クラスでの俺を知ってんだろ? 俺がどれだけ人見知りなのか知ってんだろ?」

「あ! あぁ……うん」


 どうやら神城も納得したようだ。端から見れば俺は可哀相なのかも知れないが、この際放っておいてほしい。


「彼女は“来栖麻衣くるすまい”。隣のクラスの子だよ」

「ふむ」


 どうでもいいけれど、とりあえず相槌をうつ。


「これは噂なんだけど、あの人……こっちなんだって」

「……こっちとは?」

「っ! バカ、言わせないでよ! ホモって意味じゃん!!」


 顔を真っ赤にしながら大声で叫ぶ神城。


「あらあら蘭子、大声で恥ずかしい事を……。でも、そんな君もかわいいわ」


 その後自分の失態に再び顔を赤くする。

 ……神城よ。残念なことに、ホモは男性同士の同性愛の事であり、間違いである。この場合は確かレズ、又は百合というらしい。マジかー、ゆるゆり系かぁー。

 あー、でも、その説明で何となく分かった。多分来栖のやつ、全校生徒(ただし女子生徒に限る)を把握してやがるな。

 その証拠に、


「……あら、君は知らないね」


 ほら、俺のこと知らない。え? 多分俺のことだけ知らないって? ハハハ、冗談がきついって……マジで。


「自己紹介がまだだったね。私は“来栖麻衣”。一年E組の生徒だ。よろしく」

 名前は先程神城から聞いたので知ってる。別によろしくと言っても、相手は百合属性らしいのであまり接点もなさそうだし、


「……伏見悠榎ふしみはるか


 とりあえず名前だけ紹介しておこう。

 すると不意に来栖がこちらに寄って来る。


「……さっき蘭子が言ってたのは間違いだわ」

「……さいですか」


 じわじわとこちらに寄って来るので、俺もじわじわ後ずさる。


「私は、来るもの拒まずを信条としているんだよ」

「そ、それが何か」


 後ろに下がっていくと、ふと壁にぶつかる。うわやばい、逃げ場がない。

 それでも来栖はじりじり寄って来る。そして、俺の下までたどり着いたかと思えば、ぐいっと顔を近付けて、


「私は、男でも女でも、イケるんだよ」


 と呟いた。

 怖い。来栖さんマジ怖いッス。あと近い近い近い!

 どうやら来栖麻衣は、一般男子曰く、「小悪魔系」な女性だった。

 ……けれども、


「や、俺は、男好きじゃないし、むしろ女も好きじゃない。もはやどちらも無理なんだけど……」


 俺は全力で来栖を突き放す。いや、マジ勘弁してください。

 俺の中の出川さんが「ヤバイヨヤバイヨー」と警告をお出しになっている。恥ずかしながら軽く涙目である。

 端で見ていた神城はむぅっ、と何やらお怒りの様子。おい、怒ってないで助けろよ。

 対する逢坂は、何やら必死にメモを取っていた。おい、貴様、メモより俺を助けろよ。


「……フフフ、君は面白いな」

「……それ、逢坂にも言われたんで」


 俺の何処が面白いのか是非教えて頂きたい。何? 目か? 目なのか? 腐ってるとか言いたいんだろ?


「よろしい、伏見君。合格よ」

「何に合格したのかイマイチ分からんのだが……」


 むしろいつ、何を、どう合格したのかも分からんレベル。何このクイズ超難問。せめてヒントを下さい。


「入部テストだ。この隣人研究部には、昔から女性が多いという噂で有名な部活動だ」

「……だから?」

「則ち、この部に来る男性は大抵、女狙いと言っても過言じゃないの。だからこその入部テストよ」


 まぁ、来栖の言ってる事も一理ある。女子が多く所属する部活動に入部する男子の大半は大抵、彼女達に何やらよこしまな妄想を抱いて入部する。例えば、「この部活、女しかいねぇよ。グヘ、ぐへへへ」とか、「俺、この部活動でもしかしたら、めっちゃモテるかも……」といった感じの勘違いを起こす。


「……それで、さっき異様に迫ってきたと」

「そうよ」

「……で、俺が女に興味のない的な発言をしたから合格と」

「えぇ。それに、その時の貴方の顔、ものすごく嫌悪感を出していたもの」

「……さいですか」


 深く溜息をつく。


「……あと、バイセクシャルって発言の真偽はいかに?」

「あぁ、勿論嘘だよ。女の子は好きだけど、恋愛対象としての好きではないからね」


 ……何この弄ばれた感。腹立つ。


「じゃあ何でこの阿呆に百合扱いされてんだよ」


 俺は神城を指差し尋ねた。あと何故こいつらの名前知ってんのかも尋ねたい。


「誰がアホだ!!」


 神城はプンスカお怒りではあるが、この際無視しよう。来栖は顎に指を当てて考える仕種をする。


「ふむ、もしかしたら私が異様なまでに 男性との接触をさけているからかしら……」

「もしかしなくても多分それです。どうせ女子に対してだけ優しく接してんだろ?」

「な、何故分かった!?」


 いやいや、何となしの推測でも分かるぞ? 逢坂も多分気付いているだろうし。むしろ分かってないのは隣の神城アホぐらいだ。


「っつーかお前、来るもの拒んでるし、選りすぐってんじゃん。もはや信条無視じゃねぇか」

「ぐっ……、ふ、フフフ」


 うわっ!? どうやら来栖さんが壊れたようだ。何やら不吉な笑いを浮かべている。


「やはり、君は面白いわ。少し興味がわいてきた」


 ……何か逢坂の言いそうな台詞だなと思ったんだが、もしかして逢坂と来栖ってキャラ被ってんじゃね?


「君達を我が隣人研究部に歓迎するわ」

「いや、俺は入部するとは一言も……」

「異論は認めない。強制入部よ」


 えぇ~、何その俺様ジャイアンルール。マジ勘弁。

 だがしかし、


「……別に、私は始めから入部するつもりだったのだけれど」

「何か面白そうだし、私も入部する方向で!」


 逢坂と神城はこの意見に賛成のようで、来栖から手渡された入部届に名前を記しはじめる。逢坂は二人分の用紙に記入をしているらしく、チラッと見てみると、片方には『逢坂皐月』と書かれている。もう片方には何やら見覚えのある名前が記されていたと思っていたら俺の名前だった。

 ……ちょっと待て、逢坂。


「おい、勝手に俺の名前を書くな。まず俺の了承を得ろよ」


 俺の意見に聞く耳持たず、逢坂達は合計三枚の入部届を来栖に渡した。話を聞いて下さい。


「うん、よろしい。これで三人は我が隣人研究部の部員よ」

「………」


 こうして俺は、俺達は、この隣人研究部の部員になった。まぁ、俺の場合は「させられた」もしくは「なってしまった」という言葉が相応しいと思うが。

 今日の所は入部届を提出するだけで解散することになった。

 ……で、詳しい部活内容は? 結局、何をする部活なわけ?

 目的である「部活内容の確認」も達成せず、ちょっとの確認が入部させられるという状況になってしまい、正直、何しにここへ来たんだろう、と化学準備室を後にしてから軽く後悔してしまう俺なのであった。

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