↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PROJECT♾️HEART-X─その涙に宿る心と絆─  作者: 陽月勝也
【第二章: ◇─ 蒼月の伝説・空白の五年─ 】       ─鋼の心が人間の鼓動を取り戻すまで─               ─ LUNAEDGE編          
30/45

◇ 《第27話 蒼月の翼》


公園での衝撃的な会話から30分後、夜の街に数台のバイクのエンジン音が低く唸りを上げた。


「招集なんて間に合わねえ。こうやって待ってる間にもヨシマサやタカがどうなるかわからねぇ。行こうぜ、ユーキ」


血まみれのアサヒは、痛む腕を気にせず、ユーキのバイクの後ろに飛び乗った。

その顔は戦いの熱で紅潮している。


「アサヒ、待って!私たちも行くわよ!」


ムツミが、勢いよく駆け寄ってきた。

その後ろに、長身のマキが続く。

二人の顔には、恐怖よりも仲間への焦燥が勝っていた。


「いや、やっぱり来るな!お前たちには危険すぎるだろ!ノワールはヤバい奴らの集まりだ。それにお前たちは無関係だ!」


アサヒが叫ぶ。


「無関係なわけない!」


ムツミが声を荒げる。


「タカもヨシマサも仲間よ!仲間が危ない目にあってるのに、黙って見てるなんてできない!」


マキも頷き、冷たい決意を瞳に宿した。


「私たちも一緒に助けにいく!」


ルミナは、缶コーヒーを握りつぶしたばかりの冷たい指先をムツミの肩に置いた。


「ヤバくなったら、私がなんとかしてあげるから大丈夫よ」


ムツミとマキは、目の前の華奢な美少女が放った異様なほどの自信と冷酷な視線に、思わず息を飲んだ。

彼女の言葉は慰めではなく、絶対的な宣告だった。


「え……?」


ムツミが呆然とする。


「さっさと行きましょ。友達が危ないんでしょ?」


ルミナはツンと突き放すような口調でそう言うと、ムツミが運転するバイクの後部座席に、何の躊躇いもなく跨った。

バイクのライトが闇を裂く。

五つの影が一直線に伸びていく。

エンジンの唸りは、心臓の鼓動みたいだった。


「マキもムツミも、無茶だって!」


アサヒが叫ぶが、誰も止まらない。


「黙って見てられるわけない!」


ムツミの声が震える。

ルミナは後ろに乗りながら、ムツミのその小さな背中を見ていた。

震えながらも前を向くその姿に、かつての自分が重なる。

誰かを守るために、怖くても足を止めなかったあの日の自分。


「大丈夫。ヤバくなったら私がなんとかするから」


ルミナが低く言うと、ムツミが振り返りそうになった。


「……ほんとに……?」


ムツミがバックミラー越しにルミナを見つめる。


「なに?まだナンパされてただけの女が何言ってんだって言いたいの?まぁいいから、今は私を信じていて」


わずかに笑みを見せたルミナの髪が、夜風に流れる。

その瞬間、ムツミの心が少し軽くなった気がした。  


(…この子…なんか不思議。なんでだろう…初めて会ったのにこの子の一言がやけに安心感を生む)


ムツミのバイクが加速する。

風を切り裂く轟音が、ルミナの超聴覚に新しい刺激を与えた。


(このスピード……いいわね…)


ルミナの瞳には、路面の凹凸、エンジンのわずかな振動、そしてムツミの心拍数の変化までが、完璧にルミナは読み込んでいた。


群青の髪が夜風に靡く。

この疾走感が、彼女の心の欠落を一時的に満たしていくのを感じた。


この時、ルミナはバイクに興味を持つようになり、次第にバイク好きになっていく。


風が変わった。

夜の匂いが鉄と油に染まり、肺の奥が痛い。

この夜は、何かを失う夜だ。


工業地帯に近づくほど、街灯は減り、夜の色はインクが灰色に滲むように濃くなっていった。

空気は潮と油が混ざったような生臭さに変わり、犬の遠吠えが遠くから、そして不穏な低音となって響き、錆びた看板の軋みの音が響く。


挿絵(By みてみん)


