☀️《第6話 夜に咲く再会》
朝、窓の隙間から射し込む淡い光で目を覚ましたリアは、布団の中でしばらく動けずにいた。
昨夜の恐怖はまだ少し胸に残っている。
けれど、それ以上に、助けに現れた青い髪の少女の姿が何度も脳裏に浮かんだ。
街灯に照らされる横顔、冷たい声、その奥に潜んでいた優しさ。
胸の奥がなんだか少しだけ熱くなる。
机に向かい、ノートを開く。
《今日もがんばる( ̄▽ ̄)》
そう書き足して、ペンを置いた。
ふと手首に残る赤い跡に目を落とす。
冷却スプレーの冷たさと、その上から触れた彼女の手の温もりが蘇り、思わず名前を呟いた。
「……ルミナ」
──昼下がり、ダンススタジオへ向かう道。
昨日のことを忘れようと音楽を聴きながら歩いていた。
信号待ちをしていると、通りの向こうに黒のワンボックスの車が停まっているのが見えた。
窓の奥に人影。
ほんの一瞬、じっとこちらを見ている気がして、背筋がざわりとして心臓が跳ねる。
けれど次の瞬間、車は音もなく走り去ってしまった。
「……気のせい?」
そう自分に言い聞かせ、深呼吸して歩き出した。
そしてスタジオに到着すると、仲間たちは
「昨日のステージ最高だったよ!」
「リアの人気はやっぱハンパないよねぇ!」
「他の人とは歓声が違うし盛り上がりがヤバくない?」
そんな事を話しながら弾ませてくれた。
リアは笑顔で応えながらも、なぜか今日はリズムに乗り切れない。
孤独と不安がせめぎ合い、動きが空回りする。
照明の下で太陽のように輝く自分と、暗闇で震える自分。
その落差がますます大きく感じられた。
──その夜。
練習を終えた帰り道。
街を歩くリアの耳に、遠くから響くバイクの音に、リアの胸は不思議と高鳴り鼓動が速くなる。
振り返った路地に、青い髪が街灯に揺れていた。
「ルミナ!」
思わず声にして駆け寄ろうとすると、ルミナは片手を上げて制した。
「あら?あなた、リアじゃない!今日は練習帰り?今日もお疲れ様」
低い声、冷たい響き。
けれど、その瞳は昨夜よりも柔らかく、光を宿していた。
「うわぁ〜、スッゴいバイクだねぇ。おっきくて形もカッコいい!
あ、それから昨日は、本当にありがとう!改めてお礼が言いたかったんだぁ」
リアは深々と頭を下げた。
ルミナは少しだけ困ったように目を逸らし、煙草を口から外す。
「そんなの気にしないで。あんたが無事なら、それで十分。
そんな事より、昨日は近くに偶然、私がいて助けれたから良かったものの、私がいなかったら、あなたどうなってたか…。
夜はあそこらへんの近くとかスラム街のエリアに行っちゃダメよ!いい?わかった?」
その素っ気なさの中に大きな優しさを感じたリアの胸が熱くなる。
「はい…ごめんなさいm(._.)m
練習にはとてもいい場所だなーって思ったから、つい…」
リアはモジモジしながら下を向いたまま、そっと上目遣いでルミナを見た。
冷たい感じのようだけれど、ルミナは穏やかな顔で口角を上げ、リアを見つめている。
肩をすくめる仕草にその声音は昨夜の闇を裂いたときのように、どこか優しかった。
「ねぇ?」
リアがポツリとまた声をかける。
「昨日のあれ……すっごかった。だって、映画の中みたいに、全部の動きが綺麗で……。本当に、すごい。あんなに強いなんて、びっくりしたよ。何かやってるの? 格闘技とか?」
問いかけるリアに、ルミナは片眉を上げて小さく笑った。
「…別に。色々とね。あのくらいたいしたことないわよ」
それ以上は語らず、けれど声は柔らかかった。
その声の奥に、どこか重たい影があるのをリアは感じ取った。
「色々……?」
リアは首をかしげる。
「……ふふっ」
リアは思わず笑ってしまう。
「ん?なに?」
ルミナが眉をひそめる。
「だって、ツンツンしてるけど、本当は凄く優しいなぁって思ったから」
一瞬、ルミナの足が止まる。
彼女は視線をそらして鼻で笑った。
「あなたってほんと不思議よね、ったく…」
