第16話 『弐の残影・野良星』その一
3486年 星癸月 第四火丁日
厳冬の午後だった。
イノリは屋敷の最上階へ上がり、屋根裏へ続く鉄の螺旋階段をたどった。背の低い、華やかな木の扉を開ける。
古びた湿った木の匂いが、顔に押し寄せた。
イノリは深く息を吸った。
屋根裏には、誰もいないだろうと思っていた。
狭い部屋に、突然、星明かりのようなまばゆい光が弾けた。
その向こうに、小さな人影が二つ浮かび上がった。
「誰か入ってきたのかな、妹よ」
「誰か入ってきたね、兄さん」
桃色の短い髪をした男の子。
桃色の長い髪をした女の子。
「ごめんなさい。僕……」
勝手に入って双子の邪魔をしてしまったと気づき、イノリは慌てて頭を下げた。
蘭空家を訪れるのは初めてだった。見知らぬ人たちに、悪い第一印象を与えたくなかった。
「知らない人かな?」
「知らない人だね」
男の子はイノリの言葉を無視して、女の子を見た。
女の子はイノリの言葉を無視して、男の子を見た。
「すみません。僕はイノリ……」
「星? 星なのかな?」
「星。星かもしれない」
男の子は女の子を見たまま、左手を上げてイノリを指した。
女の子は男の子を見たまま、右手を上げてイノリを指した。
「見て、兄さん。新世界はすべてを予告していたんだね。星だよ」
「そうだね、妹よ。新世界に咲いた光は、やっぱり星だったんだね」
女の子は顔を伏せ、光を放つ水晶玉をうれしそうに見つめた。
男の子は顔を伏せ、光を放つ水晶玉を驚いたように見つめた。
「えっと、あの……」
どうすれば双子の会話に入れるのか、イノリにはさっぱりわからなかった。いたたまれず、声も小さくなった。
「地獄の魂霊は冥泉の花びらにルーンを刻み、七と四分の三度回す。人形は血肉を交換し、地平線から黒い太陽を奪う。偽りの雛鳥の嘘が山々を追放し、宇宙に反射する死光が血涙の瞳を悼む。そうだね、妹よ?」
「別世界から来た古い暗号は、蒼白の伝説を断頭台に捧げる。無垢な雲の胸の内で、輝く種が罪の花を咲かせる。高い壁が凝り固まり、殉教者の卑劣さを嘆く。四方を指す羅針盤を反転させれば、不死の帝王は律法の庭に葬られる。そうだよ、兄さん」
男の子は失望したようにため息をついた。
女の子は悲しげに唇を尖らせた。
「こんにちは、星。蘭空悠希。霊媒師」
「こんにちは、星。蘭空悠寧。占い師」
男の子は立ち上がり、イノリに軽くうなずいた。
女の子は立ち上がり、イノリに小さくお辞儀をした。
「こんにちは、僕はイノリ……えっと、あの……」
ようやくこちらを見てもらえたので、イノリは急いで答えた。
だが次の瞬間には、また無視されていることに気づき、落胆して口を閉じた。
「ねえ、妹よ?」
「うん、兄さん」
「星は、侵入者なのかな?」
「星は、侵入者だね」
「侵入者は、ここにいてはいけないよね? 天穹から星を摘み落とすべきかな、妹よ?」
「侵入者は、ここにいてはいけない。そのとおり。静かな湖に星を投げ込もう、兄さん」
突然、何かの合意に達した二人は、顔を見合わせ、息を合わせてうなずいた。
次の瞬間、二対の目がそろってイノリを見据えた。
男の子の怒りに満ちた目には、残忍な殺意が潜んでいた。
女の子の冷たい目には、強い敵意が渦巻いていた。
双子の気持ちは、顔にはっきりと表れていた。歓迎されていないと悟り、イノリは緊張しながら唾をのんだ。
それ以上は何も言わず、一礼して背を向けた。
双子に背中を向けた途端、涙がこぼれた。
声だけは出さないよう、必死にこらえた。