そこに、廃工場の影が浮かび上がった。

目的地である旧製鉄所は、巨大なコンビナートの影に黒い塊となって佇んでいた。


崩れかけた鉄骨、殴り書きのような落書きが、この場所が暴力の支配下にあることを無言で示している。

ムツミがバイクを停め、ヘルメットを脱いだ。

その顔は恐怖で白く染まっている。


「完全に悪の巣って感じだね……。この辺一帯がノワールの縄張り。噂じゃ、ここでいつも集まってるって……」


シャッターの隙間から、内部の光が漏れている。

中には黒塗りの改造車やバイクが雑然と停められ、下品な笑い声とヒップホップの重低音が、周囲の静寂を食い破っていた。

火のついたドラム缶が薄暗い空間を赤く不気味に照らしていた。

中からはノワールの連中と思われる大人数の笑い声が聞こえてくる。


少し離れた工場の最奥に縛られて倒れてる2人が目に入る。タカとヨシマサが血に濡れた姿で、そこにいた。


ムツミが息をのむ。


「…あ、あそこにタカ!ヨシマサ!」


その声で全員の足が止まる。

アサヒが一歩前に出た。


「もう、行くしかねぇ!」


アサヒの叫びは、祈りにも似ていた!


その時、マキが廃工場の一角に、かすかな人影を感じた


「ちょっと待って!あっち! ねぇ、裏口の方に誰かがいる気がする」


マキはそちらへ足を踏み出し始めた。

ルミナはすぐに音をキャッチした。

間違いなく少なくても10人はいる。


「一人で行く気? 危ないでしょ!」


ルミナは、心配そうに眉をひそめた。


「で、でも…」


マキは焦って振り返る。


「私も一緒にいく。1人より2人の方が、心強いでしょ。じゃー私たちはこっちから行きましょう」


ルミナはそう言いながら少し遅れてマキの背中を追った。

ルミナは音もなく廃材の山を飛び越え、上から状況を眺める。


マキが恐る恐る裏口から倉庫の奥へと進むと

後ろから肩を掴まれた。


「おい!女がこんなとこで何してる?」


マキは振り向くとそこにはノワールと思われる男3人がいた。

マキは顔が青ざめた。


(しまった…見つかった…)


その時、上から音もなく1人の女がマキの前に着地した。

ルミナだ。

その瞬間、1人の懐に入り、下から上にめがけて顎に掌底が炸裂する。


そして瞬きをした一瞬で後ろに周り2人同時にそのまま関節技をかけた。

悲鳴を上げる暇もないほどの早技でさらに絞め技を繰り出し、口を抑え気絶させた。


「大丈夫?当分は目を覚めないからこのままにしておきましょ」


ツンとした感じでルミナが言う。


「えーーー、ちょっと待って!!今何したの?」


マキは恐怖と驚きが混ざった感じでアタフタしていた。


その時、マキの咄嗟に出た大きな声で何人もの奴らが群がってきた。


「誰だ?女が2人でこんなとこで何やってんだ!」


気づくと10人以上に囲まれている。


「ヤバっ!」


マキは口を押さえるが、もう遅い。



「おいおい、女が2人もいるぜ!こんなところで何してるんだ!」



ルミナは何も変わらず冷静なままだ。



──────────────────



一方、表の方では…

アサヒとユーキは、裏口の近くで見つかったタカとヨシマサを救出するため、ムツミと共に2人を担ぎ出した。


「タカ! ヨシマサ! 無事か!」



「アサヒ…来てくれたのか…だけど、もう無理だ…」


ヨシマサが絶望の顔で言う。

中に飛び込んだ瞬間、鉄の匂いが鼻を刺した。

暗闇の中で、笑い声が止む。


「誰だオメェら!」


ノワールのメンバーたちが、彼らの姿を不審なドラム缶の炎の光の中で捉えた。

数十人のノワールが、嘲笑と怒号を上げて包囲する。

アサヒとユーキは、ムツミとボロボロの二人を庇いながら、前に出た。


「クッ、見つかった…やるしかない!行くぞ、ユーキ!」


ユーキは、倒れたドラム缶の縁を蹴って跳躍し、二人の顔面に飛び蹴りを叩き込んだ。


「ムツミ!逃げろ!」


2人は飛び掛かっていく。


ガツン!ガツン!


