◇ 《第31話 ブラックキャットの夜の咆哮(真実の漏洩)》
──【LUNA EDGE ─ 頼れるまとめ役】
オレはアサヒ。
自己紹介か……。
こういうの、あんまり得意じゃねーんだけど、
オレのことを少しだけ話すな。
LUNA EDGEでは、みんなのまとめ役みたいなことをやってる。
困ってる仲間を見ると、どうしても放っておけねーんだ。
ケンカも嫌いじゃねぇ。
でも、それ以上にみんなと笑ってる時間のほうが好きだ。
あとは、本編を読めばオレのことも少しずつわかってくると思う。
それじゃ、行こうぜ!
「とりあえずオレらも何か食おう。腹減った」
合流したLUNA EDGEは、近くのハンバーガーショップで腹ごしらえを済ませた。
「とりあえずイヨナって情報屋の女を色んな人に聞いて回ったんだけど、誰も知らなかったからなぁ…そいつの居場所を最優先で掴まないと」
アサヒが手書きのメモを広げる。
そこには、古びたバーの名前が記されていた。
「『ブラックキャット』ここで大抵色んな情報を仕入れられるらしい。そこのマスターなら、イヨナの事を知っているかもしれない」
「じゃーそこも後で行くってことで、まずは泊まるとこなんとかしようよ」
マキが言い出した。
「確かに、まずは泊まるとこなんとかしないと」
結局、彼らはすぐ近くのシェアハウスに飛び込みで入り、全員分の部屋を確保できた。
そして夜22時を回った頃、LUNA EDGEのメンバーは、重低音のエンジン音とともに、アサヒが情報を掴んだブラックキャット というBARへと向かった
古びたビルの階段を上がる。
階段の踊り場で、黒猫が片目だけを光らせる古いネオンサインが、不吉に瞬いていた。
──BLACK CAT。
重いドアを開けると、ドアの鈴がかすかに鳴った。
──チリン。
その一音で、店内の視線がこちらを舐めるように
鈴の余韻に、ジャズと煙の膜が重なる。
店内は湿ったタバコの煙と、気だるいジャズが充満していた。
カウンターの奥、黒猫の影絵が壁に貼りついている。
細い目つきだけが、初めての客を値踏みしていた。
奥にはいくつかのボックス席があるだけの、いかにもトワイライトの闇が似合う空間だ。
LUNA EDGEのメンバーの存在は、すぐに店の空気を変えた。
特に、昼間の華やかなファッションに身を包んだルミナ、ムツミ、マキの三人は、店の男たちの欲望と警戒の入り混じった視線を一斉に集めた。
彼らはカウンターに席を取る。
ムツミとマキは慣れた様子で強い酒を注文するが、ルミナだけは、ツンとした態度でリンゴジュースを頼んだ。
そしてアサヒは、マスターに早速声をかけた。
「マスター、オレたちイヨナって情報屋の女を探してるんです。ご存知ないですか?」
アサヒが呟いた瞬間、奥のボックス席にいた黒い革ジャンの男たちが、不気味な笑みを浮かべなら威圧的に立ちはだかった。
「おや、珍しいお客さんだねぇ。ここらへんじゃ見ねぇ顔だ」
リーダー格の男が、アサヒの顔の横にタバコの煙を吐きかける。
「お前ら、情報屋を探してるって、一体何者だ?この街の事情にクビ突っ込むってことは、ヘイズの敵ってことでいいのか?」
ヘイズの名前が出た瞬間、店の空気が一気に凍り付いた。
アサヒが、静かにグラスをカウンターに置いて、その男の目を睨んだ。
「関係ねえ奴らは引っ込んでろ。オレたちの用事はテメーらじゃねぇ」
ユーキが、立ち上がり一歩前に出る。
その瞳には、隠しきれない怒りが燃えていた。
緊張は一気にヒートアップした。
「何だとガキが! 口だけは威勢がいいなぁ」
ルミナが、リンゴジュースのグラスを静かに置いて、椅子から立ちあがろうとした。
その時、アサヒが素早くルミナの肩を抑える。
