◇《第30話 運命の断片(Fragments of Destiny)》
──【LUNA EDGE ─月影の天使・蒼月】
私はルミナ。
自己紹介なんて、あまり得意じゃないんだけど……。
少しだけ、私のことを話すわね。
今はLUNA EDGEのリーダーをやってる。
……って言っても、本当はみんなに押し切られて、気づいたらいつのまにかなってた感じなんだけど。
私、人付き合いはあまり得意な方じゃない。
でも、一度仲間になった人は絶対に見捨てない。
私ね、夜の街をバイクで走るのが好きなの。
だけど、それ以上にみんなと笑って過ごす時間が好き。
私のことは、本編を読めば少しずつわかってくれると思う。
……焦らなくていいわ。
そのうち、きっとね。
……それじゃ、また本編で。
メンバーは一度パーキングで休憩を取り再び出発する。
ルミナは、ムツミが運転するバイクの後ろで、間もなく明ける朝焼けの空に溶ける群青の髪を風になびかせていた。
夜明け前の港に、低いエンジン音が響く。
潮の匂いと、夜明け前の冷たい風。
ルミナはヘルメットを手に取り、雲一つない空を見上げる。
彼女の群青の髪は、まるで夜明け前の空を切り取ったようだ。
その瞳には、もう過去への逡巡はない。
あるのは、失った記憶を埋めるという、抗いがたい運命を受け入れた者の冷たい覚悟だ。
アサヒ、ムツミ、マキ、ユーキ、タカ、ヨシマサ──そしてルミナ。
新調された群青のラインステッカーが陽光を反射し、彼らを一つに繋がれた蒼き翼として輝かせた。
「行こうぜ。トワイライト・メトロポリスの深淵へ。レイトの兄貴はきっといる。」
アサヒの言葉に、ムツミが力強くエンジンを吹かす。
地響きのような唸りをあげた6台のハーレーが、一斉に夜明けの静寂を切り裂いた。
「行くわよ、みんな。」
そしてルミナの号令と共に6台のバイクが一斉に動き出す。
──LUNA EDGE──
目的地は超巨大都市、トワイライト・メトロポリス。
港の道を抜け、朝焼けを背に、海沿いの道をひたすら走る。
車列のルミナを乗せたムツミが先頭で走りルミナの髪が、風に揺れる。
その横顔は強く、けれどどこか切なげだった。
(この胸の痛み……なんなの……?知らないはずの誰かを、ずっと……魂ごと探してる気がする……)
心臓の鼓動が速くなるたび、記憶の奥の空白が軋むように痛んだ。
海沿いの道に響くバイクの重低音は、彼らが裏の世界に挑む魂の叫びだった。
(この胸のざわめき……たぶん、恐怖じゃない。これは、私の半分を取り戻せる予感。運命の鎖が、私を呼んでいる)
シーサイド・ゲートウェイを抜け、そこからまたひたすら走り抜ける。
そしてしばらくして彼らの走る遥か先に、無数の高層ビルが並ぶ大都会が見えてきた。
途中何回かパーキングエリアに止まったりした。
────────────────────
そして正午、トワイライト・メトロポリスに到着する。
排気ガスが混じり合い、空気すら重く、澱んでいる。
「やっぱスゲー大都会だなぁ。何回か来てるけど、何度来ても圧倒されるなぁ。このトワイライトの大都会はよ」
ヨシマサの声には、興奮と同時に抗いがたい警戒の色が滲む。
「この街に、レイトの兄貴はいる。かつてサウス・ベイサイドタウンを守った、伝説の守護者だ」
ルミナの胸の奥が、説明のできない鋭い痛みでチリッと疼いた。
「変な感じ。その名前を聞くだけで、心の奥が締め付けられる…」
ムツミが地図アプリを見ながら言う。
「こっちの外れに知り合いのセレクトショップと修理屋がある。そこらへんなら少し知ってるからそこを拠点にするのが安全かも。近くにホテルもあるし」
アサヒが頷き、バイクをそちらへ向ける。
街の入り口を抜けると、通りの片隅で黒いスーツの男たちが何かを取引していた。
その視線が、一瞬ルミナを捉える。
敵意ではない、ただ、あの頃を思い出す。
施設から出る少し前と、施設を出たばかりの頃、誰かと荷物運びや何かの取り引きを教えてもらい、お金を稼いでいた。
そして、そのお金は大切な誰かの為に稼いでいた記憶がよぎる。
だけど、それが誰なのか全く思い出せない。
ルミナの胸が、また強烈にざわめいた。
(……この感覚……過去の私の日常? 心臓が、勝手にその場を知っていると叫んでいる……)
アサヒの視線がふと、ルミナの背中に向く。
その瞳には、ほんの少しの不安があった。
