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PROJECT♾️HEART-X─AIでも人間でもない…その涙に宿る心と絆─  作者: 陽月勝也
【第一章: (表)☀️リア・ライラ─ 太陽に踊る波音】 ─太陽と月が交わる時─リア編
8/13

☀️《第7話 秘密の序章(太陽と月が交わる時間)》


──海辺。


午前の海は、初夏に近づき陽射しはどんどん強くなっていく。

潮風が頬を撫で、陽光を反射する波の上で、彼女は波と戯れていた。

歌とダンスと同じくらい大好きなサーフィン。

リアはサーフボードに身を預け、波に揺られながらひとしきり遊んだあと、砂浜に寝転んで空を仰いだ。

潮風が髪をくすぐり、太陽の光がまぶたに差し込む。


「……ふぅ」


大きく息を吐き出すと、胸の奥の緊張がほんの少しほどけていく。

ステージとは違う汗と潮の匂い。

波に身を預ける時間は、唯一『観客』から解放される瞬間だった。


ステージでは太陽の女神と呼ばれる彼女も、この瞬間だけはただの一人の普通の女の子だ。

髪に潮風を受け、全身で波のリズムに乗ると、不思議と心のざわめきが消えていく。

昨日の恐怖や、黒い車の冷たい影も、今だけは遠い彼方に追いやられるようだった。


「はぁー……やっぱり海はいいなぁ」


独り言を呟きながら、胸の奥のざわめきを押し流すように空を見上げる。

海は、彼女にとって舞台と同じ。

自分だけの自由なリズムがある。


昨日の恐怖はまだ尾を引いていたけれど、ルミナの姿もまた、心の奥で鮮明に輝いていた。

冷たい瞳の奥に隠れていた確かな優しさ。

思い出すたびに胸がざわつき、なぜだか鼓動が速くなる。

リアはサーフボードを抱え、濡れた髪をタオルでざっと拭きながら砂浜を歩く。

空を見上げると太陽は高く、眩しいほどに照りつけていたが、胸の奥は静かに高鳴っていた。


家に戻り、シャワーを浴びて服を整える。

鏡の前で軽く髪を整えながら、自分に言い聞かせる。


「……今日は、ルミナに会えるんだ」


自分を救ってくれたあの青い髪の少女。

ツンとした態度の裏に見え隠れした優しさ。

思い出すたび、胸が熱を帯びる。

胸の奥がじんわりと熱くなるのを隠し切れなかった。



──そして夕方前。


身支度を整えたリアは、軽くメイクを直して街へと向かった。

街路樹の影が長く伸び始めるころ、待ち合わせのカフェが見えてくる。

大きな窓からオレンジ色の夕日が差し込み、柔らかな照明が木目のテーブルを照らしている。

ドアを開けた瞬間、甘いコーヒーの香りが鼻をくすぐった。

見渡すと奥の席で、ルミナが座っていた。

昨日とは違ってラフな格好をしていた。

そしてルミナはカフェラテのカップを片手に持ち、テーブル越しにリアを見てふっと微笑む。

今日のルミナは、白の薄手のニットに黒のデニムのスカート、そして厚底のスニーカーで、ぱっと見は普通のオシャレな女の子だ。

けれど片流しの青い髪が光を受け、存在感は変わらない。


「……あ、こっちこっち!やっと来たか」


ツンとした調子。

だけどその視線はどこか優しい。

顔を見上げたルミナは昨夜の鋭さは影を潜め、今日は柔らかい雰囲気をしていた。


「……もしかしてけっこう待たせちゃった?」


「1時間くらいかな」


「えー、そんなに?…ごめんっ!ちょっと準備に時間かかっちゃって……」


思わず早口になったリアに、ルミナは肩をすくめた。


「ふふっ、冗談よ。……私もたったさっき来たとこ。ほら、つったってないで、そこ座りなさい」


声はツンとしているけれど、顔ははどこか柔らかく優しかった。


二人でメニューを眺めながら、まるで普通の友達のように笑い合う。


「パンケーキにしよっかなぁ。あ、でもアイスも食べたい……」


「両方、頼めばいいんじゃない?どうせ練習で消費するんでしょ」


挿絵(By みてみん)


「え、いいの?じゃあ半分こしよ!」


リアがにこっと笑うと、ルミナの口元もわずかに緩んだ。

その時、二人が向かい合うテーブルの上の店内大型モニターにニュース映像が流れた。


『大財閥ヴェスパーグループ、事業拡大を発表!

