↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/43

第24話 「縁起」その一

3489年 木乙月 第一土戊日


 早春の日差しは、まださほど温かくなく、どこか肌寒かった。

 花びらの影が、金色の日差しを大小の光の斑へと切り分けていた。


 イノリは桜の幹に背を預け、柔らかな草の上に身を横たえていた。

 血のように赤い花びらが、頭にそっと舞い落ちた。


 風の魔法を覚えれば、もっと上手に滑空できる。アキラの得意な魔法を先に知っておけば、武闘大会でも勝ちやすくなる。


 フィルは、そう言っていた。


 まさに一石二鳥だ。うまく考えたな、フィル。

 イノリはそう思った。


 庭の開けた場所へ目を向けた。


 アキラが強く地面を踏んだ。

 激しい風が唸りを上げ、次第に広がる旋風となって、空へ吹き上がった。


 風が届いた瞬間、フィルは軽く跳んだ。

 すばしこい鳥のように、風の揚力を借りて、一気に宙へ舞い上がった。


 上昇する速さが少しずつ落ち、地上三メートルほどのところで、浮いたまま留まろうとした。

 フィルは懸命に体の釣り合いを取り、風に押し上げられながら、本当に立った姿勢を保ってみせた。


 十秒後、アキラはうなずき、親指を立てた。

 そっと足を上げると、激しい風は次第に収まっていった。


 霧の紗という黒いマントが、大きな落下傘のように広がった。


 フィルはゆっくりと降り始めた。


 空気に漂う魔力の気配を懸命に探り、散っていく風に残った魔力を、力いっぱい自分の周りへ呼び戻した。霧の紗の下へ集めていく。


 マントの下に集まった魔力が、弱い気流の輪となって、少女をそっと支えた。


 フィルは羽根のように、ゆっくりと降りてきた。


 もう少しで成功する。その瞬間、魔力が尽き、足元の風が急速に散った。


「あっ!」


 たちまち体勢が崩れ、両足が勝手に浮き上がった。


 宙で半回転し、雲の中に寝そべるような姿になった。

 体が水平に傾くにつれ、霧の紗が一瞬で体に張りついた。

 マントの守りも魔法の助けも失い、フィルは流星のように落ちた。


 アキラが強く地面を踏んだ。真っ赤な花びらが舞い上がった。

 再び激しい風が起こり、少女の下で一気に吹き上がった。


 風の揚力を借りて、フィルは慌てて身をひねり、まっすぐ立つ姿勢に戻った。

 霧の紗が再び広がり、落下の勢いを一瞬で弱めた。


 次の瞬間、無事に地面へ降り立った。


「悪くない」

「ああ、やっぱり難しいな――」

「魔力の回収を意識して。もっとよくなる」

「うん」

「少し休もう」

「はい、アキラ先生!」


 そのとき、ユナが書庫のバルコニーから、庭の一同へ手を振った。


「ねえ、アキラくん! そろそろ私の番でしょう――」


 フィルとアキラは拳を軽く合わせ、顔を見合わせて笑った。


 フィルはその場で伸びをし、首をほぐした。


 そして、桜の木の下へ歩いてきた。


「ひぃ――」


 イノリの右隣に座っていた滄溟が、苦しげな悲鳴を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。