↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PROJECT♾️HEART-X─その涙に宿る心と絆─  作者: 陽月勝也
【第二章: ◇─ 蒼月の伝説・空白の五年─ 】       ─鋼の心が人間の鼓動を取り戻すまで─               ─ LUNAEDGE編          
43/45

◇《第40話 青いオメガの鼓動》


ズドオオオオオオオオン!!!


粉塵が舞い、血を流して倒れたエリサを見下ろし、巨人カルマ・オベリスクは残されたムツミへと矛先を向けた。


動かなくなったエリサへ追い打ちをかけるように、再びその巨大な拳を高く振り上げる。


《SACRIFICE:ONE》


深紅の刻印が不気味に明滅する。

ムツミは絶望に叫び、逃げることすらできない。

誰も逃げられない死の秒針が、容赦なく振り下ろされる──!


「っだああああああああ!!!!!!」


……その瞬間だった。


空気が『ピシッ』と微かに揺れ、空間がごく小さく歪んだ。


バチッ!!


処理遅延を起こしたかのように、不可解な『1秒のズレ』が生じる。

ほんのわずか、巨人の拳の軌道がぐにゃりと曲がった。

そのあり得ない隙を見逃さず、砂煙と血の匂いの中から、アサヒとヨシマサが瀕死の体で飛びかかった!


ズザッ!!


血を滴らせながら、ヨシマサが倒れているエリサの身体を抱き寄せ、アサヒがムツミをかばうように転がり込む。

巨人のトドメの拳は虚しく床を砕き、凄まじい爆風がホールを吹き荒れた。


「……なんだ?…今、何か曲がった……?」


視界が一瞬だけノイズに覆われ、あり得ない角度に逸れた巨人の腕。

満身創痍の彼らには、なぜ攻撃が逸れたのか理由が分からない。

誰も言葉にできない違和感だけが、ホールの隅に薄く残っていた。




───────────────────


(別視点:イヨナのいるスカイ・カジノVIP管理室)



「……くっ……!ここまで侵入が強化されてるなんて……!」


カッ、カッ、カッ!


イヨナの指先がキーボードの上で目にも留まらぬ速さで激しく叩かれる。


挿絵(By みてみん)


スカイ・カジノの管理端末の裏回線へ強引にハッキングをかけ、汗が一粒、頬を伝って落ちた。



「1秒……1秒だけなら……これだけあれば十分。私でもなんとか手を伸ばせる。だけど、これが限界……エリサ……死ぬんじゃないわよ……!」


イヨナが組み込んだ処理遅延により、映像の中でカルマの拳の軌道がぐにゃりとズレる。


イヨナの1秒の救助。



「さあ……今のうちに逃げなさい」


端末を閉じかけるイヨナの瞳に、冷たい警戒が走る。


「誰が迷宮に触ってるの…私の上にいるの…?」


イヨナの支配すら超える権限レベル10……知らない誰かが、この迷宮に触っている…。


イヨナの瞳は、優しさと哀しさが混ざった色に揺れていた。



エリサ達には何も届かない。

届くのは——

ただ 奇妙な揺らぎだけだった。



───────────────────



直撃を免れた凄まじい衝撃波が床を砕き、地響きがホール全体を襲う。


突き飛ばされて倒れ込んだムツミは、荒い息を吐きながら自分の体を確かめた。


「……はぁ……はぁ……生き、て……る……?」



ヨシマサが、胸に抱いたエリサへ叫ぶ。


「エリサっ!!無事か!?」



呼吸は乱れ、腕は震え、両目が揺れている。

エリサは、土壇場で意識をなんとか取り戻した。


「……バカ…何してんのよ。私が犠牲になれば、あなた達は助かって先に進めたのに……でも…助けて……くれてありがとう……だけど…このままじゃみんなヤられてしまう……もうダメだわ…」