ご令嬢エリサ氏が国際フォーラムにて演説で登壇』


ステージに立つ気品に満ちたルビー色に包まれた美しい女性の姿が映し出され、政財界の有力者たちや著名人などと一緒に記者たちのフラッシュが瞬く。

深紅のドレスをまとった彼女は、堂々とした佇まいで微笑んでいる。


「わぁ……すっごい綺麗な人…こんな雲の上の人ならきっと友達もたくさんいて、悩みとかなんてないんだろうなぁ」


挿絵(By みてみん)


リアが呟くと、ルミナは店内の大型モニターを見ていた。


「エリサも色々と大変よ。光が強いほど、背中に落ちる影は濃くなるのよね…」


ポツリと落ちたその言葉には何か意味深な感じがしたリアは目を瞬かせた。


「ルミナ、ヴェスパーのあの人、知ってるの?」


リアの問いにルミナはニコッと笑って見せた。

そして二人の会話は次第に和やかになっていった。

コーヒーを挟んで、普通の女の子のように笑い合う。

しばらくして、リアはカップを両手で包み込みながら小さく言った。


「……あたしね、ステージに立ってるときは太陽の女神だって言われてるの。でも、本当は……すごく孤独で、不安で……すぐ泣きそうになったりするんだ……それに怖がりだし…」