アサヒとユーキは必死に抵抗しながら闘う。


アサヒは、苛烈な怒りを込めた拳で正面の男を吹き飛ばすが、すぐに背後から迫る複数の影に気づく。

彼は、脇腹に鉄パイプの一撃を受けながらも、決してムツミの方へは倒れなかった。


「うぉおおっ!」


二人の拳は怒りと意地に満ちていた。

彼らは、多勢に無勢という絶望的な状況下で、数秒を稼ぐためだけに、超えるべきではない限界を超えていた。

しかし、相手は組織的な暴力に慣れた集団だった。

ユーキの足が、鎖で絡め取られ、体勢を崩した瞬間に、鈍器が頭部を強打。

金属の重い音が響き、ユーキは口から血を吐いて倒れ込んだ。


「ユーキ!」


アサヒが叫び、救援に向かおうとしたその瞬間、死角から放たれた強力な蹴りが彼の腹部に深く突き刺さった。

ゴフッ。

アサヒは、激痛と衝撃で呼吸が止まり、膝から崩れ落ちた。

彼の意識が薄れていく中でも、どうする事もできなかった悔しさだけが、地を這う炎のように残った。


「アサヒ!ユーキ!」


ムツミが悲鳴を上げる。

タカとヨシマサは、地獄のような光景に悔しさと絶望で顔を歪ませたが、体は動かない。


ノワールの連中が、勝ち誇ったような笑い声を上げる。

ムツミは、恐怖で足が鉛のように重くなるのを感じた。


(もう終わりだ……)