(ルミナ……。レイトの兄貴の名前を聞いた時のお前の顔と反応…忘れられねぇんだ。まるで、魂ごと揺れてるみたいだった。レイトの兄貴を知ってるのか…レイトの兄貴と何があったんだ…)
マキが呟く。
「昼も夜も区別のない眠らない大都会の街。ここって、あの大財閥ヴェスパーグループの本邸があるのよね。私たち、完全にアウェイだわ」
街の雰囲気は、サウス・ベイサイドタウンとは全く違う。
動くのは夜からと決め、彼らは女性グループと男性グループの二手に分かれた。
そして、ルミナたち女の子グループは……
「ねぇルミナ、あの新作の口紅、絶対似合うって!」
「このデニム、細く見える!」
そして、ルミナたち女の子グループは一瞬でショッピング・モードへと切り替わった。
トワイライト・メトロポリスの中心街。
煌めくネオンが反射するウィンドウには、最新のトレンドが並ぶ。
「ルミナ!ちょっと見て!あのグラデーション・リップ、今めっちゃバズってるやつ!」
ムツミが、最新コスメショップのテスターコーナーに駆け寄る。
ルミナの群青の瞳が、色とりどりのパレットにわずかな好奇心を映した。
「ムツミ、それよりもこっち!ヴェスパー・コレクションの新作よ!」
マキは、ストリート系ブランドの店内で、大胆なカッティングのデニムを手に取る。
「ねぇルミナ、これ履いてみてよ。ルミナのパーフェクト・スタイルなら、絶対カッコよく着こなせるって!」
マキが新作のデニムのショーパンとカーディガンを持ってきた。
ルミナはこれ履くの?とツンとした顔をしながらも、マキに促されるまま試着室へ。
カーテンが開いた瞬間、細く長い脚を際立たせた姿のルミナに、ムツミとマキから悲鳴のような歓声が上がる。
「ヤバい、完璧! さっき店員さんにしてもらったメイクにこの服装、ルミナ脚長くて綺麗だからやっぱ似合うわ!」
「月影の天使も、たまには最新トレンドに染まらなきゃね!」
ルミナは、試着室の鏡の中で、知らない自分を見ていた。
レイトを探すという重い使命を忘れ、キャミソールの光沢やリップの質感に夢中になる普通の女の子の自分。
しばし目的を忘れ、普通の女の子に戻ってコスメや洋服を楽しむ3人組。
その一瞬の笑顔は、彼女が失ったはずの日常の断片のように輝いた。
一方、アサヒたちは、裏社会の鍵を握る美女、イヨナを探すのに難航していた。
シニヨンのグレーブラウンのロングヘアー、白皙の肌に、黒のタイトスーツを纏った彼女は、気品と冷艶さを漂わせる表から裏社会まで詳しいカリスマ情報屋との事だ。
「探すって言ってもなんのツテもないし、どこにいるのかもわからないんじゃ、探しようなくないか?」
タカが諦めを滲ませた声で呟くと、ヨシマサも途方に暮れたように呟きながら自販機の前でしゃがみ込んだ。
「クソッ。シニヨンのグレーブラウンのロングヘアーに黒のタイトスーツ、気品と冷艶さを漂わせるカリスマ情報屋なんて、簡単に見つけられるくらい目立ちそうなもんだが……」
アサヒは、苛立ちを隠せない。
イヨナは今のよそ者のアサヒ達からしたら鍵となる人物なのだが、その居場所はまったく掴めていない。
ユーキが、アサヒの肩を叩き、一つの案を出した。
「アサヒさん、昼間は難しいかもですよ。ああいう大物情報屋は、夜になって動き出すんじゃないですかね。トワイライト・メトロポリスの裏社会は、日没後に脈動するとか」
「なるほど。そうか……」
アサヒは、腕時計を確認する。
まだ昼の3時過ぎで太陽も高い。
仕方なく彼らは、昼間は寂れた路地裏でバイクのメンテナンスをしたり、街をプラプラしながら時間を持て余した。
ルミナたちが華やかなショッピングを楽しんでいるとは知らず、排気ガスの匂いと徒労感に包まれたまま、ただ夜の気配が満ちるのを待った。
そして夕刻。
男たちの空腹と不満は、もはやピークに達していた。
「おい、ところで女連中はどこにいるんだ?もうすぐ夜7時になるってのになんの連絡もないぞ」
アサヒが吐き捨てるように言うと、タカが溜め息をつく。
「ま、いつものことだろ。ルミナはともかく、マキもムツミも、一度スイッチが入ったら止まらないタイプだし……」
そんな話をしながらしばらく歩いて時間を潰そうとする男性陣。
すると彼らの目の前に、煌びやかなイタリアンレストランが現れた。
賑やかな声と、香ばしいガーリックの香りが漂ってくる。
「うわぁ、腹減ったなぁ。美味そう……」
タカが空腹でヨダレを垂らしそうになりながら、ガラス張りの店内を覗き込む。
「腹減った……」
ヨシマサも弱々しい声で呟いた。