「エリサ!!エリサぁ!!」


ヨシマサの叫びが、巨人の咆哮にかき消される。


ムツミは泣き叫び、

アサヒは血を滴らせながら立とうとして倒れる。


B班、完全崩壊。



しかし絶望のピークは終わらない。

誰一人動けない。


巨人カルマ・オベリスクがゆっくりと身体の形が変化していく。

皮膚が裂け、内部の紅蓮の骨格が露出した。


《SACRIFICE:FAILED

PROCESS:EXECUTION》


処刑モード。


挿絵(By みてみん)


もう、終わりの文字しか見えない状態だった。


エリサはもはや動く力もない。


ムツミは崩れ落ち、タカは失神、

アサヒもヨシマサも満身創痍。


救える者が、もうこの場にいない。

巨人が、最後の一撃を振り上げた。

ムツミは絶望の声で叫んだ。


「もう…ダメ……助けて!!お願い……誰か……」


その叫びがホールに木霊した瞬間――


ゴッ……!!


重い足音が響き、全員の耳に届く。

全員が顔を上げる。

巨人さえ、一瞬動きを止めた。


暗い通路の奥から、ゆっくりと歩いてくる影がひとつ。


風が吹き抜け、砂埃が舞う。

青い光でも稲妻でもなく、ただ圧倒的な存在感。


ムツミが泣きながら呟く。


「……あのシルエット……あの影……」


アサヒの瞳が見開く。


「きた!…」


ヨシマサは、エリサを抱きしめたまま今にも気を失いそうだ。

「……遅ぇよ……ルミナ……!」


怒りと覚悟の月影の天使が降臨する。


影が光へ溶けていく。

細い身体。

肩までのグラデーションの群青色の片流しボブ。

片耳のピアスが揺れ、

紫の瞳が、巨人を睨みつける。


ルミナがゆっくりと歩み出て、倒れた仲間全員を見渡した。

泣き崩れているムツミ。

壁を背に倒れているタカ。

血だらけのアサヒとヨシマサ。

自由を失い、ボロボロになり横たわるエリサ。


「……ル、ルミナ……?ほんとに……?」


ルミナはゆっくりと膝をつき、

ムツミの目線の高さまで降りて優しく微笑んだ。


「ムツミ。無事でよかった」


その一言で、

ムツミの目から堰を切ったように涙があふれた。


「うぅ……ルミナぁ……!

やっと……やっと来てくれたぁ……!!」


泣きながら、ムツミはルミナに抱きついた。



「よく頑張ったわね。よく生きててくれた……。

あなたたちが無事で本当に……よかった。」


ルミナの安堵の言葉の後に、ムツミは涙を拭いながら、叫ぶように語り出した。


「エリサが……あたしを庇って……!

死ぬ覚悟で前に出て……!

みんなを守ろうとして……!!

あたし……何もできなくて……っ!!」


その言葉を聞いた瞬間、

ルミナの表情が一瞬だけ揺れた。


(……エリサが、ムツミを?

みんなを……ここまで導いて……守って……?)