リアはその言葉に、温かくなる。
ツンとした態度の奥で、確かに目には見えない温かい優しさがあると感じられたから。
ルミナはバイクをその場所に置き、二人は並んで再び歩き出した。
夜風が吹き抜け、信号の赤がふたりの影を路面に落とす。
リアは小さく呟いた。
「……私ね、太陽って言われるけど、本当は夜の方が好きなんだ。静かで、孤独になっちゃうけど、心が落ち着くから」
ルミナは少しだけ横目でリアを見て、口元をわずかにゆがめる。
「ふ〜ん……そうなの?太陽の女神なのに昼間じゃなくて、夜が好きなんて面白いじゃない。ふふっ」
その言葉にはからかい半分、興味半分が混じっていた。
リアは顔をうつむき、両手でイチゴミルクの空パックを握りしめる。
途中の自販機の前でルミナが立ち止まり、午後の紅茶を二本買った。
「リアって甘いのが好きなんだよね?ほらミルクティー」
一本をリアに差し出す。
「え?どうして私が甘いの好きなの、知ってるの?」
リアは不思議そうにルミナの方を見た。
「さぁ…なんでだろ…私もそれはわからないけど、なぜかそんな感じがしたのよね。甘いの好きでしょ?」
ルミナは口角を上げ、優しく聞いてきた。
その一瞬の仕草に、リアの頬が熱くなる。
ツンとした態度の裏に隠れていた優しさが、心に沁み込んでいった。
ペットボトルの温もりが手のひらに広がる。
リアは胸がいっぱいになり、ペットボトルを抱きしめるようにして歩き出した。
「ねぇ、また会えるかな……?」
ふと漏れた声は、夜風にさらわれそうなほど小さかった。
バイクに跨る前、ルミナはリアの髪を指で軽く整えてやった。
「風で髪が乱れてる。……ほら、これで大丈夫」
リアは一瞬、鼓動が跳ね上がって、言葉が喉でつっかえた。
ルミナは少しだけ間を置いてから、半キャップのヘルメットをかぶりながら答えた。
「リア、明日の予定は? あんたが時間あるなら明日、一緒にカフェでも行く?」
リアは目を丸くして頷いた。
「うん!行きたい!明日、空いてる。ってか空けるもん」
ルミナの口元には確かに笑みが浮かんでいた。
「じゃー夕方はどぉ?夕方の5時にカフェ・アイリーンで待ち合わせにしよっか。それじゃ私いくよ、これからみんなと待ち合わせなの。じゃーまた明日ね」
ルミナが一言、言うとエンジンをかけ、轟音とともに夜の街へ走り去っていく。
取り残されたリアは、遠ざかっていくテールランプを見つめていた。
胸の鼓動は恐怖ではなく、初めて芽生えた不思議な熱に支配されていた。
赤信号で止まるとバイクに跨ったルミナがちらりとリアを見る。
そして信号が青に変わるとエンジン音が夜を震わせ走り出す。
その時、数台のバイクが合流して後ろに続き、ルミナを先頭に走り去っていく。
「……ルミナ」
名前を呼ぶと、胸の奥で小さな灯がともる。
孤独を裂いた夜の光が、確かに自分の心に刻まれていた。
ふと遠くの交差点に、黒塗りのベンツのセダンが停まっているのが見えた。
二度見したときには、もう消えていた。
「……まただ……ほんとに気のせい?」
呟きながらも、リアは直感していた。
この夜から、自分の運命が変わり始めている…
そんな感じがしていた。
月と太陽。
全く正反対のようで、切っても切れない存在としてどこか似ている部分がある。
夜風が頬を撫でる。
だけど胸の奥のざわめきは消えず、同時に青い髪の温もりが深く刻まれていた。
その夜、二人の距離はほんの少しだけ近づいた。
けれど、お互いの秘密はまだ語られないまま。
その沈黙の裏側に、大きな真実が眠っていることを、この時まだリアは知らなかった。
月と太陽。
決して交わらないようでいて、どこか似ている二人。
リアはまだ知らない。
自分の運命が大きく動き始めていることを。
そして、青い髪の少女との出会いが、人生を変えるほど大切なものになることを。
次回、☀️《第7話 秘密の序章(太陽と月が交わる時間)》
物語はさらに動き出します。