その瞬間、アサヒの目が、店内の奥で華やかに笑い合う3人の女性に釘付けになった。
「……ん?…おい、待てよ。あれって……」
そこにいたのは、昼間とは全く異なる、まるで別人のような三人の女メンバーたちだった。
最新のカーディガンに身を包み、完璧なメイクを施したルミナが、パスタをフォークに巻きつけながら、ムツミとマキと優雅に食事を楽しんでいる。
その横顔は、いつものストイックな『月影の天使』とはかけ離れた、ただのご機嫌な女の子だ。
ムツミとマキも、それぞれトレンドを押さえたファッションで、デザートのシェアに夢中になっている。
「って、おい……あいつらじゃねーか!!」
アサヒの叫びが響き渡る。
ユーキもタカも、呆然とした顔で店内を見つめている。
「な、なんだよ、あの服装!?さっきと全然違うし、ルミナまであんな格好して、一体何してんだよ。しかもメイクもバッチリじゃねーか(笑)!」
男たちの疲労と空腹は、一瞬で驚きとツッコミに変わった。
彼らが埃まみれの作業服で時間を持て余していた間に、LUNA EDGEの女の子たちは、トワイライト・メトロポリスの昼を完全にエンジョイしていたのだ。
店内を覗き込む男たちに、ムツミとマキが気づいた。
ムツミはパスタを口に入れかけたフォークを止め、手をヒラヒラと振る。
マキはニヤリと笑い、デザート皿を指さして『おいしいよ!』と口パクで挑発した。
やがて、店の自動ドアが開き、三人はショッピングバッグをぶら下げて、華やかに外に出てきた。
「あ、みんな、見て見てー」
ムツミとマキが、ルミナを真ん中に押し出す。
ルミナは、最新ファッションに身を包んでいた。
スタイル抜群の脚を際立たせる、ぴっちりとしたショートパンツに、華奢なヒールサンダル。
昼間のライダースーツとは対照的な、可愛いカーディガンを着こなしている。
その横に並ぶムツミとマキが得意満面だ。
「可愛いでしょー!これ、ルミナにサプライズでコーディネートしてあげたの!
ルミナのツンなところと、天然な可愛さ、両方表現してみたんだよ!」
マキとムツミが興奮気味にルミナを称える。
ルミナ自身は少し居心地が悪そうにしているが、満更でもない顔をしているのは明らかだ。
アサヒは、あまりの落差と空腹で、顔を引きつらせた。
「は、はいはい……可愛いですよ! とてもかわいいですよ!月影の天使にふさわしいイメチェンですね!」
タカとヨシマサも、半ば棒立ちだ。
「だーけーどね!自分たちばっかり美味いもん食って、オシャレして、一体何してくれてんねん(笑)! オレたちは後でみんなでなんか食おうと思ってたから、なんも食ってねーつうのに」
アサヒの切実な抗議に、ムツミは全く悪びれずに言い放った。
「しょうがないじゃない。トワイライト・メトロポリスに来たんだから、情報収集と同じくらい、新しいトレンド収集も大事なんだからね!」
マキが、ルミナに顔を寄せながら、秘密を暴露するかのように付け加える。
「それに、ルミナがね?『お腹が空くと、頭が働かない』って可愛く駄々こねたから、ルミナにそんなこと言われたら断れるわけないじゃなーい。だから仕方なくパスタ食べさせてたのよー!」
マキはムフフと言いながら得意気に言った。
「ルミナ、お前!!」
男たちの視線が、一斉にルミナに突き刺さる。
ルミナは視線から逃れるように、さっと顔を横に向けた。
「えっ…ちょっ…私、そんな事、ひと言も…」
顔を赤らめながら、小さな声でそう言い訳するルミナを見て、男たちは、怒る気力さえ失った。
「……はぁ。何となく想像つくよ…ルミナもムツミとマキに連れ回されてたんだな…女性陣の方々が楽しかったんならそれでいいんですよボクたちは。トホホ…」
男性陣は口を揃えて、空腹を優しさで包んだ。
指揮を取るのはアサヒ、そしてリーダーはルミナだが、
結局、LUNA EDGEの主導権は、ムツミとマキの2人が握っているのだ(笑)
アサヒ、ヨシマサ、タカ、ユーキは空腹を抱えたまま、呆れたような、しかし優しい笑みを浮かべた。
LUNA EDGEのトワイライト・メトロポリスでの始まりは熱い覚悟……
………
ではなく、このホワホワした日常のギャップから幕を開けるのだった。
だが、この穏やかな昼の裏で、トワイライトの闇は、静かに牙を研いでいた。
次回
《PROJECT∞HEART-X 第31話》
( ── LUNAEDGE編 第7話:ブラックキャットの夜の咆哮(真実の漏洩)》




