◇《第38話 深淵の真実 ― 信頼を賭けたステージ》
A班─
ルミナ達はクリスタルメイズに向かって歩きだしていた。
ルミナたちは、いつのまにか息を飲むほど冷たい暗闇の中へ再び投げ出された。
光が消えているわけではない。
むしろ、まるで見えてはいけない部分だけが照らされているようだった。
足元から、黒い靄が立ち上る。
マキが腕を掴んでくる。
「ルミナ……ここ……なんか……さっきのとこより怖いかも……もうやだ…」
ユーキは無言で、壁に触れた。
「……冷たくない……?壁、何かの『肌』みたいで……」
ルミナもすぐ気づいた。
壁は石ではなく、
吸い込まれるような『柔らかい』感触。
(この質感……生き物……?いや違う……何かの幻覚かもしれない)
そのとき。
ポト……ン…
天井から、何かが落ちる音。
見上げた瞬間、マキが悲鳴をあげた。
「な、なにあれ……っ!!」
天井に、真っ黒な人影が逆さまに張りついている
目も口もなく、ただこちらを向いている。
そして、その影が動いた。
『ルミナと同じ髪型』
『同じ身長』
『同じ姿勢』
それは本物のルミナとまったく同じ姿をしている。
だが、表情が違った。
泣いているが涙の形をしていない。
黒い液体が、ぽたぽたと床に落ちている。
ユーキが震える声で言う。
「なんなんだこれ…生きてる……!」
ルミナは見つめ返し、息を呑んだ。
黒いルミナの影は、口がないはずなのに言葉を発した。
『……私を、ひとりにしないで……』
『……たすけて……』
耳元で囁かれた。
それは、ルミナが誰にも見せなかった心の闇を具現化していた。
マキはパニックになり、ルミナの背中にしがみついた。
「ちょっ……今の聞こえた!?聞こえたよね!?えっ嘘でしょ無理無理無理……!」
ルミナは呼吸を整えながら、影の動きを観察する。
(……違う。これは私じゃない。私がまだ気づいていない、最も深い恐怖の形……?)
影がふっと消えた次の瞬間、マキの足を『何か』が強烈に掴む!
マキが悲鳴を上げた。
「きゃああああああああ!!!!」
ユーキが叫ぶ。
「マキ!!下だ!!」
足元の黒い靄が渦を巻き、何本もの腕のような影がマキの足を絡めとっている。
ルミナが飛び込んでマキを抱き寄せ、影の腕を蹴り払いながら叫んだ。
「マキ!!大丈夫? くっ……しつこい影ね……!」
影はしつこく絡みつき、マキの足首に黒い焼け跡のような痕を残して引いていった。
ルミナは歯を食いしばった。
マキは震えながら泣き出す。
「ルミナ……怖い……痛い……っ」
ルミナは優しくマキの頭を押さえた。
「大丈夫よ。マキ!落ち着いて。私が守ってあげるから」
そのとき、空間全体が揺れた。
影のルミナが、彼女の真横に立っていた。
まるで鏡から抜け出してきたように自然に。
ユーキが声を失う。
「嘘だろ……おいおい、本物そっくりじゃん……」
影のルミナは、音もなくルミナの顔に触るように手を伸ばす。
指先は黒い煙のようにゆらぎながら。
ルミナは一歩前へ出た。
「あなた……私をどうしたいの?」
影は答えない。
ただ、ルミナの顔を模した空白の仮面のような表情でゆっくりと微笑んだ。
その瞬間、マキの背後で、また黒い手が伸びる。
ルミナが叫んだ。
「マキ!!後ろ!危ないから私から絶対に離れちゃダメ!!」
影ルミナが、口のない顔で囁く。
『……まもれなかったくせに……』
ルミナの胸が一瞬痛んだ。
その動揺を、影は見逃さなかった。
(違う。これは私の記憶じゃない。でも『私が恐れる形』をしている……)
影ルミナが両腕を広げ、周囲の闇が一気に形を持ち始める。
無数の『過去の戦闘影』
無数の『失敗した未来像』
無数の『誰かを救えなかったルミナの姿』
そしてそのすべてが『ルミナを責める声』を上げた。
『どうして助けてくれなかったの?』
『あなたは強いのに。救えるのに。』
『その力、何のために使うの?』
『あなたは、誰も救えない。』
マキが耳を塞いで泣き叫ぶ。
「もうやめて!!こんなのルミナじゃない!!」
その瞬間、マキの意識が、影のルミナの囁きに引き込まれる。
景色がねじ曲がり、幻覚(裏切りの会話)がマキの瞳に映る!