言葉がこぼれると同時に、胸の奥が軽くなっていく。

テーブルの下で、膝が小さく震えていた。

一瞬、沈黙が落ちた。

そしてルミナはカップを置き、リアをまっすぐに見つめる。


「……そういう弱い自分を認められるのは、強さだと思うよ。時に笑って隠すのも大事だけど隠しっぱなしはいつか耐えられなくて壊れる。

休むのも強さ。本当の自分をちゃんと分かってるリアは弱くなんかない」


ツンとした言い方の中に確かな温もりがあった。

リアの胸がじんわりと熱くなる。


「ルミナ……ありがとう」


その一言がリアの胸に沁みていく。

まるで夜の月のような澄んだ光を湛えていた。

気づけば目尻がじんと熱くなり、リアは小さく笑って顔を上げる

ルミナの瞳は柔らかく光っていて、まるで『大丈夫!』と言ってくれているように思えた。

ふと窓の外を見ると、黒のハイエースが一瞬停まっているのが見えた。

スモークの窓の奥に影。

ルミナは睨み、鋭く目を向けた。


「ルミナ?…どうしたの?」


その声にルミナは軽く笑って肩をすくめ、リアには気づかれないように表情を和らげた。


「ん?気にしないで。ただの通行人よ」


その声色に安心をもらいながらも、リアの背筋には小さなざわめきが残った。



そして二時間ほどして、そろそろ店を出ようという時。

リアが自分の財布を取り出そうとすると、それを見たルミナがふっと呆れたように息を漏らした。


「あんたはいいから財布しまいなさい」


「え? いいの……?」


「当たり前でしょ」


有無を言わせないルミナの口調に、リアはパタパタと慌てて財布をバッグへ戻した。

ルミナはそのままスマートに会計を済ませ、お金を支払う。


店を出た夜。


カフェを出るころには、空は群青に染まりかけていた。

街灯がポツポツと灯り、夜風が二人の髪を揺らす。

街のネオンが灯り、昼とは違う顔を見せ始めていた。


ふと、リアがルミナの横顔を見上げて口を開いた。


「ルミナ…ありがとう。ご馳走様でした」


「そんなの気にしなくていいのよ」


ルミナは歩調を緩めることなく、ぶっきらぼうに、だけどどこか心地よさそうにそう返した。



その時だった。

繁華街の一角の通りの先で怒鳴り声が上がる。

コンビニの灯りが滲む路地裏で、騒ぎが起きていた。


「ぶっ殺すぞババァ!どうしてくれんだこれよ」


5、6人のチンピラが買い物袋を抱えた老婆を壁際に追い詰めていた。お婆さんの手が震えて袋を落とし、リンゴがアスファルトを転がる。

お婆さんの手から財布を奪おうとしている。

通行人たちはまるで関わりたくないという感じで、そそくさとその場を去っていく。

リアは気づけば駆け寄っていた。


「やめてください!何があったかわからないけど、おばあちゃん、ビックリしてるじゃないですか」


胸は恐怖で張り裂けそうで声が震えていたが、必死の勇気だった。


「あ?なんだお前?関係ねー奴は引っ込んでろ。

それとも何か?姉ちゃんが代わりに払ってくれんのか」


不良の一人がニヤつきながらリアの腰に腕を回す。


「ちょっ……離してください!いやっ、触らないで…」


リアの声が震える。

必死に振りほどこうとするも腕は力強く締め付けてくる。


次の瞬間…。


「……その手、どけな!」


背後から低い声。

ガシッと、チンピラの肩が掴まれる。

振り返ると、夜風に揺れる青いグラデーションの髪。

鋭く冷たい瞳が闇を射抜いていた。


「ルミナ!」


リアの声と同時に、男は吹き飛んだ。


「ぐっ……!?」


チンピラの顔が苦痛に歪む。


「……リア、危ないから下がってて!」


リアを庇うようにしてルミナが一歩前に出た。


「あんたたち、こんな事して恥ずかしくないわけ?」


その言葉と同時に、腕を極め、肩口から地面へ叩き落とす。

乾いた音が路地裏に響いた。

そこからは一瞬だった。

拳が振り下ろされるより速く、ルミナの足が動く。

膝蹴りで一人を崩し、振り返りざまに肘で顎を撃ち抜く。


「がはっ!」


「おい、女!なかなかやるじゃねーか。

オレたちは全員、ボクシングやってるんだぜ! 怒らせると後悔するぞ」


「へぇー、じゃー手加減しなくていいって事かしら?

それとも一瞬で終わらせてあげよっか?」


もう一人が怒鳴り、拳を振り上げる。

だがルミナは一歩も退かない。

ルミナめがけて何発もパンチを繰り出すが、全て紙一重でかわされ、ルミナには一発も当たらない。

相手の攻撃が終わった後は見計らってルミナは体をひねり、足を軸にしてスピン。

ルミナが一瞬、男の視界からフッと消えた瞬間、下から強烈なアッパーカットが炸裂し1人の顎に炸裂した。

そして上空へと派手に吹き飛ばした。


「ッの、やろっ……小娘が調子乗ってんじゃねぇぞ!ぶっ潰せ!」


残りの仲間5人が奥の影から現れた。

バタフライナイフを手にした者までいる。

別のチンピラがナイフを振り回して襲いかかる。

ルミナは一歩横に滑り、足払いで倒すと同時にナイフを踏みつけた。


「次は誰!?面倒だから一斉にかかってきたら?」


4人が同時に飛びかかる。

ルミナは壁を蹴って宙に舞い、空中で身体を捻り、そのまま軌道を変えて飛び、ハンマーナックルを叩き込む。

そして着地と同時に上段、中断と交互に目にも止まらぬ連続のパンチを何発も打ち込んでいく。

ジャブ、右ストレート、左フック…更に右フックなど、ランダムなパンチのラッシュが4人の男達を打ち抜いていく。


ガッ!バコッ!ガッ!ガンっ!


鈍い衝撃音とともに、3人は地面に転がった。

そして4人目の男が咄嗟に顔面をガードするが、ルミナは一瞬にして体勢を変え、ボディブローが打ち込んだ。


ドゴッ!