「ルミナ。待て」
ヨシマサも、低い声でルミナに語りかけた。
「オレたち男の仕事だ。こんな奴らオレらで十分だ。お前たちは、ここでしばらくゆっくりしててくれ」
アサヒが、男たちを睨みつけ、冷たく言い放つ。
「おい。表に出ようぜ。店に迷惑かけたくねぇ」
男たちは嘲笑したが、この状況を一瞬で支配しようとするアサヒの迫力に、外へ出ることを選んだ。
四人の男たち、アサヒ、ヨシマサ、タカ、ユーキは、BARの外へと消えていった。
ルミナは、窓の外の闇へと消えた男たちにため息をついた。
「まったく。余計な手間をかけさせるわね」
しかし、その瞳の奥には、仲間への強い信頼が宿っている。
ルミナはため息をつきつつも、ムツミとマキはルミナのツンデレな気遣いに笑う。
「ま、男の意地ってやつでしょ。ルミナが本気出すまでもない相手だからいいんじゃない?」
ルミナは、窓の外の闇を見つめ、不敵に言った。
「ええ。せいぜい頑張りなさい。……危なくなったら、助けにいってあげるわ」
その言葉が風に溶けるかのように、外からは激しい打撃音と、男たちの唸り声が響き始めた。
男たちの喧嘩の音が遠ざかったバーのカウンターで、ムツミは勝負に出た。
「マスター、少しお話いいですか?私たち、イヨナという女性を探してるんです。彼女の居場所か、接触できる手がかりを知っているなら教えていただけませんか?」
マスターは、無関心な顔のまま、グラスを拭き続けるが、ムツミとマキの落ち着いた態度と、ルミナの底知れない冷たい目に、警戒心を抱く。
ルミナは、何も言わず、ただマスターを見つめていた。
男たちの激しい喧嘩の音が、時折、ドアの隙間から店内に響き渡る。
この静と動のコントラストの中、マスターは突き放すように口を開き始めた……。
「知らねぇな。ここは情報を売る場所じゃねぇ。それ飲んだらとっとと帰んな、お嬢ちゃんたち」
その瞬間、ルミナが静かに、リンゴジュースのグラスを握りしめた。
その淡い紫色の瞳は、マスターの奥底の警戒心を静かに見透かしていた。
無言の鋭い眼光。
ムツミとマキも息を呑むほどの静かな威圧感。
「あなたは知っているんでしょ?沈黙は、あなた自身を危険に晒すわ。身にならないわよ。とっとと知ってる事を話しなさい」
マスターは、ルミナの非人間的な冷気に息を詰まらせた。
彼女の非凡な存在感に、本能と勘が危険信号を鳴らしたようにマスターの額に、冷や汗が滲む。
彼は、ルミナが普段の人間の常識を超越した存在であること察した。
マスターは、観念したようにタバコに火をつけ、重い声で情報を吐き出した。
「イヨナなら今夜、旧市街のECLIPSEHALLにいる。
そこは、かつて黄金時代の舞台だったが、
今では光と闇が交わるネオンの残響に包まれた廃墟の場所だ」
ルミナはその言葉に目を細めた。
一方、アサヒたちは、バーの裏路地でヘイズの奴らと激しくぶつかっていた。
アサヒは、体術とスピードで相手を翻弄する。
ヨシマサは、巨体から繰り出される一撃で、チェーンを持った男を吹き飛ばす。
ユーキは、冷静な判断力とストリートで培った喧嘩慣れで、相手の隙を見逃さない。
「トワイライトのレベルなんて、所詮こんなもんか! オレたちの街の覚悟はテメーらとはデキが違うんだよ!」
タカが叫び、敵のリーダー格を地面に叩きつけた。
男たちの顔には、傷と血が滲んでいるが、瞳は勝利の熱で輝いていた。
彼らは、ルミナという圧倒的な強さを持つ存在の隣に立つため、自分たちの力と意地を示す必要があった。
男たちの激しい戦闘は、やがて短い叫び声と重い打撃音と共に静寂に変わった。
ルミナの淡い紫色の瞳が、一瞬、冷たく鋭い光を放った。