ゆっくり立ち上がると、

ルミナは倒れているエリサのもとへ歩く。


ヨシマサは、エリサを抱きかかえたまま動けない状態だった。


「ルミナ……っ……エリサ……もう限界で……

でも……最後までみんなを……守って……!」


ルミナはそっとエリサを受け取り、両腕で大切に抱き上げた。

ルミナの胸がきゅっと締めつけられる。

エリサの体から、ムツミや仲間を守ろうとした強い意志の熱量が、微かに伝わってくる。

ルミナがエリサを抱き起こした瞬間、

エリサのまぶたがわずかに震えた。


「……来たのね……ルミナ……」


弱い声。

でもその中に、いつもの気高い気品があった。


「まったく……来るの遅いのよ……

あなたが遅いから……くたびれて眠くなっちゃったじゃない……」


ルミナの胸がきゅっと締めつけられる。


「エリサ……!」


エリサは苦しい呼吸の合間に微笑んだ。


「……でも……よかった……みんな……あなたが絶対に来るって、あなたのこと……信じてたから……」


そして、その微笑みがほんの一瞬だけ途切れる。


「……やくにたてなくて、ごめんね……もう私は……ダメみたい…………。」


その言葉を最後に完全に意識を失った。

ルミナは震える腕で彼女を抱きしめる。

ルミナの目に、深い敬意と悲しみが宿る。


「……エリサ。あなた、本当に……強かったのね。」


ホールの空気が変わる。

巨人カルマの目がルミナたちをじっと見つめていた。

ルミナはゆっくりとエリサをヨシマサへ渡す。


「ヨシマサ……お願い。エリサを頼むわ。絶対に離さないで。」


ヨシマサは血だらけになりながらも頷く。


「……当たり前だ、任せろ……!」


ルミナは次にユーキを見た。


「ユーキ。あなたもムツミを守りながら、アサヒとタカを起こせるだけ起こして。ここからは……私が全部片付けるわ。」



ユーキは拳を強く握りしめ、ルミナにまっすぐ頷いた。


「……わかった」


(な、なんだ、ルミナがいつもと違う…まるで何かがのり移ったような)


ユーキはふと、地面に目を落とす。

巨体の拳が直撃した場所の近くに、微かに電子的な焼き付きの痕があるのを見つけた。


(気のせいか?いや…一瞬、このホールのシステムが外部から干渉されたようなノイズが走った…)


ルミナの紫の瞳が、

ゆっくりとカルマ・オベリスクへ向けられる。


呼吸が荒くなり、拳が震える。

そして静かに呟く。


「……こんなに傷だらけになるまで……

あんた達、よく生きててくれたわね……」


巨人が咆哮する。

だがルミナは一歩も引かない。

代わりに、地面を踏み鳴らした。


ドンッ!!!


その瞬間、ホールの空気が震えた。

怒りでも憎悪でもない。

仲間を守れなかった自分への悔しさ。

ルミナの声は低く、震えていた。


「ねぇ……あんたがやったの…」


カルマの全身から、灼熱の気配が立ち上る。


ルミナが一歩踏み出す。


挿絵(By みてみん)


踏み出すたびに床石がヒビ割れ、風が吹き抜ける。


「さぁ……今度は私が相手になるわ。

ここからは……私とあなたの一対一よ」


ルミナは拳を握り、姿勢を低くする。


挿絵(By みてみん)


カルマが咆哮し、地面が揺れた瞬間、ルミナが走り出した。


ガアアアアン!!


挿絵(By みてみん)


ルミナの飛び蹴りは、カルマの紅蓮の骨格が露出した胸部へと一直線に叩き込まれた。


細身の脚から放たれた衝撃は、ホール全体を軋ませるほどの音速の砲弾となり、カルマをわずかに仰け反らせる。


「グアァァッ!」


カルマ・オベリスクは激昂し、3メートルの巨体を捻り、建物が倒壊するに等しい拳をルミナめがけて振り抜いた。


ズドオオオンッ!!


ルミナはそれを、紙一重でかわす!

彼女の髪の毛が、拳の風圧で一瞬逆立つ。

かわされた拳が床を砕き、赤黒い岩盤を粉々に吹き飛ばした。

次の瞬間、ルミナは崩れゆく壁を蹴り上げ、垂直に加速!

天井へ向かって凄まじい勢いで駆け上がり、光の残像を残しながら空中へ跳躍した。


「う、うそ……飛んだ……!?」


挿絵(By みてみん)


ムツミが叫んだ。

ルミナは空中で体を一回転させ、全身のバネを指先に集約。

カルマの頭上から、彗星が落ちるような派手な空中殺法(エアリアル・アタック)を放つ!


挿絵(By みてみん)


キィィィン!!


カルマはそれを、両腕の石の鎧でガード!