ムツミの顔は真っ青だが、玉砕覚悟で、地面に落ちていた木の棒を拾い上げ、震える手で構えた。

ムツミが拾った木の棒は、絶望的なほどに細く、頼りなく見えた。

ノワールの幹部らしき男が、ニタリと口の端を吊り上げ、ムツミの目の前で、地面に転がったアサヒの腹部をブーツで軽く蹴った。


「姉ちゃん1人になっちゃったね。さぁどうする?へっへっへ」


勝ち誇った連中の笑い声が、廃工場の天井にエコーする。

ムツミの鼓動が、恐怖でノイズのように耳打った。

彼女の目の前には、闇しかなかった。

諦めが、喉元までせり上がってくる。


ノワールの奴らがムツミを囲い出し、ムツミにゆっくりと近づいた。


その時だった。

突如として、場を支配していた喧騒が、一瞬で消え去った。


燃えるドラム缶の炎を背に、信じられないほどの静寂を破って、何かが地面に着地する微かな音が闇の中に響いた。

誰も、その音の主を見ていない。

その時、ノワールの一人が裏口から駆け込んできて息を切らせて叫びながら飛び込んできた。


「ひぃいっ! 大変だ! 裏口の奴らが……裏口の奴らが、全員やられた…」


その戦慄の叫びに、ノワール全員の笑いが凍りついた。

そして、炎と闇の中から、二つの人影が姿を現す。

一人は、長身で呆然とした表情のマキ。


もう一人は、夜の闇よりも深いグラデーションの群青の髪を靡かせた、ルミナだった。

マキは、ルミナが裏口の十数人を瞬時にして叩き潰し、人間離れした強さを目の当たりにした後で、いまだに全身の力が抜けて放心状態だ。


ルミナの靴音が、コンクリートを叩く。

一歩、また一歩。

そのたびに、男たちの笑いが凍っていった。

ルミナは怯えきったムツミと、血まみれで倒れてるアサヒとユーキを見た。

その瞬間、氷のような淡い紫色の視線でノワールの連中を見据え、怒りで震える声を響かせた。


「あなたたち、もう謝っても許さないわ!」


その冷徹な怒りに、ノワールは一瞬たじろぐ。

そして、ノワールの数人がルミナを見て一瞬止まった。

群青の髪、見た目、その特徴を見るなり恐怖に怯え始めた。


「ちょっと待て、おい、こっちの女……間違いない。蒼月(アズールムーン)のルミナって呼ばれてる女だ……」


その戦慄の囁きが、廃工場に絶対的な沈黙を呼んだ。


「まさか、この女があの噂の『蒼月の処刑人』だと?」


ノワールは一瞬ひるんだ。


倒れていたアサヒの顔にニヤリとした笑みが浮かんだ。

ムツミ、ユーキ、タカ、ヨシマサは、目の前の少女が最近噂になってる伝説の存在だったという事実に、口をぽかんと開けたまま、動けなかった。


そしてノワールの1人の男が静寂を破った。


「たかがガキの女一人に何ビビッてんだ!殺っちまえ!」


幹部らしき男が叫び、一斉にノワールがルミナに向かって殺到した。


「下がってて!」


ルミナが前に出てマキに言う。

そして次の瞬間、光が走った。

ルミナの身体が宙を舞う。

壁を蹴り、回転し、足が弧を描く。

打撃音が続き、数秒後、全員が沈黙した。


ここでルミナの超人的な戦闘スキルが、怒りによって限界を超えて解放された。

彼女の動きは音速だ。


挿絵(By みてみん)


一瞬にして空間を把握し、壁を蹴って急上昇する壁走り。

そのまま壁を使って三角跳びをし、空中での連続バク宙から、その勢いのまま体を捻りネリチャギ(かかと落とし)をクリーンヒットさせ地面に叩きつける。

そのまま振り向いたと同時にその場を軸に上段、中段、下段のランダムの連続蹴りが何発も炸裂する。


「ヤァーーーーー!!」


(ズバンバンバンバンバンバン!ドッゴーン!!)


ルミナの連続蹴りは一気に三人を吹き飛ばした。

そして後ろにいた男の肩に手を乗せ、まるでそこが床のように勢いよく飛び、地面と垂直に逆立ちのような体勢へとなる。


「はーーーッ!」


そこから勢いよくそのまま遠心力を利用し、膝蹴りが炸裂した。

着地したと同時にに飛び上がり、ソバット(跳び後ろ回し蹴り)が複数の男の顎を打ち抜き、合気道の関節技でノワールを互いにぶつけ合わせた。

その姿は、まるで蒼い光の残像のようだ。

次から次へと男たちはバタバタと倒れていく。


「ま、マジかよ……」


ユーキが、絶望から解放された驚愕の声を絞り出した。


「な、なんなの……この子…」


煙の向こうで、マキが息を呑んだ。


「あの子、ホントに人間……?」


ムツミは、恐怖を通り越して涙が滲んだ。

ルミナは、怒りの炎を燃やしながら、ものの数分でその場にいた約20数人の全員を完膚なきまでに叩きのめした。


ドスッ、ドスッという鈍い音と共に、全員沈黙。


静寂の廃工場に、ルミナの荒い息遣いだけが響き渡った。


「ほー、噂の群青の女じゃねぇか。とんでもなく強いって噂は本当のようだな。

おい!蒼月(アズールムーン)の女。一匹狼って聞いてたがピンチの仲間を守るために助っ人に来たのか?」


挿絵(By みてみん)


1人の男が逆方向の奥からゆったりと歩いてくる。

この男の名はクロウと呼ばれている。

雰囲気からしてリーダーだとルミナは瞬時に見抜く。

その守ると言う言葉が胸を突いた。

昔の記憶が頭をよぎる。

過去に守ろうとして守れなかった誰かの顔。

ルミナの拳が震えた。


「…うるさい、黙ってて」


クロウは飄々と笑いながらタバコに火をつけた。

その瞳には、狂気的な戦意が宿っている。

ルミナとクロウの格闘が始まった。


火花が散り鎖が唸る。

ルミナがクロウの攻撃を受け止めた瞬間、腕に違和感を感じた。


(この男、靴に何か仕込んでる…言うだけあってなかなかやるじゃない)

