第15話 「萌芽」その三
そのまま地面に倒れ、安らかな眠りに落ちるはずだった。
ところが、疲れ果てた弱い体の中に、別の力が湧き上がってきた。
真っ暗な視界に、突如、まばゆい光が弾けた。
光に刺されるように目がむずがゆくなり、イノリは反射的に目を開けた。
刹那、果てしない星空が見えた。
はかない幻でも、妄想の夢でもないようだった。
無数の色と、無数の星を抱く星空を、確かに見ていた。
ふと、いくつかの名前を思い出した。もういない人たちの名前だった。
見慣れた姿が、砕けた記憶とともに、その壮大な星空の中で形を結んでいた。
体が激しく熱を帯びた。イノリは唇を強く噛み締めた。
一筋の血が、口の端からゆっくりと流れ落ちた。
「あああああ!!!」
体の力が極限まで凝縮したとき、イノリは大きく吼えた。
右手が、細雪の柄を固く握り締めていた。
親指の爪が、鋭い刃のように薬指の皮膚へ食い込んだ。
湿った肉を容赦なく突き破り、温かな血が流れ出した。
冷たい白剣が急速に熱を帯び、灼熱の恒星のようになった。
驚いたことに、それは剣の意志ではなかった。自分自身の意志だった。
刹那、星河が爆ぜた。
イノリには、無数の星を包み込んだ果てしない銀河が、空から降り注ぐのが見えた。
星々は細雪の刃に集い、まばゆく輝く光の柱に変わった。
イノリはほとんどためらうことなく、剣をまっすぐ振り下ろした。
「イノリくん、君――」
一瞬、少女の悲鳴が聞こえた気がした。
けれど、そのかすかな声は、炸裂する星河にとうにのみ込まれていた。
壮烈で鮮やかな光が、フィルを一瞬で包み込んだ。イノリはそれを目の当たりにした。
凄まじい衝撃を受け、フィルはたちまち意識を失った。
光が消えると、フィルは棒のように倒れた。
顔は焼けただれ、目も鼻も口も、どこにあるのかわからなくなっていた。
「フィル! だめだ――」
イノリは絶望して叫んだ。
右脚を懸命に持ち上げ、一歩踏み出そうとした。
星河が静まるにつれ、体からますます力が抜けていった。
燃え尽きた恒星のように、今はただ、果てしない冷たさだけが残っていた。
右手がひとりでに開いた。
細雪の刃は黒く焼け焦げていた。地面に落ちると、芝生の上に黒い燃えかすが舞い上がった。
「くそ……僕は、いったい何を……」
意識が再びかすむ。
心臓が静寂に沈む。
血が冷たくなっていく。
意識を失う直前、イノリは自分の右手を見た。肉が裂け、焼け焦げたようになっていた。
喉から、かすかな苦笑が漏れた。
次の瞬間。
体が地面に崩れ落ちた。
果てしない闇へ、堕ちていった。