ユーキも歯を食いしばって立ち上がる。
「ルミナ……これ全部嘘だ!!!」
「あんたたちは、私じゃない!!砕け散りなさい!」
ルミナが拳を振り下ろすと、紫色の光を帯びたような衝撃が床に走り、影の軍勢が悲鳴を上げながら粉々に砕け散った。
影ルミナだけが残り、そして最後にもう一度だけ囁いた。
『……じゃあ、証明してみせて。』
そして霧のように消えた。
暗闇の奥に、青い光が灯る。
「……そうね。」
その声は震えていなかった。
紫の瞳が燃える。
「私は全部は救えない。私は完璧じゃない。だけど…
それでも私にとって大事な人は私は命に変えても守るわ!」
影たちが一斉に震え、形を崩した。
そしてルミナが前を向いた。
(……これは誰が作った影?私の心?…それとも──)
深淵の闇が、静かに裂けて次の道を開いた。
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エリサ側B班
色の空間が静かに沈黙を取り戻したその瞬間、
照明が一度だけ『バチッ』と弾け、空間全体の空気が変わった。
一歩踏み入れた瞬間、
空気が皮膚の下に入り込むような『圧』が彼らを包んだ。
アサヒが息を吐く。
「……なんとか、くぐり抜けたな。」
タカとヨシマサはもう膝に手をつきながら肩で呼吸している。
「はぁ……はぁ……絶対寿命縮んだ……」
「オレ、いま死んだ親父に手振られた気がしたわ……」
ムツミは放心し、エリサの腕に寄りかかる。
「……もう怖いのイヤ……(泣)」
エリサはムツミを支えながら、
壊れた巨大時計の歯車がゆっくり動きを止めていくのを見つめた。
「まだ終わってないの。この部屋を出れば……必ず次の鍵があるはずよ。」
そのときだった。
ギ……ギィ……ギギ……!
重い機械仕掛けの扉が、鈍い音を立てた。
まるで『意志を持つもの』のように、ゆっくり開き始める。
エリサは深呼吸し、額の汗を拭う。
アサヒが警戒して前へ出た。
「……おい、今の……自動じゃねぇよな?」
薄く開いた扉の向こうから、
『息を呑むほど冷たい空気』が流れ込んだ。
ムツミが泣きそうになりながら立ち上がる。
「もう帰るルート……ないの……?」
アサヒが肩をすくめた。
「どう見ても一本道だ。戻れる気配、ゼロだな。」
エリサは眉をひそめる。
「……進むしかないわね。次のステージの鍵は、この先にある。」
(温度……下がった?こんな演出、イヨナらしくない……)
エリサは静かに扉の向こうに足を踏み出すと、
その瞬間、空気が変わった。
冷たく重たい湿った闇が皮膚に触れる。
照明は消え、薄暗い紫色の導光ラインだけが
一本道の廊下を奥へ奥へと誘うように伸びている。
アサヒが眉をひそめた。
「……おい、なんだこの空気。
さっきまでの機械仕掛けの感じと違うぞ。」
扉の向こうは、まるで洞窟のように暗い。
ただ一本だけ、紫色の導光ラインが床に沿って奥へと伸びている。
ムツミが震えながら呟く。
「……これ、絶対行っちゃいけない道でしょ……ホラー映画の入り口じゃん……ヤダヤダヤダ……」
ヨシマサが、ふと足元の床を見て気づいた。
「なぁ……これ、見ろよ。床の模様、動いてねぇか……?」
床に黒い染みのような模様。
エリサの眉がぴくりと動いた。
「……影の動きが自然じゃない。
光源が一定なのに、影だけが揺れてる……?」
そう言われて皆が足元を見ると、そこには異様な『影』があった。
だが光源と無関係に、ゆらりゆらり……と、まるで呼吸する生き物のように揺れている。
タカが青ざめた顔で言いながら後ずさる。
「これ、生き物じゃ……ねぇよな?」
アサヒが目を細め、静かに言った。
「……影に見えるが……形が変わってる。まるで、オレらを見て笑ってるみたいだ。」
その瞬間。
廊下の奥から、音がした。
ポト……ン……
確かに奥の闇から水滴の音がした。
でも、この空間に水はない。
なのに、水音だけが濡れていて遠くで誰かが泣いているような、湿った響きを持っていた。
そこに、床の奥から黒い靄が立ち上っている。
ムツミがガタガタ震え出した。
「え!?ななななに!?これまた絶対やばいやつ!!