 

クロウは痛みを無視した体当たりと狡猾な技で、ルミナに攻撃してきた。

生々しい打撃と、鉄パイプ、鎖の応酬。

二人の激突で廃工場は金属の悲鳴を上げ始めた。


「ルミナ!後ろ!」


地面からアサヒが叫ぶ。他のノワールが起き上がり、ルミナの背後を狙ったのだ。


「ムツミ、右側抑えて!」


マキが叫んだ。

ムツミは、恐怖を押し殺し、ルミナの右側からの敵を必死で牽制した。

マキとユーキも、倒れた鉄骨で盾を作り、ルミナの背中を守る。

タカとヨシマサも、声だけでルミナを鼓舞した。

ルミナは、仲間からの援護が自分の能力を最大限に引き出す力となることを知った。


(これが……誰かを守るということ)


次の瞬間、彼女の蹴りが火を裂いた。

ルミナは、クロウの鎖を弾き飛ばし、渾身の跳び回し蹴りを放った。


ドゴォン!!!


クロウが吹き飛び、鉄骨に叩きつけられ崩れ出した。

そしてそれがドラム缶から炎が勢いよく天井に広がり始めた。


「マズイ、逃げろッ!」


アサヒの声で全員が走る。

火の粉の中を、息を切らしながら。

ルミナは全員が出て行った後、クロウを担ぎ裏口から脱出した。


「なんて蹴りだ…あんな威力の蹴りをくらったのは初めてだ… …ガキの女とは思えねぇ。想像以上の強さだ…。……ククッ、まさか敵であるオレの命まで救うとはな。お前、とことん甘い奴だな……」



「人が死ぬのを見たくないだけよ。間も無く警察が来るわ。しばらく反省してなさい」 


ルミナはツンとして鋭い目で吐き捨てた。

 

「それにしてもお前、話しで聞いてた特徴がお前と似てるんだよな…」


「??何よそれ」



──────────────────




そして外に出た瞬間、倉庫は爆風と共に炎が夜を照らした。


遠くから数台のパトカーのサイレンの音が近づいてくる。

倒れ込んだムツミとマキが嗚咽を漏らした。


「ねぇ、あの子は?まさか、まだ火の中に…」


その時ルミナは後ろから彼女の肩に手を置いた。


「もう大丈夫。怖かったね。

ね、私の言う通り大丈夫だったでしょ?」


マキとムツミは振り向き、ルミナを見つめた。


逆光でルミナの姿が半分シルエットのように映る。

そしてニコッとした優しい笑顔がみんなの瞳に映った。


挿絵(By みてみん)


その優しく澄んだ瞳をして逆光で浮かぶシルエットのルミナの姿から『蒼月の処刑人』なんて言葉は一切出てこない。

その姿から仲間達の瞳にはまるで,月の影から現れた天使のように映っていた。


アサヒは、ルミナに缶コーヒーを投げ渡す。


「お前、マジで人間かよ……」


アサヒは、畏怖と信頼が混ざったような目でルミナを見た。


「でも、本当に助かった…ありがとうな」


ルミナは無言でそれを受け取り、一口飲んだ。


「冷めてるわね。せっかくくれたのに申し訳ないんだけど私、コーヒーよりオレンジジュースとかの方が好きなのよね」


アサヒが笑う。


「あれだけ強くてもやっぱり女の子なんだなぁ。じゃー次から用意しとく」


ルミナの不器用でツンデレなセリフに、極限状態を乗り越えた仲間たちから、心からの笑いが零れた。

夜が明ける前、潮風がさわやかに吹く。


ルミナの群青の髪が月光を反射する。

孤独な少女が、初めて『居場所』という名の温もりに触れた夜だった。


不器用な優しさが詰まった缶コーヒーは、温かい絆で満たされていた


ただその背中に、希望という文字が見えた気がした。


今回のこの出来事が、のちにルミナが月影の天使(エンジェル)と言われる発端となる。

次回

《PROJECT∞HEART-X 第28話》

( ── LUNAEDGE編 第4話:蒼月(アズール)の残響)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。