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PROJECT♾️HEART-X─その涙に宿る心と絆─  作者: 陽月勝也
【第二章: ◇─ 蒼月の伝説・空白の五年─ 】       ─鋼の心が人間の鼓動を取り戻すまで─               ─ LUNAEDGE編          
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◇ 《第29話 蒼き影の囁き(Whisper of Blue)》


港の風がやわらかく吹き抜ける。

あのノワールの日からしばらくして、街は嵐の前の静けさのように、再び騒がしさを取り戻していた。


廃倉庫を改装したアジトの中には、笑い声とエンジンの音。

アサヒとムツミがバイクの整備をしながら冗談を言い合い、マキは雑誌を読みながらコスメの話をしている。

そして、ルミナは窓辺で小さな観葉植物に水をやっていた。


「……変な感じね。こんなに静かなのに、心の中だけがざわざわしてる」


ルミナはぽつりと呟いた。


それを見て、ムツミが声をかけた。


「ルミナ。無理してない?顔色ちょっと悪いよ」


「平気。……そんなに繊細じゃないわ」


ツンとした口調だったが、その声はどこか遠くを見ていた。


あの夜…。


クロウが最後に残した運命の鍵。

この街で最強を謳っていた男、レイト。

それが何を意味していたのか。


けれど、あの時から胸の奥がずっと熱さで疼いている。

ルミナがその想いを押し殺すように息を吐いたとき、

アサヒが工具を置いて、ふと口を開いた。



「そういえばさ…」


その声に、場の空気が一瞬で引き締まる。


「この前、街の仲間が言ってたんだけど……レイトの兄貴を見たらしい。」


一瞬、ルミナの動きが止まった。

心臓の鼓動が一拍遅れて、鈍く響く。


「……レイト?」


小さくその名を口にすると、音の響きが胸に刺さる。

聴いたことがあるはずのない名前なのに、やっぱりどこか懐かしい音がした。

切なさが込み上げ、涙が出そうになる。


アサヒは頷きながら続けた。


「そう。昔から面倒見てくれた先輩でさ。この街にいた今や伝説の人さ。

でも2年前、この街から急に姿を消して、それっきりだったんだよ」


マキが顔を上げる。


「あ、その名前聞いた事ある。この街でメッチャ有名だった人だよね? たった一人で一つのチームを壊滅させたとか、スラム街の中で生きてきたとか、聞いた事あるわ。その人が戻ってきたの?」


「いや、この街じゃなくて、見たのは『トワイライト・メトロポリス』で見たらしいんだ」


アサヒの声には、半信半疑ながらもわずかな興奮が混ざっていた。

だが、ルミナだけは静かだった。

胸の奥で、失われた記憶の扉が静かに鳴り始めている。

それは、遠い夢の中で聴いた運命の名前の残響のようだった。


「……その人、どんな人だったの?」


ルミナはできるだけ無関心を装って聞いた。

アサヒは少し考えてから答える。


「う〜ん、そうだなぁ…気難しいとこもあったけど、正義感が強くて誇り高い人だった。もちろんメチャクチャ強いってのは当然あるんだけど、どんなにとんでもない事が起きても必ずなんとかしてくれるって思わせてくれるような…

そんな不思議な気持ちにさせてくれる人なんだ。

弱い奴を見捨てられない性格でな。……不思議と、そういうところとかルミナとそっくりな気がする」


その言葉に、ルミナは何も言えなかった。

胸の奥で、記憶の扉が激しく軋む音がした。


(……私と似てる?)


誰かの眩しい笑顔。

差し伸べられた温かい手。

そして、光の中で見た、世界の全てだったはずの背中。


だけど、それ以上は思い出せない。

頭の奥で何かがノイズのように途切れた。

ムツミが心配そうに覗き込む。


「ルミナ?どうしたの?」


「……なんでもない。ただ、少し……疲れただけ」


ルミナは立ち上がり、アジトの屋上に向かった。


夜の風が頬を撫でる。

港沿いの街灯が、波に反射して滲んで見えたのは、涙のせいだった。

足音が静かに孤独に響く。

ルミナはその場にしゃがみ込んだ。

そして彼女は小さく呟いた。


「レイト……。どうして、その名前……胸が痛くなるの……?」


「運命なんて、信じたくない。

でも…どうして、その名前を聞いただけで、涙が出そうになるの……?