その時、バーのドアが勢いよく開き、男たちが満身創痍ながらも勝利の熱を纏って戻ってきた。
「ハッ!終わったぜ!あんな奴らオレたちの敵じゃねぇ!」
アサヒは、口の端を拭いながら勝利の笑みを浮かべる。
ユーキもヨシマサ、タカも多少の傷はあるものの、仲間としての絆を深めた熱を帯びていた。
ルミナは、立ち上がり、男たちの満身創痍の姿を見て、わずかに顔を歪めた。
「遅い!心配させないで!」
アサヒが笑い、ユーキはすぐにルミナたちの元へ駆け寄った。
そしてムツミが、マスターから聞き出した情報を手早く伝えた。
「イヨナは、旧市街のECLIPSEHALLの廃墟にいるって!」
その瞬間、ユーキの顔色が変わった。
エクリプス・ホール……そこは、ユウラが最後に目撃された場所だったからだ。
「なんだって?廃墟に……!ユウラの手がかりがあるかもしれない……!オレは今すぐ行きたい!」
「待てユーキ。落ち着け。廃墟か……イヨナって情報屋が廃墟……なんかちょっと怪しくないか」
アサヒの疑念は当然だった。
情報屋は大抵、安全な場所で取引をするものだ。
だが、ルミナは、淡い紫色の瞳を静かに閉じた。
そして、ルミナは微かな違和感を口にした。
「廃墟…おかしいわね。アサヒの言う通り、その場所は、違和感があるわ。それに私も胸がざわつかない。どこか引っかかる」
ルミナは冷たい目でマスターを見た。
ルミナの本能的な直感に、マキとムツミも警戒を強めた。
「ルミナがそう言うなら、罠の可能性が高いわね」
しかし、ユーキはユウラの手がかりに飛びつきたい一心で、冷静さを完全に失いかけていた。
「それでも、行くしかないでしょ!もしユウラの手がかりが。オレはそこに行く!」
アサヒは、ルミナの正確な直感とユーキの焦燥に挟まれ、顔を渋らせる。
ユーキはなりふり構わず店を出て、夜のトワイライト・メトロポリスの闇へと消えていった。
「おい、待てユーキ!」
タカとヨシマサが止めるが、恋人のユウラへの想いに突き動かされたユーキには、何も聞こえていない。
「ちょっと…ルミナ、どうする?」
マキが焦り気味で言ってくる。
ムツミも心配そうにルミナを見つめた。
「もぉー……しょうがないわね……そのECLIPSEHALLってとこに行ってみるしかないわね。ユーキを、1人にしたら、後で面倒なことになるじゃない」
『危ないから』ではなく、『面倒だから』という、ルミナらしいツンデレな理由。
だが、その瞳の奥には、仲間を見捨てない強い情熱が燃えていた。
アサヒ、ムツミ、マキ、タカ、ヨシマサ、全員が罠と知りつつ、ただ一人の仲間のために動くことを選んだ。
そして、ルミナはカウンター席に座ったまま手に顎を乗せ、上目遣いで見上げるように静かに話しかけた。
「ねぇ?マスターさん、もしその情報、嘘だったら、どうなるかわかってるわよね?」
鋭く、冷たさの極致にある淡い紫色の瞳は、昼間のショッピングしてた時の柔らかい顔がまるで嘘のように感じるほど、別人の眼光を放っている。
マスターはその鋭い眼光に冷や汗を掻きはじめる。
(なんだ、この少女は……ほんとにただの女の子なのか…色んな人間を見てきたが、この子は何か違う…まだ高校生くらいか……なのに、まるで、何年も裏の世界、それかどこかの戦場で幾度となく修羅場を潜り抜けてきたような、そんな雰囲気すら感じさせる…)
そしてマスターは、ただならぬ恐怖を感じタバコを落とした。
その時、アサヒ、ムツミ、マキまでもが、ルミナの背後から放たれる『見えないオーラ』に、息を呑んでいた。
アサヒはルミナの底知れぬ威圧感とオーラを感じ取った。
(なんだ、この底知れないこの氷のように冷たいオーラは……。まるで、人間じゃない何かに変わっちまったみたいだ……!)