鈍い音とともに4人目の男も地面に転がった。


「な、マジか…この女…!言っとくがオレはボクシングだけじゃねぇ、総合格闘技もやってるんだ。お前はパンチが得意のようだが、そんなんじゃオレは倒せねーぞ」


さらに新たな4人の男たちが出てきてルミナの前に立ちはだかった。


そしてルミナの目つきが鋭くなる。


「残念、ハズレ!ボクシングやってるって言うから私もパンチだけで合わせてあげようと思っただけ。私はパンチ技は苦手なの。私の得意技でいったら、あなたたち、5体満足の身体じゃなくなるわよ」


そしてルミナが一歩前に出た。


「ここからは本気でいくわよ」


ルミナの体はしなやかに、鋭く。

蹴り、投げ、掌底。

まるで舞のように美しい動きで目の前のチンピラたちを、いとも簡単に制圧していく。

最後の一人が声を裏返らせ、振り下ろした拳をルミナは片手で受け止めた。

キックの連続技、連打、投げ、関節技。

すべてが正確で美しく、残りのチンピラたちは次々とアスファルトに沈んでいった。

やがて路地には呻き声だけが残る。

ルミナは息切れ一つする事なくチンピラたちを一瞥した。

目の前には10人のチンピラたちが倒れていた。


挿絵(By みてみん)


「力だけで威張らないことね。見苦しいわよ!」


静まり返った路地に、お婆さんとルミナとリアだけが残る。


「おばあちゃん、お怪我はありませんか?」


ルミナがお婆さんに短く声をかける。

お婆ちゃんは何度も頭を下げながら涙ぐみ、ありがとうと何度も繰り返した。


リアも涙目でと呟いた。


「……ありがとう」


ルミナはため息をついて呆れた顔をした。


「リア、あんたねぇ、バカなの?危ないでしょ!」


震えているリアの肩を、自然に支えていた。


「だって……」


リアは唇を噛みしめる。

ルミナはしばらく黙っていたが、やがて小さく吐き出した。


「ほんと危なっかしい……」


言葉とは裏腹に、その横顔はどこか優しかった。


「……でも」


リアはまっすぐにルミナを見上げた。


「怖かったけど……おばあちゃん見てたらほっとけなくて……」


その言葉に、ルミナの瞳がわずかに揺れた。


「……ほんとにもぉ…」


口ではそう言いながら、髪を手で後ろに掻き上げ、リアの肩に手を置き、静かに背を押す。


おばあちゃんがそのやり取りを見て話しかけてきた。


「お嬢ちゃんたち、2人ともほんとにありがとね。仲良いわねぇ。姉妹?まるで月と太陽みたいだねぇ」


リアはそう言われて嬉しさと照れさが混ざり合った感覚になった。

ルミナは、顔を赤く染めて恥ずかしさを隠すように顔をそっぽむけていた。


おばあちゃんを見送り、2人は仲良さそうに歩いていた。

そして駅前が近づいてきた頃、

別れ際、リアは勇気を振り絞って言った。


「……アタシ、ルミナともっと仲良くなりたい…」


一瞬の沈黙。

ルミナは迷うように視線を逸らし、やがて小さく笑って答えた。


「……わかったわよ。ただし条件。危なっかしい真似はしない事。それ、約束!いい?」


「うん!」

リアは笑顔でうなづいた。


ルミナは素っ気なく言いながらも、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。


リアの顔がぱっと輝いた。

その笑顔に、ルミナの胸もわずかに熱を帯びる。

リアとルミナは2人並んでしばらく歩きながら話していた。


「今日は楽しかったぁ。ルミナーありがとう。連絡先も教えてもらったし、いつでもまた連絡とれるね」


「そうね。いつでも連絡とれるわね。今日はこれからクラブ行くんでしょ?後で私も行くから頑張っておいで!また後でね」



「頑張ってくるねー。ありがとうー。また後でね、ルミナ」


名前を呼ぶと、胸の奥で小さな灯がともる。

孤独を裂いた夜の光が、確かに自分の心に刻まれていた。

その背後、遠い通りに黒いハイエースが停まっていた。窓の奥で誰かが電話をしている。


「……対象に接触ありました。予定より前倒し。引き続き観測いたします」


携帯電話の赤いランプが、夜の闇でひっそりと点滅していた。


リアもルミナもまだ知らない。

運命の歯車が、大きく動き出したことを──。

次回 ☀️《第8話 公園の夜に潜む影》

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