拳が接触した一点から、ホール全体に金属が裂けるような甲高い振動音が響き渡った。

カルマの巨体が半歩沈み込み、その衝撃で、周囲の空気は熱されたガラスのように揺れる。


しかしカルマも即座に反撃。

ガードの反動を利用して、ルミナの着地地点に灼熱の掌底を叩きつけた。


ルミナは着地の瞬間に地面をスケートするように滑り込み、間一髪でその攻撃をかわす。

掌底が空を切った場所は、黒い痕を残した。


その信じられない光景を、その場にいた誰もが、ただ見つめることしかできなかった。


誰も声を上げられない。

彼らの肉体は恐怖で固まり、同時にそのあまりの美しさに魅入られていた。

瀕死のヨシマサは、血を吐きながらもエリサを抱きしめた腕だけは離さなかった。


「…あれが、ルミナか……なんてやつだ…」


ヨシマサは目の前の異次元の戦闘から目が離せなかった。

血だらけで壁にもたれていたアサヒが、かすれた声で呟く。


「駄目だ。あの二人のいる空間は……次元が違いすぎる。まるで時間の流れさえ……異なってるみたいだ」



ルミナとカルマ。

その攻防は、一秒間に十数手が繰り広げられる、もはや人間業では理解不能な領域に突入していた。

ムツミは顔を覆っていた手を離し、涙をぬぐった。

目の前で繰り広げられる、理不尽なまでの暴力と、それに対する圧倒的な光。


「でも……ルミナは負けない……」


ユーキは、倒れているエリサやムツミたちを守るように背中を向けながら、戦いの光景を一瞬だけ振り返る。


「…なんて闘いだ…!」


ユーキが守る背中のマキは、痛む足首を抱えながらも、瞳だけは戦場を追っていた。


「ルミナ……頑張って……!私たち、ちゃんと生きてるから……!ルミナなら、あんな奴に絶対に負けないんだから……!」


彼女たちの言葉は届かない。

だが、ルミナは無意識に、背後の仲間たちからの生きてるという強い意志を力に変えていた。


ルミナは、息一つ乱すことなくカルマと距離を取り、再び姿勢を低くする。



ルミナ vs カルマ。


挿絵(By みてみん)


互角の最終決戦が今、幕をあけた。



─────────────────────


(スカイ・カジノVIP管理室)



イヨナは、裏回線から盗み見ているホールの監視映像に釘付けになっていた。

彼女の表情は、驚きと動揺で固まっている。


「嘘でしょ……今の、物理法則を完全に無視した軌道修正だわ……。私が与えたのはたった1秒の処理遅延だけよ……それなのに、彼女はもう、私の介入とは無関係に、次元の壁を蹴ってる……?」


彼女がルミナの動きを分析しようとキーボードを叩くが、ルミナの動きが早すぎて、解析プログラムがフリーズしてしまう。


「これが、『蒼月のルミナ』……。彼女の強さは、データや方程式では計測できない……?

絶対に殺されちゃダメよ、蒼月の仔猫ちゃん」


イヨナは、静かにモニタを見つめていた。


「……レイト。あなたが守ろうとしたもの……私は、絶対に失わせない。私も守ってみせるわ!」


それは、誰にも聞かせない誓いだった。

第40話をご愛読いただきありがとうございました!


仲間たちの想いを背負い、カルマ・オベリスクと異次元の激闘を繰り広げるルミナ!

カジノの裏で密かにルミナたちをサポートしていたイヨナ。

彼女が背負っていた悲壮な覚悟と、隠された真実とは──?


そしてVIP管理室のイヨナに【最悪の危機】が迫っていた……。


忍び寄る卑劣な悪意。

絶体絶命のイヨナ。

誰も予想できない41話のラストを楽しみにしていてください!!


次回

《PROJECT∞HEART-X 第41話》

( ── LUNAEDGE編 第17話:信念が、神を殴る音)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。