……知らないはずの名前なのに、どうして……こんなに、懐かしいの。」


その声は風に溶け、遠くの海へと流れていった。

夜空を見上げると透き通ったような月光が、彼女の横顔を淡く照らす。

そして、その夜、蒼月の運命が再び動き出した。


彼女がアジトへ戻ろうと踵を返したその時、屋上の鉄階段からアサヒが上がってきた。


「やっぱり、ここにいたか」


アサヒは、ルミナの濡れた瞳に気づかないふりをして、そっと隣に寄りかかる。


「レイトの兄貴の話、聞いただろ。オレらは本気で探したいんだ。何があったのかわからないけど、あの人の事だ。きっと何か理由があるに違いない」


ルミナは、胸に刺さったレイトという名の痛みを隠すように、冷たく答えた。


「勝手にすれば。私には関係ないわ」


「そう言うなよ。……ルミナ。レイトの兄貴はな、トワイライト・メトロポリスのデカい闇を追ってた。このサウス・ベイサイドタウンにまで手を伸ばしてたらしい。それは巨大な組織だそうだ…もしかしたら兄貴が消えたのは、その闇に飲み込まれたからなのかもしれない」


アサヒは、拳を握りしめ、顔を歪めた。


「そして、あのノワールの件。多分あれは、トワイライト・メトロポリスから流れ込んできた小さな波に過ぎないと思う。このまま何もせずにいれば、きっともっと大きな波が来て、この街全体、そしてオレたちまで、全部飲み込まれる」


その時、ユーキが後ろから話しに割って入った。


「レイトさんの事だ。きっと何かあったのは間違いないと思う。もしかしたら妹のユウラの事で何かを掴んだのかもしれないです」


アサヒとルミナはユーキの方を見た。


「ユーキ、お前も何度も助けてもらったって言ってたな。それにユウラの事となると、お前も無視できねーもんな…。よし!一緒にレイトの兄貴探しに行くか!」


アサヒが力強く言い放った。


ユーキは拳を握りながらうなづいた。

その言葉が、ルミナの最後の防御壁を突き破った。


私には、関係ない!


そう言い切りたいのに、口は動かない。

仲間を守るという覚悟と、レイトという過去の残響。

二つの力が、ルミナをトワイライト・メトロポリスの巨大な闇へと引き寄せる。


「フンッ。だったら行くしかないわね。退屈は飽きたところよ」


ルミナは、不敵に笑い、夜空を見上げた。

その瞳の奥には、恐怖ではなく、抗えない衝動が燃えていた。


「いいわ。行きましょう。トワイライト・メトロポリスへ!」


(私も何か掴める気がするの。その巨大な闇が…そして、私の『失われた記憶の鍵』がね)


アサヒは、ルミナの戦う決意の炎を見て、息を飲んだ。

彼の瞳には、ルミナがレイトと同じ道を辿るのではないかという予感と不安が浮かんでいた。


その時、屋上のドアが勢いよく開いた。


「話は全部聞かせてもらったわよ」


ムツミが先頭に立ち、マキ、そしてヨシマサとタカも、夜風に吹かれて顔を覗かせた。

ムツミの手には、勝利の旗のように新しくデザインされたステッカーの束が握られている。


挿絵(By みてみん)


「トワイライト・メトロポリスの闇を追うんでしょ?どうせなら、とびっきり派手に、伝説を作って、トワイライトの連中をビビらせてあげなきゃね!」


マキがルミナの隣に駆け寄る。


「これ、私たち全員のバイク用に作ったの!蒼月の翼をイメージしたデザイン。ルミナをイメージして作ったのよ!ほら、どぉ?ルミナにぴったりでしょ?」


ステッカーには、夜空を切り裂くようなシャープな群青色のラインが描かれていた。

ルミナの瞳が、そのステッカーに釘付けになる。


「……馬鹿ね。こんな子供だましのシール」


ルミナはそう言ったが、その指先はステッカーの縁を、愛おしむようにそっと撫でた。

アサヒが笑いながらルミナの背中を叩く。


「ルミナ。言ったはずだ。次はオレたち全員が一緒だって。ただし、あそこはお前の力ですらどうにもならないかもしれない大都会の闇だ。オレたちは、『盾』にも『目』にもなる」

ヨシマサが、自身のハーレーのエンジン音を背に、熱い口調で続ける。

タカも、静かに頷き、その群青のステッカーを自分のバイクのタンクに貼る動作をした。


「このメンバーでトワイライトの街を走るんだ。もちろん、ルミナが先頭だ。オレたちはどこまでもついていく」


その言葉に、ルミナは不自然なほど静止した。


「……先頭? バイクで?私が?…」


ルミナの瞳が、僅かに戸惑いに揺れる。

ルミナはバイクの免許など持っていない。

超人的な反射神経はあっても、法律という名の壁は、今のルミナには超えられない。


「当たり前だろ!ルミナ、自分のバイクは家か?」


アサヒが言いかけた瞬間、ムツミが慌てて割って入った。


「はいストーップ! ルミナは、『ちょっと込み入った事情』があって、今、公道で運転できないの!だから、誰かのバイクの後ろに乗るってことになってんのよ!」


「ん?そうか。さては免停かなんかか?しょうがねーなぁ」


ヨシマサが仕方なさそうな顔をしている。


「そ、そうなのよ!この子、スピード狂だからさ」


ムツミはヨシマサたちの言葉に合わせて、必死に話を合わせた。

そして、ルミナだけに『話を合わせて!』と、コッソリ目配せを送る。



「え?込み入った事情?私が?そうなの?

