第40話 「青嵐」その二
避けられないと悟ったフィルは、すぐさま反撃に出た。
「火の霊・三重陽炎!」
三つには、三つで対抗する。
二つの火球が二つの旋風を捉え、たちまち互いを打ち消した。
残る一つは青嵐に命中したが、激しい風にかき消された。
それでも盾の勢いは大きく削がれ、少女は難なく身をかわした。
「アキラ! 今度は僕の番――火の霊・煉獄紅蓮斬!」
燃え盛る巨大な三日月が、縦と横に重なって十字を形づくり、少年へ飛んだ。
アキラは再び青嵐で受けた。だが、今度は少女の狙いを読み違えた。
二つの三日月が、青嵐の表面で弾けた。残った炎は消えるどころか、飢えた虫のように盾の表面へまとわりつき、燃え続けた。
鋼鉄の盾は炉のように熱を帯び、アキラは指が焼けそうになるのを感じた。
歯を食いしばった。何かを思いついたらしく、最後の勝負に出た。
燃える青嵐が高速回転し、灼熱の炎の嵐を巻き起こした。
アキラは容赦なく、少女へ盾を投げつけた。
威力は十分だった。だが、狙いの精度はあまりにも悪かった。
フィルは難なくかわし、青嵐は地面に落ちた。
それを見たアキラは、何も言わず、小さく首を振った。
相手が武器を失った今が好機だった。フィルは突撃する前に、まず判断を乱そうとした。
フードをかぶる。霧の紗に守られ、その姿が突然消えた。
観客が驚きの声を上げる中、イノリは事情を心得た顔でうなずいた。
動けば姿が見えるようになる。それをイノリは知っていた。アキラが知らないことも、わかっていた。
「さて、どうするかな、アキラ」
ひそかに手に汗を握った。
標的を見失い、アキラの顔に一瞬、驚きがよぎった。
次いで、イノリは目を見張った。普段は滅多に笑わないアキラの口元に、かすかな笑みが浮かんでいた。
少年は堂々と立ち、周囲では嵐が吼えていた。
「はっ!」
雷鳴のような気合とともに、強大な魔力の紋様が宙へ浮かび上がった。
その場の誰もが歓声を上げた。大仏のようにそびえる少年の背後に、巨大な光輪が忽然と現れたのだ。
「――不動明王・無言円光!!!」
比類なき結界魔法。天雲明の奥義。
刹那、天から照らされたかのように、世界が輝いた。
怒れる仏陀に見据えられたように、フィルの姿は、澄みきった光の下であらわになった。
「やるね、アキラ! 僕の隠れ身を見破ったのは、君が二人目だよ!!!」
フィルは悔しさをにじませ、突撃した。
「くらえ!」
刀身に真っ赤な炎が燃え上がった。少女は刀を高く掲げて走った。
「風と土・霊の式・黄砂金剛界!」
アキラが地面を踏むと、砂塵が強風に巻き上げられた。
たちまち戦場全体が、砂嵐のように黄色くかすんだ。
アキラの姿も、その中へ消えた。
好機を逃したと悟り、フィルは悔しげにため息をついた。
次の瞬間、アキラが再び地面を踏んだ。
黄砂が落ち、風がやみ、少年の姿が現れた。変わらず、堂々と立っていた。
両手を合わせ、敬虔に頭を下げる。少女の戦いぶりに、敬意を表していた。
ぱち、ぱち――
顔を上げ、拍手を送った。
それを見て、フィルも力を抜いた。
刀を鞘に収め、うれしそうにアキラを見た。
「やるね、アキラ。やっぱり、君を倒すのはひと苦労だ」
「フィルも強い」
「褒めてくれてありがとう」
フィルは何かを思いついたらしく、いたずらっぽく目をぱちりとさせた。
「ねえ、アキラ。滄溟を出して、僕と戦わせてみない?」
「今か」
「うん。頼むよ!」
アキラは小さく笑い、うなずいた。
「お望みどおりに」
目を閉じ、そして開いた。
悪鬼に取りつかれたように、少年の顔が一瞬で歪んだ。
その変化は、今この体を動かしているのが別の者だと、フィルに告げていた。
「あはははは!!!」
観客が驚きに包まれる中、傲慢な笑い声が響き渡った。
「俺様の番か? 来い、フィル!!! 今日こそ、てめえと決着をつけてやる!!!」




