第12話 「追放」その四
美しい夕日の下、イノリとフィルは並んで歩いていた。
知り合ってまだ一日なのに、長年の友人のようだった。
「そういえば、フィル。お前がどこの学院に入ったのか、まだ聞いてなかったね」
「月影原。魔法科の普通系だよ」
「そんなにすごい?」
「もちろん。イノリくんは?」
「僕は……ずっと未明森。物理科の戦闘系」
「へえ。それもいいね。未明森って、学生がみんな戦闘系だって聞いたことあるよ」
「そうだな……」
「ほかの学院は? 教えてよ」
興味津々の新入生に、イノリはうなずき、ゆっくりと話し始めた。
薄桜城王立魔法学園には、中心にある先覚塔のほかに、四つの学院がある。
夜夢山。
物理科の機工系、天体系、自然系、錬金系、資源系、地質系の学生たちが集う場所。
巨大な丘そのものが何よりの教師であり、物理科の学生たちがさまざまな研究に取り組むうえで、多くの利点をもたらしている。
月影原。
魔法科の占星系、癒術系、呪術系、普通系、召喚系、付呪系の学生たちの学び舎で、広く静かな原野で知られている。
星と月は魔力を育む天然の温床だ。広大な原野は、学生たちがさまざまな魔法を研究するための、十分な安全空間を確保している。
時見空。
人文科の文学系、芸術系、法律系、政治系、経済系、歴史系の学生たちの領地。王都・天時郡を模した建物が数多く立ち並び、人文科学の最先端を追い求める姿勢を示している。
未明森。
物理科の戦闘系の学生たちの領分だ。恵まれた自然林の環境で知られている。もともと戦闘系は学生の数が多い。加えて、その授業は重要な共通科目でもあり、ほぼすべての学生が多少なりとも履修する。そのため、未明森全体が戦闘系に割り当てられている。
一つの高塔と、四つの学院。
それが人類王国の魔法の都・薄桜城で、数え切れない少年少女たちを育む場所だった。
「ところで、普通系に入ったのは、火の魔法が得意だからだろ」
「たぶんね」
「ほかにも何か使える? 別の系は考えなかった?」
「そこまでの腕はないよ」
魔力は元素による修飾を受けて初めて、魔法として放つことができる。イノリもそれは知っていた。
一般的な元素は、風、木、水、火、土、氷、雷。
そして、三つの希少元素、光、影、星。
ほかにも「空」という元素があるらしいが、それは伝説の神々に関わる話だった。
「火の元素か。いいなあ……フィルなら、きっと立派な魔剣士になれるんだろうね」
ヒカリ、ユナ、アキラ、滄溟、それにフィル。
仲間はみんな優秀なのに、自分はどうしようもなく弱い貴族でしかない。そう思うと、つい感嘆が漏れた。
ふと、別の考えが浮かび、どんどん気になり始めた。
そうだ。フィルも優秀なら、実際にはどれくらい強いのだろう?
「そうだ、フィル。お前の学院の武闘大会って知ってる?」
「武闘大会?」
「月影原で一番有名な催しだよ。ほかの学生と腕試ししてみたくない?」
「やだ。物騒なのは好きじゃないんだ」
「ユナとか、まだ会ってない仲間にも会えるかもしれないよ?」
「やだ。友達とは戦いたくない」
「優勝したら、素敵な記念品も、賞金もたくさんもらえるんだよ!」
「やだ。お金には困ってないし、記念品も欲しくない」
どうしても説得できず、イノリは諦めた。
「わかったよ。嫌なら仕方ないね。結構面白いんだけどな。出場したら、ほかの学園の強い人とも戦えるんだ。あっ、南森家の人にも会えるかもしれないよ?」
「南森?」
その名を聞いた少女が、目を見開いた。
「うん。えっと、天時郡の皇家学園から来る……南森綾、だったかな? すごく強いんだ」
「本当? アヤ?! アヤって言った?」
ほの暗い紫色の瞳に映る世界が、一瞬にして、どこまでも澄んだ光を放った。
「え、うん。ああ、南森家から来たんだったね。すっかり忘れてた。そりゃ、知ってるよね。あの人は……」
「出る!」
一瞬で、勇気も、決意も、熱意も満ちあふれた。少女は右手を高々と上げた。
「あの」
「だから、僕も出る!」
「物騒なのに?」
「うん!」
「新しくできた友達と戦うことになっても?」
「うん!」
「興味のない記念品や賞金をもらうことになっても?」
「うん!」
フィルという名の少女。
燃え上がる、どこまでも温かな、漆黒にして輝く影。
「わかったよ」
「じゃあ、明日から練習しよう? 君と僕で。思いっきり戦ってみようよ」
「いいよ――」
えっ……待って。
口は災いの元。
「僕が???」