なんかあったっけ?免停?……。ってか、なにそれ?」


ルミナはよく分からず、ポカンとしている。


ムツミがマキに目配せで合図すると、マキがニヤリと笑って、ムツミの背中を叩いた。


「そうそう!だから、ルミナは私かムツミとタンデムね!最新のコスメの話、道中いっぱいしてあげるわよ!」


ルミナは、この状況をどう説明すればいいのか分からなかったが、ムツミとマキが自分の「弱点(世間のルール)」を笑わずに、助けようとしていることだけは理解した。


ルミナは、目の前の仲間たちを見た。

その顔には、先程までルミナを蝕んでいた孤独と不安の影はなかった。

あるのは、ルミナへの絶対的な信頼と、仲間という名の『愛と絆』だった。

ルミナは一瞬、息を詰めた。

そして、小さく、しかし確かな声で言った。


「勝手に、ついてくれば」


そして、すぐに付け加えた。


「じゃー私が先頭をいくわ!!私を乗せた者が、先頭。それで決まりよ!さぁ行くわよー!」


その言葉は、ハーレー軍団のリーダーとして、仲間を率いる最初の『宣戦布告』となった。


この瞬間、LUNATIC(ルナティック)EDGE(エッジ)、通称『LUNA(ルナ) EDGE(エッジ)』が誕生した。


みんなテンションがあがって盛り上がっている。



それを離れた場所で見るムツミとマキが、ヒソヒソと話している。


「ルミナ、あの子…けっこうノせられやすいのねw。単純で可愛いくない?」


「うん…そうみたいね(笑)」


「あとさ…あの子、いつもツンとしてるけど、意外と天然よね…ヌケてるとこけっこうあるし(笑)」


「あ、マキもそれ思ってた?実はわたしも(笑)

意外とって言うか、かなり天然入ってると思う」


「それに、月影の天使って言うとさ、好きにすれば!とか、勝手に言ってれば!ってツンツンして言ってくるけど、ルミナ、その呼ばれ方、実はメッチャ気に入ってるよね(笑)」


「あ、わかるそれ!あの子、わかりやすいのよね…(笑)」


「さっきもステッカー見せた時、…馬鹿ね。こんな子供だましのシールとか言ってツンツンしてたけど、メッチャ目が輝いてたし(笑)」


「最強のツンデレだよね。ま、そこがルミナらしくて可愛いよね(笑)」


ムツミとマキはルミナを見て嬉しそうに微笑んでいた。


その日、アジトでは賑やかな笑い声が響いていた。

それは、仲間達との絆や愛という居場所をバイクという形で作り上げた、温かい友達の輪だった。


彼女の傍らにはもう、熱き絆で結ばれたLUNA EDGEの仲間たちがいる。

マキ、ムツミ、アサヒ、タカ、ヨシマサ、ユーキ、そしてルミナを含めた7人。


挿絵(By みてみん)


そして運命は、ルミナをトワイライト・メトロポリスの巨大な闇へと誘う。

月影の天使(エンジェル)・蒼月(アズールムーン)ルミナ率いる7人の群青の翼が、今、大都会の闇へと羽ばたこうとしていた。




次回

《PROJECT∞HEART-X 第30話》

( ── LUNAEDGE編 第6話:運命の断片(Fragments of Destiny)》


いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

現在は『LUNA EDGE(ルナエッジ)編』の第5話でもあり、

PROJECT∞HEART全体の29話です。


ついにルミナたちのグループ名『LUNA EDGE(ルナエッジ)』が誕生しました!


今はまだ免許はないけれど不敵に笑って「私が先頭(タンデム)よ!」と言い放つルミナと、そんな彼女の天然な可愛さまでまるごと受け入れた仲間たちの絆、楽しんでいただけてるでしょうか?


(実は裏での女子トークの通り、ルミナ本人は『月影の天使』という呼ばれ方をかなり気に入っているようですね……笑)


そして、クロウの口から飛び出した「レイト」という名前──。

記憶を失ったルミナの過去と、この世界の巨大な闇が、ついに交錯し始めます。

激動の新展開へ向けて、ルナエッジの7人はここから一体どんな道を歩んでいくのか……!?

続きもガシガシ更新していきますので、これからの展開もぜひお楽しみに!


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