誰かいるの!?ねぇ!!返事しないで!!(泣)」
タカが思わずムツミの肩を掴んだ。
「落ち着けって!!ここで叫んでも何も変わらねぇ!!」
「ひっ……ひいいいい……ムリムリムリムリ……!
帰る!!もうイヤァァァ!!」
靄は生きているように広がり、
青白い扉の形をつくった。
エリサがムツミを抱き寄せた。
エリサの表情が固くなる。
「……心理干渉……幻覚……精神攻撃型のステージ……もしかしたらルミナ達にも同じ仕掛けが発動しているのかも…」
アサヒが目を丸くする。
「え?ルミナたちも……?」
エリサは硬く頷いた。
「ここから先は、敵よりも……自分自身の恐怖や記憶のほうが危険になるかも。覚悟して。」
アサヒが深く息を吐いた。
「……行くしかねぇな。」
タカは無理やり笑顔を作った。
「よし……覚悟決めた。どうせ帰れねぇしな……!」
ムツミは完全に泣きながら、エリサのドレスを掴んで離さない。
「絶対離れないからね……!?怖いよぉ……!(泣)」
エリサは一度だけ後ろを振り返り、仲間全員を確かめるようにゆっくり頷いた。
そして、ムツミの頭にそっと手を置いた。
そしてエリサは背筋を伸ばし、一歩前に出た。
廊下の奥のパネルが淡く光る。
エリサは振り返り、ほんの一瞬だけ、恐怖に震える仲間達を見つめた。
「覚悟はいいかしら? 私たちは絶対に、ここを突破するわよ」
エリサ率いるB班の影が、紫の導光ラインに沿って、闇の奥へ立ち止まることなく、ゆっくりと吸い込まれていった。
その先には、光のない黒い空間と、B班の最も深い恐怖を具現化しようとする誰かの囁き声が待っていた。
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VIP監視室。
赤く染まった監視室の中で、
イヨナは腕を組み、無数のモニターを睨みつけていた。
その瞳は、いつもの妖艶な微笑とは異なり、
冷たく鋭い分析者の光を宿している。
「……やっぱり、おかしい。」
イヨナは小さく呟いた。
モニターの一つには、
鉄の間で倒れているガルドの姿が映っている。
「そもそもガルドがなぜこんなとこに…
あんな殺意むき出しの戦闘用マシンの外部傭兵……
危なかったわ……。あんな危険な殺人ロボット…。エリサの機転をきかせた戦い方が成功したからよかったものの、下手したらあの子たちが、殺されちゃうじゃない……。これは、私の余興の範囲を超えているわ。
こんな残酷な事、いったい誰が…」
イヨナは椅子に腰掛け、脚を組んだ。
その指先でタブレット端末を滑らせ、迷宮システムの認証ログを確認する。
その瞬間、イヨナの視線が止まった。
【SYSTEM AUTHORITY:LEVEL 10(MAX)】
◆権限者:????
◆アクセス時間:イヨナの指示と同時刻
「……え?…」
イヨナは低く笑った。
(このシステムの最高絶対権限……レベル10(MAX)……!? 私の持つ権限(レベル8)すら軽々と上書きできる何者かがいる……そんなはず、ない。)
ノクターナの内部には、
イヨナ以外に迷宮システムを直接操作できる者はいないはずだった。
少なくともイヨナが知っている限りでは。
だがモニターのログには確かに、イヨナの支配を超える『LEVEL 10』が存在している。
イヨナの眉がピクリと動く。
「私の知らない誰かが……動いたということ?」
一人呟いたその声は、いつもの余裕も色香もなく、
ただ冷たい警戒だけを帯びていた。
その時、黒服の部下が震える声で報告する
「イヨナ様……ひ、ひとつご報告が……!」
「なにかしら?
そんなに怯えて報告するなんて、珍しいじゃない。」
イヨナは微笑むが、その微笑は目だけが笑っていない。
部下は喉を鳴らしながら言った。
「例の、人物が……評議会から…」
イヨナの視線が鋭くなる。
「……来たのね。」
「は、はい……!!
しかも今回は……直々に、視察をされるそうで……」
その瞬間、監視室の空気が凍りついた。
しかし、この時はまだ誰も知らない。
この先のステージには、すでに黒幕が送り込んだ別格の殺し屋マシンが潜んでいることを。
迷宮はイヨナの支配すら超え、
本当の檻へと変貌し始めていた。
次回
《PROJECT∞HEART-X 第39話》
( ── LUNAEDGE編 第15話:最終ステージ:地獄の番人カルマ・オベリスク》