「マスター?この子の事、怒らせない方が身のためだと思うよぉ〜」
ムツミが囁くように言った。
「あ、あんたたちが行く場所は、あんたたち自身が蒔いた種だ。嘘じゃねぇ!だが、それが誰かの仕掛けた罠かどうかは、オレには関係ねぇ!」
マスターは、必死にそう言い訳したが、その顔は冷酷な報復を恐れる一般人そのものだった。
ルミナは、マスターの真実の恐怖を読み取り、静かにため息をついた。
「ふーん。罠ねぇ。そ…。今はこの店、お客は私達しかいないわね。最後にもう一度だけ聞くわ。イヨナはどこ?」
ルミナは、ニコッとしながら、もう一度問いただした。
ルミナは、目の前のカウンターに置かれたグラスに、そっと手を伸ばした。
彼女の淡い紫色の瞳は、マスターを真っ直ぐに見つめている。
その顔は、感情の抜け落ちた静かな笑顔だった。
「マスターさん?私は今、機嫌が悪いの。わかるでしょ?だから早く教えてくれるかしら」
その声のトーンと顔の表情が、全く合っていないことが、マスターの心臓を鷲掴みにした。
マスターが震えながら口を開きかけた、その瞬間だった。
ルミナが握ったグラスから、パキッという、不自然な、硬質な音が響いた。
マスターも、カウンターの後ろに控えていたアサヒたちLUNA EDGEのメンバーも、その音に視線を集中させた。
ルミナは、一切力を込めている様子はない。
だが、彼女の素手の掌の中で、透明なグラスは亀裂が走り始めていた。
バリ、バリバリ……
亀裂は一瞬にして広がり、次の瞬間、ガラスは耐えきれずに、凄まじい音と共に、粉々に砕け散った。
破片はカウンターに散乱し、冷たい飲み物が、ルミナの指から血のように滴り落ちる。
ルミナは痛みを感じている素振りすら見せない。
ただ、砕けたガラスを握ったまま、マスターを見つめ続けた。
アサヒ、タカ、ヨシマサは、その異様な光景に息を呑み、微動だにできず、顔は青ざめていた。
ヨシマサに至っては、その異質な力に思わず放心状態になっていた。
しかし、ムツミとマキは、淡々としていた。
「マスター、この子のこと、怒らせない方が身のためだよって忠告してあげたのにぃー!」
マキが、まるで常識を語るように、冷めた口調でマスターにため息まじりで言った。
マスターは、底知れぬ恐怖を感じ取り観念した。
「くっ…わ、わかったよ…だが、オレが教えた情報は、イヨナが誰かに教えるために、イヨナ本人が自らワザと流したブラフの情報だ!
数少ないオレを含めた誰かがもし、しゃべってしまうってのを想定しての事だろう。『エクリプス・ホール』は罠だ!イヨナは今頃『スカイ・カジノ』の裏手にあるプライベート・サロンにいるはずだ!普段からよくそこにいる。この街の富豪や大物が集まる、最も安全で、最も危険でもある場所だ。オレが知ってるのはそれくらいだ。本当だ。信じてくれ。……だが、そこには色んな奴らがいる!あんたら、命を惜しむなら……」
ルミナはマスターの言葉を遮った。
「ありがとう、助かったわ、マスターさん。これで面倒なことにならずに済むわ。安心して。ちゃんと『偽の情報に騙された』ってことにしてあげるから」
淡い紫色の瞳が満足げな光を宿し、一瞬で穏やかな表情に戻った。
そして、ルミナは小さな声で、しかし慈悲深く続けた。
ルミナは、カウンターに身を乗り出した。
「私達は、ユーキを助けにエクリプスホールに今からいくの。だから、あなたは、嘘の情報をちゃんと伝えた。これであなたは本当の事をしゃべったって報復を受ける事はないわ。ね?いい?」
ルミナの淡い紫色の瞳が、マスターの命綱を握っていることを静かに伝える。
マスターはゆっくりと頷き、安堵で疲れたようにタバコに火をつけルミナを真っ直ぐに見た。
ルミナは、リンゴジュースとマキとムツミの飲んだ代金の合計額をカウンターに置き、仲間たちに振り返った。
「さあ、突っ走って行ってしまった誰かさんを助けに、今から罠に突っ込みましょう」
ルミナ達は店のドアを開け外に出た。
チリン!
戻ってきたドアの鈴が、低く鳴り黒猫は見送るだけだ。
ルミナの号令に、アサヒたちは緊張を解かれた。
ムツミとマキはルミナの優しさを見て、誇らしげに頷いた。
「やっぱりルミナの直感は正しかった!アサヒたち呆然としてる暇ないわよ!ユーキがヤバいんだから!ムツミ、ルミナを乗せて先行して。廃墟のホールまで飛ばすしかないわ!」
「うん!行こうルミナ。掴まって!」
バイクのエンジン音が、再び夜のトワイライト・メトロポリスに響き渡る。
ルミナはムツミのバイクの後ろに乗りながら夜空を切り裂くネオンを睨みつける。
(罠と本命の二段構え……なかなかやるわね、イヨナ。
だけど、ユーキ……。あなたの焦燥は、私の過去の悲鳴に似ている気がする)
(……レイト。あなたは誰なの……? どうして私の心は、こんなにもあなたを求めているの……?)
LUNA EDGEは、夜の蒼月の閃光となり、仲間の危機と運命の罠が待つ『エクリプス・ホール』へと、猛スピードで突入していく。
淡い紫色の瞳の奥には、思い出せない大切な2人の記憶の断片が、まるで高速回転するフィルムのように流れていた。
次回
《PROJECT∞HEART-X 第32話》
( ── LUNAEDGE編 第8話:エクリプス・ホールの閃光》




